第21話 ダンジョンは壁の中
僕の憧れた物語のヒーローは、ダンジョンだって簡単に突破して見せて、町の人々から褒められて、王様からご褒美をもらっていたものだ。
僕もなれるのかもしれない⋯⋯そんな考えは甘かった。大きな兎はみんなが倒してくれた。シャンさんたちの窮地を掬いにやって来たのはよいけれど、僕は役立たずだった。
狼達はビッグホーンラビットより大きくて速いのに集団で襲って来た。レーナさんが助けてくれなければ、僕はリリーと一緒に噛み殺されていた。
熊はその狼たちよりも大きくて、僕などひと踏みで潰されそうだった。牛頭の魔物は大きな岩を遠くから投げて来たし、頭が3つもある蛇の魔物は毒の霧を吐き出した。
「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯」
リリーの力を借りてばかりいるのに、逃げるのに精一杯で息があがる。体力も魔力も振り絞っても足りない。
よくシャンさんたちを助けに行く──なんて偉そうな口をきけたね⋯⋯義母ならそう罵って来ただろう。でも今回は本当にそうだ。いまの僕は動ける⋯⋯だから以前のように病気を言い訳に出来ない。
レーナさんは呆れたのか何も言わない。魔物から僕を守りながら、魔法を使わず手斧一本で全て倒していた。
(────レーナはさぁ、銀級冒険者のふりをした英雄だからね────)
レーナさんは実際凄い冒険者だった。何度も危ない目に遭いながら、役に立たない僕を怒ったり叱ったりしない。真剣なのか無言が怖い。
きっと僕に失望しているのだろう。シャンさんたちを見つけ次第、足手まといだと置いてかれるかもしれない恐怖に足が竦む。
坑道をだいぶ進んだ先で何となく違和感を感じた。魔力の歪み⋯⋯かな? リリーと魂を共有していたおかげか、風に敏感になったみたいだ。
「目当ての場所まで到達したようね。この通路⋯⋯ほんの十数歩分がダンジョンに侵食されて異界化したようね」
レーナさんがようやく言葉を発してくれた。シャンさんたちは急に発生した落とし穴⋯⋯いや横穴だから吸い込み口に吸われた形でダンジョンの内部へほうり出されたようだ。
「もうダンジョンそのものは安定したから、ここは魔力が強いだけの通路になって、魔物が湧いたのね。通行の邪魔だから固めておきましょう」
レーナさんはダンジョン化した部分を押しやるように魔力の塊をぶつけた。非常識な通路の修繕方法なのに、比較対象や知識のない僕は、それは当たり前の事だと思った。
「これでこのダンジョン絡みの魔物は溢れないわ。出入り口もわかったから、先へ急ぎましょう」
ダンジョン化の範囲みたいなものがあって、タイプも違うらしい。フィールド型ならばどこからでも入れるのに、ダンジョン型では、入り口から入る必要がある。シャンさんたちのように出来かけのダンジョンに足を踏み入れるのは珍しいそうだ。
(────作った相手側による、結界だからだろうね────)
リリーが呟くように僕に教えてくれた。休息している時以外は、僕とリリーは共有化を続けている。リリーの力を借りても、手加減しているレーナさんについていくのがやっとだったんだよね。
レーナさんが入り口となるダンジョンの領域に目安をつけて、魔法で壁に穴を開けた。そしてどこから取り出したのか、重々しい金属で出来た扉で塞いだ。
シャンさんたちの救出には、外からの助けが必要────そのままの言葉だった。




