第六章40 絆を一つに
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――時間は、現在に戻る。
瞼を開ければ、真っ暗な闇が更に濃さを増し、目の前に広がっていた。
彼女から学んだのは、“最適な魔術を最良の方法で起動すれば、最大限の力が発揮され、最高の結果が得られる”ということだ。
あまりにも「最」が多すぎたせいで、そこだけ妙にはっきりと覚えている。
(この状況に合った、最適な魔術……)
遍世界を真っ黒に塗りつぶす闇を払うものは――
「――決めた。アレでいこう」
私はぼそりと呟いて、一歩前に足を踏み出した。
「何をするおつもりですか? カース様」
テレサは、不思議そうに首を傾げてそう問うてくる。
「この闇を破って、戦いを終わらせます」
「何か、策があるのですか?」
後ろに控えるセルフィスが、心配そうに尋ねてきた。
「もちろんです。……ぶっつけ本番だから、上手くいくかはわかりませんけど」
まだ一度も試したことのない、アイデア段階の試作魔術。
故に、暴発の危険はある。失敗する可能性も決して低くはない。
しかし、この状況を打破するためには、もう必殺技に賭けるしかない!
自信がないなどと、言っていられる状況ではないのだ。
「でも、必ず成功させてみせます。だから……どうか力を貸してください」
私は、二人に頭を下げる。
勝つか負けるか、確立は五分と五分といったところか。
それでも、私に命を預けてくれるだろうか?
ほんの一瞬、そんな心配が脳裏を過ぎったが、杞憂であったらしい。
テレサとセルフィスは顔を見合わせた後、嬉々として答えた。
「もちろんですわ!」
「はい!」
その表情に、一切の迷いはない。
死が目前に迫った状況が生んだ、吊り橋効果の絆の形。
「ワタクシ達は一度、カース様に救われた身ですから。少なくともワタクシの身体は、もうカース様のものですわ」
「あ、はい。なんか微妙に意味がズレてる気がしますが……ありがとうございます」
心なしか頬が紅潮しているテレサと、何故かすこしムスッとして彼女を睨んでいるセルフィスに頭を下げる。
それから一つ深呼吸をして、二人に告げた。
「この魔術を起動するには、少しまとまった時間が必要なんです。だから、テレサさんには、できる限り闇の侵攻を食い止めて欲しい。セルフィスさんには、状況に応じて回復魔術をお願いします。特に、前線で堪えてくれるテレサさんの治癒を」
「「はい!」」
二人は大きく頷く。
それからテレサは不敵に微笑んで、呪文を唱えた。
「《秘技―削命法・火炎第六圏・焔の墓穴》!」
次の瞬間、真っ赤なマグマが地面を迸り、ぐつぐつと煮えたぎる。
ずぅん。
重い音を立てて、迫り来る闇の塊がマグマに止められた。
しかし、よくよく闇と炎が接している場所を見ると、もの凄い勢いでマグマの赤が闇の黒に吸い取られている。
突破されるのも時間の問題だ。
「テレサさんのマグマが全て吸い取られる前に、ケリをつける!」
私は懐から三種類の宝石を取り出して、強く握りしめた。
――これから起動する魔術に、全ての力を乗せて放つ。
その思いに反応してか、握りしめた宝石が熱く輝き、指の隙間から光が漏れた。




