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第18話 揺れ動く気持ち


「⋯⋯だ、誰ですか?」


 驚く僕は思わず女性に声をかける。リリーたちは何故か頭を抱えている。いや震えてるみたいだ。纏う空気が違うのが僕にもわかった。


あなたの義母(あれ)を呼んだのは明らかにあの娘(カルミア)の病的な収集癖のせいよね。あの娘はあとでお仕置きするとして⋯⋯先に火を消さないとね」


 見た目は銀髪の若い少女。なのに凄く速くて強いのがわかる。だって、あっという間に燃え出した山小屋の近くまで行き、炎と煙を消してしまった。


 義母を含む八名の冒険者は、ギョッとする。突然現れた少女に炎がかき消されたので慌てて警戒体制を取っていた。


「ココは私の思い出の場所でもあるのよ。あの娘の遊びで二度も消失させたくないのよね、わかってくれるかしら」


「はぁ? 何訳分からねえこと言ってんだよ、お前。殺すぞ?」


「そのプレート、銀級か。だが俺達は鋼八名、銀級一人くらい楽勝だぜ」


 急に現れた少女の言葉に冒険者達は激昂する。自分達よりも格上の銀級冒険者とわかり焦ったのがわかる。人数の多さで有利な立場は変わらないと思ったみたいだ。


「あそこで隠れている蛙人の戦士やガキを数に入れても俺達の方が強いぜ。泣いて謝るなら可愛がってやるよ」


 ゲハハハと汚い笑い声をあげる冒険者達を無視して、銀髪の少女は山小屋に火を放った魔法使いを見る。


「これは返すね?」


 ────パチン!


「ぐわぁぁ⋯⋯あ、熱い」


 少女が指先を鳴らした瞬間、魔法使いがのたうち回り苦しみだした。みるみる身体が赤くなり、異様な汗を出した後に絶叫しながら息絶えた。


「なっ⋯⋯」


 離れた所にいた僕たちには、一瞬炎の輝きが魔法使いの男から発したのがわかった。


「えっぐ⋯⋯山小屋の炎とダメージを、あの男の身体の中にそのまま返したのよ」


「そのままって⋯⋯?」


「炎のままって事よ。身体の中から消えない炎で焼かれたようなものね」


 リリーが僕にわかるように教えてくれた。魔法は便利なようで使い方次第では怖いものだと思った。


「あんな真似、『双炎の魔女』にしか出来ないわよ。流石英雄ガウツの娘ね」


 二つ名を持っている冒険者は強いと教わった事がある。冒険者にも階級があって、銀級は強い方の冒険者だ。そして英雄の娘。山小屋はかつて一度燃やされた事があるって聞いた。


 大切な思い出の場所を燃やされたら僕も怒る。得体の知れない銀級冒険者の実力を察して、威勢の良かった冒険者達が逃げ出そうと後退りを始める。


「逃げるのなら、その黒焦げのお仲間も連れて行ってね?」


 大柄な男二人が逃げる先に回り込んで、銀髪の少女はニッコリ笑った。山小屋を燃やそうとけしかけた義母は、真っ先に逃げ出していた。男二人はコクコク頷き、黒焦げに炭化しても崩れない仲間の身体を抱え上げて泣きながら逃げていった。


「脅威が減って、見かけ倒しの冒険者ばかり増えるのも困りものね」


 嫌な冒険者達だけど、僕よりは強い人達が一蹴されてしまった。僕なら怖くて、腰を抜かしてしまったと思う。


「英雄の娘⋯⋯双炎の魔女⋯⋯。凄い、カッコいい! あれ? でも子供がいるって⋯⋯」


 僕の言葉を遮るかのように、銀髪の少女が手招きして来た。無言の圧力。余計な事を口にするのは止めて、僕たちは山小屋まで戻った。


「名乗ってなかったわね。私はレーナ。君を呼んだカルミアの血縁者でもあるわ」


「僕はレンです」


 錬生術師カルミアさんの身内の方だった。リリーたちは顔見知りなのか、僕の後ろで少し怯えながらペコリと挨拶していた。


「君にはカルミアが迷惑をかけたお礼をしないといけないわね。このまま義母を追って、弱っている内に叩くか──シャンたちを助けに行くのか──進む道を選んでいいわよ」


 お礼と言いながらも、英雄の娘レーナさんの選択は、僕の今後を示す方針になると言われた。


「シャンさんたちは生きているの? 助けに行けば間に合うの?」


「ええ。坑道の途中に現れたダンジョンの入り口が塞がってしまっただけよ。出るには外からの助けが必要なの」


 それなら答えは決まっている。僕が出来る事は限られている。お世話になっている人たちを助けられるのなら、僕は助けに行きたい。


 動けるようになってから、僕の気持ちは目まぐるしく揺れ動く。学校へ行きたいと願ったり、英雄になりたかったり、復讐したかったり、居場所や家族が欲しかったり⋯⋯。


 自分の力でもないのに図々しい⋯⋯義母ならそう罵って激しく嫌悪されるだろう。


「どんな気持ちより、今はシャンたちを助けたい⋯⋯それが君の一番の気持ちなのでしょう。ならば一つずつ望みをかなえるだけよ」


 レーナさんはそう言って僕の頭をぐしぐし撫でてくれた。

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