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日本刀 〜焼き入れを遅らせる粘土〜


 ジューネスティーンは、粘土を手に入れた事で焼き入れの準備が整ったと思ったのだが、そのままでは剣に付けるわけにはいかない事に気がついた。


 ただの粘土なので、大きなお皿を作れる程度の粘度が有り形が作れる程有る。


 それでも、それを薄く伸ばすようにして剣の表面に貼り付けようと考えたが上手くいかない。


 剣に貼り付けているうちに剣との隙間が生まれてしまい、その隙間を埋めようとすると、今度は、その部分が剥げ落ちてしまったりと、粘土を剣の峰側に取り付ける事は、全く均等に貼り付けることはできなかった。


 ジューネスティーンは、剣に粘土を貼るところから、つまずいてしまった。


 貼り付けては、剥がれ落ちるの繰り返しをしていた。


 何度か繰り返していると、今度は、粘土を元に戻して、その横に粘土で汚れた剣を置いて、二つをジーッと眺め始めて、失敗の原因を考えていた。


 すると、右手で粘土を無造作に取ると、手の中で粘土を握ったり丸めたりしつつ、また、粘土と剣を眺めていた。


 静まり返った鍛治工房の中に、ジューネスティーンが剣と粘土を眺めている。


 そんな構図が続いていると工房の扉が勢いよく開いた。


「おい、ジュネス。そろそろ、焼き入れの準備はできたか?」


 その声にジューネスティーンは視線を扉の方に向けると、そこには、元気の良さそうなシュレイノリアが立っていた。


「そろそろ、曲がりの実験ができるなら、明日から始めようじゃないか」


「ああ」


 ジューネスティーンは気のない返事をしたので、シュレイノリアは、一瞬、睨むように見るとジューネスティーンに近寄って行った。


 何か壁に当たった時、人は同じような態度を取る。


 ジューネスティーンの返事が、まさにそれだった。


「何だ、上手くいってないのか」


 シュレイノリアは、優しく話しかけた。


「ああ。剣に上手く粘土が付かないんだ」


「そうか」


 そう言いつつジューネスティーンの前まで来ると、シュレイノリアはジューネスティーンの右手を見た。


「ジュネス、手が泥だらけだぞ」


 シュレイノリアに言われて、ジューネスティーンは自分の手を見た。


 何気なく右手で粘土を握っていたので、右手だけ粘土で泥だらけになっていた。


「ああ、上手くいかなくて、色々考えていたら、思わず粘土を手に取ってしまったんだ」


 そこまで言うとジューネスティーンは、自分の手をジーッと見つめていた。


「何だ、右手だけドロドロだな」


 シュレイノリアが声を掛けても、ジューネスティーンは自分の右手から目を離さずにいた。


 手のひらに薄く泥が付いており、それが手のひらにも薄くついて色が変わったようになっていた。


 持っていた粘土は、水分が殆どなくなってしまい所々ヒビが入っているのをジーッと見ている。


 そして、自分の前に置いてある剣を見ると、その剣の粘土を外すと袋に戻し、剣は前に置いた。


 そして、その剣にもジューネスティーンの右手と同じように薄らと剣の表面に粘土が付着していた。


 粘土は、水分を含んだ粘着性の高い土なので、その水分も粘土が含まれている。


 その粘土を含んだ水分が剣に付着してそして乾いて白っぽく変色していた。


 それは、均等に塗られたようにはなっておらず、所々に付着して残っていた。


 ジューネスティーンは、剣と自分の右手を見比べるとニヤリと笑った。


「そうだな。そうだよな。うん、そうだ」


 ジューネスティーンは、立ち上がると、工房内の何かを探すようにグルグルと歩き回った。


 そして、棚に乗っている手桶を取ると剣のある場所に戻ってくると、手桶の中に粘土を一掴み入れ、水を粘土に吹きかけ粘土に水を含ませていった。


 水を含んで柔らかくなった粘土なのだが、そこにまた、水を吹きかけ更に柔らかくさせると、それを何度も繰り返していったので、最後に粘土はドロドロの液体になってしまった。


 その様子をシュレイノリアは、何も言わずに見ていた。


「なるほど、そういう事か」


 そう言うと、シュレイノリアは鍛治工房を出て行ってしまった。


 ジューネスティーンは、水に溶かした粘土を、今度は、すくっては垂らし水を足してはかき混ぜていた。


 納得できた様子で、ジューネスティーンは顔を上げた。


「シュレ」


 ジューネスティーンは、シュレイノリアを探すように視線を鍛治工房の中を見渡しているが、そこにシュレイノリアの姿は無かったので、がっかりした様子でいると扉が開いた。


「おい、ジュネス。剣に塗るには、刷毛はけが必要じゃ無いのか?」


 そう言って、毛の幅が刃幅と同じ位の刷毛はけを持ってきた。


「縫製工房の方に染色用の刷毛はけが置いてあったんだ。これを使え」


 それを見たジューネスティーンは幸運だと思ったようだ。


 そして、自分の考えていたことが、シュレイノリアにも分かっており、その後に必要なものが何かも分かっていた事が嬉しかったようだ。


「ありがとう、シュレ」


 ジューネスティーンは、シュレイノリアから刷毛はけを受け取ると、自分が作った液体になった粘土の中に入れた。


 そして、刷毛はけを液体の粘土の中から持ち上げると、付いた粘土の液体が垂れた。


 刷毛はけから液体の粘土が垂れなくなると、剣を手に取り、刷毛はけで峰側に塗っていった。


 その塗り具合を確認すると、ジューネスティーンはシュレイノリアを見てニヤリとした。


「うん、いい感じだよ」


「そうか」


 シュレイノリアは、ジューネスティーンの感想を聞いて悦にいった表情をしたが、ジューネスティーンは真剣に作業を続けていた。


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