第16話 聖霊人形の真価
ヒューーーーーーーッ
ビターーン!!
風を切る音と、大木に激突した音が同時に響く。発生した筋力と速度を僕がまったく制御出来ず、木の根につまずき激しく大木にぶつかったのだ。
「⋯⋯ツッ」
(────ちょっとレン! 痛みの感覚はアタシにも来るんだから気をつけてよね)
「ゲフッ⋯⋯ご、ごめんよリリー。なんか疾すぎて」
咄嗟に顔に当たるのは防いだけれど、一歩踏み込んだ瞬間、身体が跳ねるのを感じ⋯⋯考える間もなく近くの大木にぶつかったのだ。
(────わかったでしょう、聖霊人形の本当の能力がさ)
リリーが僕の頭の中で勝ち誇る。ぶつかった衝撃と、リリーの声で頭がクラクラするよ。凄すぎて何が何だかわからないよ。
(────アタシの魔力と一体化したから魔力酔いも起きたようね。食べたもの吐かないでね)
僕とリリーは今、僕の身体である聖霊人形を共用して、戦闘訓練を行おうとしている。プロケロさんとランダーさんは訓練相手をしてくれているんだけど、戦う以前に身体の制御がうまくいかなかった。
僕がやらなければ意味がないので、リリーは魔力補佐をしている。リリーの風のように軽い魔力の浮揚感に、僕のイメージが合わなくて転んで激突を繰り返していた。
「ちっともうまくいってないゾ」
ダメージを少しでも減らすために、ランダーさんが激突前に根っこの網で減速してくれているので助かっていた。
「リリーは花精でもあるから、魔法を発動しなくとも魔力が発生しているんだね」
リリーの本来の姿は魔力の塊みたいなものなのだ。手のひらサイズの手乗り人形は、リリーにとって魔力を抑えて隠す役目もあったようだ。
(────へへっ、尊敬してくれてもいいのよ?)
得意気なリリー。でもおかげでイメージが掴めて来たよ。僕は僕が自分を動かそうとしていた。それは間違いではない。でもリリーが一緒という事はリリーのように動けるって事。
「おっと、コツをつかんだようだね」
何度も木にぶつかり失敗を重ねたおかげで、僕はようやく身体の動かし方を理解し始めた。ふつけた箇所は痛む。でも僕が思っているよりこの身体は丈夫だった。
カルミアさんの思惑がどこにあるのかわからない。リリーが言うように急ぐ理由が出来たので、あの女冒険者を呼んだのだと思う。
異世界にまで来たのだから、僕は僕の人生を生きたい。この世界に来てまで馬鹿にされ虚仮にされたくないや。
(────その意気よ、レン。最終的にはアタシ抜きでも力を発揮出来るように、この感覚に慣れておきなさいよ)
僕が自分で自分の能力を引き出す事が出来れば、リリーとの能力の相乗効果で力がもっと増すらしい。
「その状態で、まずは私に勝ってからの話になるよ」
プロケロさんの刃を潰した手斧の一撃を受け損ねて、僕はダウンした。痛みを共有したリリーが騒ぎながら自分の手乗り人形の身体へ戻ると、ガクッと身体が重くなり、僕は痛みで疼くまるのだった。




