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第20話 未来は僕が決めている


 坑道内は思ったよりカラッとしていた。もっと水気があって、ジメジメした場所だと思っていたよ。


「地域や場所にもよるわよ。いずれ通り抜けしやすいように整備するのに適した場所を選んだのね」


 トンネルを掘る時に怖いのは水だって、シャンさんに教わった。山には水脈とか水たまりとかあって、土の種類も柔らかかったり脆く崩れやすかったりするそうだ。シャンさんは商人なのに、学校の先生みたいに色々知っていた。


「猫人族って気ままでのんびり屋さんが多いのに、たまにシャンみたいな凝り性の変わり者がいるよね〜」


 僕の頭の上でだらけているリリーも、花の妖精さんから見ると異世界知識が豊富で変わっていると思う。


「そういうのは種族を選ばないわよ。カルミアみたいに捻くれてないだけマシだわ」


 僕とレーナさんは横並びに歩いている。僕は山小屋で普段着ている服に手斧を腰にぶら下げているだけだ。レーナさんもこの世界の人たちが着ている普段着で、武器はなぜか僕と同じ手斧だけだった。


 ダンジョンから魔物が出てくるかもしれないので、リリーが僕の頭の上で警戒してくれている。


 カルミアさんも変な人だけど、このレーナさんも変わっている。シャンさんたちの状況がわかっているのに、僕の鍛錬なんか一緒にやりながら進んで良いのだろうか、不安になる。


「危機意識の中での教訓って身につきやすいのよ」


 リリーが呆れたようにぼやく。僕のせいでシャンさんたちに危機が訪れそうで、重い足が嫌でも先を急ごうとする。血縁と言っていたので、レーナさんもどこか意図を隠しているように見えた。


「魔力の歪みが見えて来たの⋯⋯わかる?」


 不意に悪寒がした。坑道内に漂う匂いのようなものや、肌に伝わるひんやりした空気が粘つくような空気に感じた。


 僕にも魔力の感覚の違いがわかるようになって来たみたいで、レーナさんの問いに黙って頷く。プロケロさんに教わったように、手斧はいつでも握れるように意識しそる。


「ねぇ、レーナ。シャンたちはダンジョンから出られないのに、雇われた冒険者達が逃げて来られたのは何で?」


 それは僕も不思議に思った。ダンジョンから出る道標になるように、冒険者達を逃がしたのかとも考えられた。シャンさんたちを見捨てて逃げ出しちゃったけど。


「足跡の感じから、シャンたちが誘導していたようね。それとダンジョンには入り口から入ったのではなくて、生成途中に落ちた感じね」


 急に現れた魔法陣により、転移するのが近いらしい。冒険者達からは消えたように見えて、後からダンジョンの入り口だと気づいたのだろう。


「臆病と取るか、未知のものへの警戒心が強く正しいとも取れる判断ね」


「あぁ、それで山小屋燃やしたヤツ以外は、罰さなかったんだー」


「そうね。レン君、冒険者達逃がしちゃってごめんね。でも君と義母には因縁があるから、きっとまた襲って来るわ」


 それはそれで嫌だけど、義母の性格ならありそうだと思った。


 冒険者達は口は悪いし、嫌がらせで余計な事をしようとしたように、性格も悪いかもしれない。でも全滅を避けて一目散に逃げた判断が、正しい事もあるんだ。


「シャンたちからすると、出口がわかるように、いったんダンジョンの中へ入ってほしかったでしょうけどね」


 僕は正しさを決められないなんて、難しい事だと思った。シャンさんたちを助けたいか、悪い義母をやっつけるか⋯⋯あの選択だってそうだ。


 前の世界で嫌な人だったからとか決めつけて追っかけて仮に倒せたとしても、冒険者として正しい判断を下しただけで、義母達は何も悪くなかったかもしれない。


 悪くない人達をやっつけて、助けたい人の救出が間に合わなかったかもしれないんだ。


「あくまで知り得た状態の結果論ってやつよ。何も知らなければ、復讐心は達成されるのだから、その道に進んだレンの判断だって正しいの」


 きっとその時はレーナさんも黙って僕の選択を尊重した気がすると思うと、それはそれで怖くなった。ほんのひとつの選択で未来は大きく変わるのだと知ったから⋯⋯僕はただ震えた。


 後悔するくらいなら────よく物語で登場人物が口にする言葉。母が読んでくれた時は、その言葉の重さをまったく理解していなかった。


 母がいなくなり身体が動かなくなって、ああしておけば良かった、こうしておけば良かったと涙が枯れるまで後悔した事はあったのに。


 ただ⋯⋯短い僕の前の人生だったけれど、そうした選択がとこかにあったのかもしれない。悔やむ事は山程あるにしても、こうして僕は僕を見つめ直せているのだから⋯⋯僕にとっての未来につながる選択を正しく選べたと思いたい。


 前は酷い終わり方だったけれども、今の僕には動く事が出来る、やれる事がある。助けを待っている人たちがいるのだから、終わらせるわけにはいかないんだ。

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