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第四章23 本物の私は何処に

 ――時間を少しばかりさかのぼる。

 丁度、おとりを命じられたフィリアが、リアン達の前に姿を現した頃。


 私は一人、〈ネグスト神殿〉の前まで来ていた。

 物陰から神殿の方を覗けば、何やら人影が慌ただしく動いているのが目に入る。

 

 耳を澄ますと、辛うじて彼らの会話を聞き取ることができた。

 

「今、リアン大隊長の所に侵入者が二人とも姿を現したらしい」

「本当か?」

「ああ、確定事項とのことだ。我々も大至急応援に向かう」

「了解した」


 短く言葉を交わし、帝国政府のある方向へ走り去っていく。


(やれやれ、初動は成功かな……?)


 私は、小さく安堵の息を吐いた。

 

 今、フィリアと光の魔術で生み出したまぼろしの私を囮にして、魔術師達をそちらに引きつけている。

 その間に本物の私が、ノーマークになった神殿に入って、王女を助け出す。

 その後、タイミングを見計らってフィリアが真実を魔術師達にバラし、混乱を誘う。彼らが動揺している隙に、ロディとレイシアの率いる本隊が討ち入りをする。


 私の立てた計画シナリオは、ざっとこんな感じだ。

 フィリア一人に大変な役目を背負わせてしまったのが心残りだけど、あの子ならきっとやり遂げてくれる。


 生意気だが腕の立つ、自慢の妹だ。


「さて、私は私でできることをしないと」


 そう呟いて、人っ子一人居なくなった神殿へ足を踏み入れた。



 △▼△▼△▼


 「うわぁ、広いなぁ……」


 神殿に入った私は、見上げるほどに高い天井を見上げて感嘆の声を漏らした。

 その声がだだっ広い空間に反響し、やがて溶け入るように消えていく。


 テニスコートの数倍はある、長方形に切り取られた大理石の床。その周りを囲うようにエンタシスの円柱が等間隔に並び、天井に向かって幾本も伸びている。

 まさに神殿、と言って差し支えない空間だ。


 そんな空間にあるのは、中央付近にぽつんと配置された祭壇だけ。

 テレサは確か、王女が監禁されているのは地下牢だと言っていた気がするが……肝心の地下に通じる階段はない。


(本当に、地下牢があるのかな?)


 半信半疑で、階段や梯子はしごの類を探す。

 しかし、それらはおろか、隠し扉と思われる怪しい箇所すら見当たらなかった。

 床は全て、つるつるの大理石が延々敷き詰められているだけだ。


 もうどうにもできなくて、私はとうとう祭壇に背を預けて座り込んだ。


(さてはあの人、嘘ついたな?)


常に怪しさで包まれた、黒髪赤眼の娘を脳裏に浮かべる。

ぶっちゃけ、十分にあり得る話ではあった。


だって敵同士だし。あの人何考えてるかわかんないし。冷静に考えて、神殿に人質を監禁するとか、まつってる神様に喧嘩売ってるし。


「仕方ない。帝国政府の方に行こうかな。たぶん王女はそっちだ。どのみち、こんなところで油を売ってる時間は無いし……ん?」


 そのとき、私は背を預けている祭壇の縁に、奇妙なレバーを見つけた。

 

「なに、これ……?」

 

 ボタンはあったら押すモノ。レバーはあったら引くモノ。

 そんな常識に則って、私は後先考えずにそれを引いた。


 するとどうだろう。

 ゴゴゴゴ……という低い駆動音を立てて、祭壇が動いたではないか!


「え、すご! 何このちょっとカッコいい仕掛け!?」


 B級ホラー小説でありそうな展開に胸を膨らませる私の前で、祭壇があった場所から地下に続く階段が現れた。

 どうやら、テレサの言っていたことは本当だったらしい。

 

 私は意気揚々と、階段を下っていった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 混乱を起こすのを先に持ってくるとは中々考えましたなあ。
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