第六章20 決着の兆し、不穏な空気
『ちぃっ! 洒落臭い!』
攻撃を全て防がれて、ネイルは焦燥も露わに叫ぶ。
明らかに動揺している。
(今攻撃を叩き込めば、勝てる!)
そう確信すると同時に、レイシアから指示が入った。
「カース、テレサ! 余の攻撃に合わせろ! 一気に畳みかける!」
「は、はい!」
「貴方の命令に従うのは癪ですが……まあ、のってあげますわ」
三人揃って、一斉に詠唱を開始する。
「《珠玉法―水晶・結氷―四重奏》ッ!」
「《珠玉法―琥珀・光輝―四重奏》ッ!」
「《削命法―火炎―四連符》ですわ!」
凍てつく蒼銀の氷塊が。
赫々たる閃光が。
焼き尽くす紅蓮の炎が。
獲物を狙う蛇のようにのたうち回りながら、ネイルへ襲いかかる。
『させるかッ!』
だが、ネイルもまた黙ってやられる質ではない。
両手を開いて、瞬時に風の魔術を起動。
『―《増幅》―』
《増える魔術ちゃん》の呪文を唱えた瞬間、荒ぶる風の防壁が膨れあがる。
凄まじい音を立てて暴れ回る風の壁に、三属性の魔術が真っ向から激突。
風に弾かれた炎や氷が、四方八方に飛び散っていく。
「ありったけの魔力を注ぎ込めッ! この賭けに勝てば、自ずと勝利も見えてくるはずだ!」
「わかってます!」
「全力でお見舞いしてやりますわ!」
私は、背中に流れる魔力を、光の魔術へ注ぎ込む。
レイシア、テレサも同様に魔力を全力全開で魔術に注入したようで、氷の魔術の放つ凍気と炎の魔術の放つ熱気が、数倍増したのを感じた。
そして、遂に。
三人で放った魔術が、風の防壁を突破した。
『な、なにぃ!?』
堰を切ったように防壁の中へ流れ込む三属性の魔術を凝視して、ネイルは驚愕に目を剥く。
(勝った!)
勝利を確信すると同時に、三色の魔術の光がネイルを呑み込んだ。
『う、うぉおおおおおおおおッ!』
断末魔のような叫びを上げ、魔術の破壊力に翻弄されながら、後方へ吹き飛ばされていくネイルの身体。
やがて、魔術の光が消え、ゆっくりとネイルの輪郭が露わになる。
全身はボロボロ。
見るも無惨に焼け焦げた左腕と、氷漬けになった右腕。あちこちに穴の開いた服が、痛々しさを物語っている。
彼の周りの地面は、魔術によってえぐり取られ、もうもうと煙が立ち上っている。
まるで、クレーターの中心にゾンビが立っているかのような光景。
(な、なに……?)
そのとき、私は背筋が凍るような感覚を覚えた。
私達がこの勝負に勝ったのは、見るまでもなく明らかだ。
万が一にも、ズタボロのネイルに勝ち目はない。
なのに……この寒気は、一体何なのだろうか。
冷や汗を流してネイルを見据える。
自身のダメージを確認するように俯いていたネイルが、不意に顔を上げた。




