第四章25 距離感掴めないんだけど!?
「あの、貴方がセルフィス王女ですか?」
「は、はい。そうです……」
囚われの王女――セルフィスは、僅かに頷きながら答える。
その拍子に、服の袖を反対の手できゅっと握りしめた。
宝石のように綺麗な目は力なく私を見上げている。
まだ、私を警戒しているようだ。
(無理もないか。だっ半年以上も、こんなところに監禁されてたんじゃね……)
私は、できるだけ優しい雰囲気を出すように努めて、勇気づけるように王女へ告げる。
「いきなり来て驚かせちゃいましたね。私は〈ロストナイン帝国〉の魔の手から見目麗しの王女を救い出すために、遥々やってきた、貴方の救世主です!」
「……。」
「…………。」
私と王女の間に、無言の時間が流れる。
王女の方は口元に手を当て、何か戸惑ったようにこちらを見上げるばかりだ。
気まずい。
凄く気まずい。
ちょっと勇気づけようと思って格好良くキメてみたのだが、その分盛大に滑った。
ノリが悪い性格なのか、乗っかるほどの元気がないのか。
それはようとして知れないけれど、無反応が一番辛いというのは、周知の事実である。
(う~ん、男が言ったらカッコいい台詞を女の状態で言ったから、ダメだったのかな?)
反応が皆無の王女に調子を狂わされながらも、私は補足説明をした。
「要するにですね、貴方を助けに来た者です」
「私を助けに……貴方が?」
「はい」
私は、力強く頷いた。
すると、品定めでもするように揺らいでいたセルフィスの瞳が、僅かに見開かれる。
少しばかり信用してくれたみたいだ。
セルフィスは体勢を変えると、足を引きずるようにしてゆっくりとこちらに寄ってきた。
冷たい鉄の檻ごしに、雪のような彼女と向き合う。
女の状態など関係なく私は女の子が好きだから、どうにもドギマギしてしまった。
「貴方は、騎士団の方なのでしょうか?」
「はい、一応は騎士団の一員ですね。……正しくは、騎士団と魔術師団が合併してしまって、騎士ってわけでもないんですけど」
それに、魔術も教わったし。
心の中でそう付け足す。
だが今は、そんなことを話している場合じゃない。
一刻も早く王女を連れて、ここから出なければならない。
一人で〈ウリーサ〉の魔術師達の注意を引きつけている、フィリアの安否も気になるのだ。
「早くここからでましょう」
「え、ええ。そうしたいのは、やまやまなんですけど……」
セルフィスは、鉄の檻に手をかけて力を込める。
しかし、余程頑丈に造られているらしく、彼女の力ではビクともしないようだった。
「この通り、檻は硬く閉じられてしまっていて……」
「鍵のある場所とか、わかります?」
「いえ、その……ごめんなさい」
セルフィスは、首を横に振ってみせる。
(まあ、そりゃそうだよね。知ってるはずないか……)
私は、少しばかり思案に耽る。
(鍵が無いなら、鍵の代わりになるものがあればいいんだけど……そうだッ!)
迅速で閃いた私は、懐から水晶――氷の魔術触媒を取り出した。
その理由は簡単。
鍵が無いなら、作ってしまえばいいじゃない。
そんなこんなで、私は牢の鍵穴に水晶を突っ込んで、呪文を唱える。
「《珠玉法―水晶・結氷》」
すると鍵穴の中で氷が生成され、鍵穴の形状に凍り付いた。
「これでおっけー」
鍵穴からはみ出した氷をつまんで回すと、牢屋の鍵はいとも簡単に開くのだった。




