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(4)通信機の弱点

 しばらくして、通信機から声がした。

「イザベラかい?」

 変わらず優しい声のカインに、イザベラはほっとした。

「そうですわ、お兄様。ピンクブロンドの女に何もされてませんわよね?」

 ただの確認のつもりだったのに、その後沈黙が続いた。イザベラは母親と思わず顔を見合わせる。

「だ、大丈夫だ!あんな女に負ける僕ではないよ。」

「つまり、会ったんですのね?」

 やはりそうなったか。イザベラは唇を噛んだ。強制力とかいうのが働いてしまうと、前世で読んだ物語には書いてあった。おそらくこの後もピンクブロンド女には絡まれてしまうのだろう。

「敵を知らないと、戦い方も分からないだろう?彼女は魅了魔法が使えるることが分かったんだ。エミリア姉様の道具もあるけど、なるべく近寄らないように気をつけるよ。」

「あちらから近寄ってきますから難しいと思いますけれど……。好きになったりしないで下さいませね?」

 だが、なぜか返事がこない。

「何赤くなってんよ!?」

 エミリア姉様の声が小さく聞こえた。

「や、やきもちをやくイザベラが可愛すぎて……。」

「よく言うわ。もう少しであの女に魅了されていたくせに。」


 そんなことより、イザベラには急いでカインに伝えたい事があった。

「ところで兄様。王太子殿下はお元気でいらっしゃいますか?」

「王太子殿下?なんでそんなことを……」

 驚いた声が聞こえた直後、通信機の赤い光がピコンピコンと点滅し始めた。魔力が足りなくなった時は光が薄くなるのではなかったか。

「あ、言い忘れてた!この機械、時間制限があるの!」

「ええ?」

 横から入ってきたエミリアの発言にカインとイザベラの声が揃う。

「点滅し始めたら終わりの合図ね。次に赤い光がつくまでは使えないから。」

 なんだそれは。前世で見た怪獣と戦うヒーローかと思わず突っ込みたくなる。

「ちなみに次につくまでどのくらいかかりますの?お姉様。」

「3日かな。」


「使えませんわね!」

 思わずイザベラの口から本音が出てしまった。それなら手紙の方が速い。とりあえず、どうしても伝えたいことだけと、イザベラは早口で告げる。

「お兄様、『春のまどろみ』の解毒薬を作ってくださいませ!植物に詳しいお兄様ならできますわ!材料は……」

 同時にカインも何か話を始めた。

「これから入学式なんだ。王太子のことは調べてみるから……。」


 そこで赤い光はふっと消え、会話が途切れた。イザベラは箱をじっと見つめる。まだ兄様は魅了されていない。それが分かっただけ良しとしよう。

「イザベラ。」

 母親から声がかかり、イザベラははっと顔を上げる。いつもより真剣な顔をした母親がそこにいた。

「貴方、なぜ王都の情報を知っているの?まるでこれから起こることを知っているみたいね。」

 イザベラは迷った。実は前世の記憶があって、この世界の出来事はゲームとして体験してます。だからこれから起こることを知っています。なんて言っても信じてはもらえないだろう。そもそもイザベラはゲームにも出てこないモブキャラなのだから。ただ、このまま黙っているよりは、母親にも手伝って貰った方がいい。イザベラはぎゅっと両手を握りしめた。

「信じて貰えないかもしれないですけど……私、私、お兄様になって王都にいく夢を見たんです!」


「カインになって王都に行った。」

 母親が呆然としてイザベラの言葉を繰り返した。


「その中で、お兄様、いえ私はピンクブロンドの女を好きになって、自分に振り向いて貰えないからと、危害を加えようとして」

「して?」

「兄様ともども、この家は取り潰されました。」


 沈黙が落ちた。


「つまり、イザベラは手に入らなければ害してしまえと、夢でそう思ったのかしら。」


 頭を抱えながら母親が言う。


「そ、そうですね。要はピンクブロンドの女がいなくなればいいのですから。」


「やっぱりなんとかまとめないと危険ね……。」


 母親が言う独り言はイザベラの耳には入っていなかった。必殺のおねだりポーズをとる。


「ただの夢だったら良かったのですけれど、本当にピンクブロンドの女が出てきた以上、ただの夢ではないと思うのです。このままでは兄様が危険です!」


「そうね。色んな意味で危険ね。」


 母親はしばらく考えていたようだが、少し首を傾げる。

「ただここが分からないのだけど。それと王太子殿下の件がどう関わるのです?」

 流石に攻略相手の恋愛フラグをへし折るためだとは言えない。


「実は王太子殿下が『春のまどろみ』と言う病にかかるところも、夢に出てきたのです。それを兄様が助ければ、何かあったときに王太子殿下が助けてくれるんじゃないかなあと。」


「確かに、恩は売れるけれど。カインに助けられるのかしら?」


「薬草は兄様が詳しいでしょう?エミリア姉様の錬金術があれば、解毒薬が作れると思うのです。」


 母親はイザベラをじっと見てからため息をついた。


「分かったわ。この家の危機なら、支援は惜しみません。とりあえずこの箱は三日は使えないそうだから、もう一度さっきの内容を手紙に書いて、カインに送りなさい。それから、この家の庭にも薬草があるはずだから、使えるものがあるか、探してみた方が良さそうね。」


「お母様!ありがとうございます!」


 もう一度カインの部屋の本を見て、薬草があるか確認しよう。イザベラは急ぎ足で部屋を出て行った。



読んでくださり、ありがとうございます。

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