第14話 会いたくない人
今日はシャンさんが、冒険者たちを率いてやって来る。そうなんだ、狩りをしたのは、シャンさん率いる調査隊をもてなして英気を養うためだった。
「帝国側からのルートは着々と進んでいるのよね。あとはこちらから予測地点へ拠点を築くだけなんだよ」
巨大な山脈を避けて最短で帝国と王国を繋ぐ流通経路を作りたい、それが「星竜の翼」 のギルドマスターの考えらしい。僕が通う予定の学校も「星竜の翼」 の本拠地ガウートにある。
冒険者のための学校だけど、様々な職業の先生が集められているから、本当はこんなに頑張らなくても良かった。
でも僕は冒険者に⋯⋯英雄のようになってみたかった。だからお願いして基礎を学んでいるんだ。
そして今日は本物の冒険者の人たちがやって来ると知って、ワクワクしていた。僕が作ったお肉のスープも喜んでもらえるといいな────
────熱々のスープにお肉をたっぷりと木の御椀に掬った。以前の記憶も含めてお肉入りのスープは久しぶりだ。
僕は熱々のスープの入った御椀の匂いを嗅ぐ。アマミダケの香りが立っていてビッグホーンラビットのお肉の臭いは減る。
「あんまり何度も嗅ぐと慣れて獣臭いよ」
リリーが変なものを見るような目でいう。血抜きして臭み消しの香草を混ぜても、獣臭は少しする。
スッとスプーンでスープを一口掬い、火傷しないようにふ~っと息を吹き冷ます。暖炉と、マツダケの灯りに照らされたスープは少し濁っていたけれど、お腹を空かせた僕には輝いてみえた。
スープに満たされたスプーンが、僕の口へと進み、充分に冷ましたスープをパクリと飲み込む。
最初のひと口はしっかり味わう⋯⋯そう決めて良かった。
「⋯⋯美味しいね」
僕のひと口に注目していたリリー達が、その言葉を聞いてニッコリ微笑んでくれた。あとは夢中になって、飲んで食べた。リリーは味見がてら舐める程度、ランダーさんは食べないし、プロケロさんは完全に冷めてから食べていた────
────昨晩、スープを飲んだ幸せな気持ちを思い出し、僕は嬉しくなる。母にも食べさせてあげたかった。きっと喜んでくれたと思うんだ。
僕はシェフになった気分で、棚にしまってあった御椀をたくさん用意した。念のため洗ってスープをすぐに振る舞えるように支度する。
シャンさんたちが山小屋までやって来た。たくさん来るから、臨時の竈門を作り、鍋を二つ用意してビッグホーンラビットのお肉入りスープを作っていた。
「今日はいつもより冷えるからありがたいニャ」
シャンさんが連れてきたのは十五名。そのうち四人がシャンさんと同じ猫人族の男女、プロケロさんと同じ蛙人の雄雌? だった。
冒険者さんたちのうち三名は、シャンさんが新しく作っている拠点の専属の冒険者さんで、シャンさんたちと仲良しのようだ。残りの八名は、四人ずつのパーティで、調査隊部隊募集の応募を見てやって来た他所の冒険者さんたちだった。
────ズキッ!
なんだか見覚えのあるような顔の女冒険者と目が合い、胸が痛む。
「マズっ!」
「ろくな調味料使ってないな、このスープ」
僕の作ったスープは冒険者さんたちに不評で、御椀ごと捨てられた。
「ちょっとアンタたち、レンの一所懸命作ったスープを捨てるって、どういうつもりよ!」
リリーが怒って飛び出した。
「あぁ? マズいもんはマズいんだ。文句あるなら作ったソイツに言えよ」
「レン⋯⋯どっかで聞いた間抜けな名前だと思ったら⋯⋯アハッ、お前も転生したのかい」
若い、もの凄く美人⋯⋯なんだけどゾワゾワする嫌な気配の女冒険者に髪を鷲掴みにされた。
「は、離せ」
「こっちに来て動けるようになっても、生意気なヤツさね。目上の者への口の利き方くらい教わらなかったのかい坊や」
僕は男の子なのに、力では敵わず髪の毛を掴まれたまま投げ捨てられた。
「レンに何するのよ!!」
「煩い羽虫だね。こっちは王命を授かって仕事に来てんだよ。ろくなもてなしも出来ない無能な田舎種族が騒ぐんじゃないよ」
女冒険者の物言いに、パーティ仲間たちや、もう一つのパーティが賛同する。
「異世界って言ってもウチらの技術伝わっているって聞いていたのに、期待外ればかりでうんざりだよ。それにそこのガキのせいで⋯⋯」
激しい動揺と、投げつけられた痛みのせいで、僕の意識はそこで失われた。




