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第13話 シェフ誕生?


 汚れを落とした僕は、予備の衣服に着替えた。リリーたちが洗ってくれた服は、風通しの良い場所に吊るして干すことになった。 


 処理したお肉も干し肉にする。肉の量に対して塩が全然足りてないけどオミットの粉で代用する。季節的には暖かくなり始めていて、干し肉にするには向いていない。でもこの土地はまだ朝晩は冷え込むし、水辺以外は乾燥していた。


 今日と明日食べる分のお肉は別にして確保しておく。ビッグホーンラビットはさっぱりしていて食べられる部位も多い。干し肉にしておけば、長く楽しめるそうだ。


「ダンジョン産の魔物も肉が美味しいのはなぜか秋なのよね。季節関係ないのに不思議よね」


 そういうリリーも、お肉は食べない。もとは花の妖精だからなのかな。リリーの身体は手乗り人形(タイニー・ドール)、僕の身体と基本の作りは同じようなもののはず。


「あら、気づいた? この身体は何を食べても、魔力変換して身体を動かすの。だから自分の食べたいものだけ食べても生きていけるわけね」


 食べようと思えば、リリーもお肉を食べられるんだ。ランダーさんは召喚されたままの植物戦士なので、食べ物は植物と変わらない。魔力の強い土や水が好みってくらいだ。


「私はレンと好みはほぼ変わらないよ」


 プロケロさんは何でも食べられるんだね。でも僕は虫の湧いたお肉を食べるとお腹壊すと思うよ⋯⋯。


 みんなで手分けしてお肉の処理をした後に、夕飯の支度をする。あたりはすでに真暗だ。


「基本的にこの世界の光源には、オークの脂を灯したり、魔道具を使うのよ」


 リリーが指先にチッカチカと光の玉を出した。魔法の明かりはあくまで一時しのぎ。こめた魔力量に応じた時間が経過すると消えてしまう。


 明るい内に活動する毎日だったので、明かりは暖炉の残り火で充分足りた。初めは暗くて昔の自分の部屋を思い出したけれど、賑やかなリリーのおかげで気にしなくなった。


「この地はオークがいないし、猪や兎の脂は食用に回したいのよね。だから道具が揃うまではこれを使うの」


 リリーがランダーさんからネッチャリした液体の入った取っ手付きの入れ物を受け取って見せてくれた。


「レンの世界でいう松ヤニね。こちらではマツダケっていう植物で、この松ヤニは燃焼させるとうっすらと良い香りが出るのよ」


 僕も松や竹は知っているよ。ランダーさんが山小屋の庭に植えていた。


「採れる量が少ないからオーク脂と混ぜて蝋燭にしたり、松明の燃焼剤に使うの。アロマっていうのよね、そういう高級な香料にも使えるから、植えたマツダケが育った時はシャンに売りつけましょう」


「松はボッタクルに限るゾ」


 リリーとランダーさんが悪い顔をした。意味が違うような気もするけど、僕にはよくわからないや。


「調理場に置いて、さっさと肉を食べられる形に切り分けるわよ」


 明かりがもったいないのもあるけれど、僕のお腹がグゥ〜っと盛大に鳴ったので調理を急ぐ。お肉は塩や調味料で一度下味をつけ食べやすい大きさにカットして焼く。


「フライパンだ」


 調理台には鍋置きのついた薪のコンロもあって、フライパンまであった。


「プロケロは火が苦手だからレンが調理するのよ」


 蛙人は肌が弱いので粘膜で身体を覆う。火の側にあまりいると、粘膜が乾燥しやすい。だからフライパンは僕が使うことになった。


 調理台は大人用で少し位置が高い。踏み台を調理台の前に置き、僕はビッグホーンラビットから採った脂を溶かして、カットしたお肉を焼いていく。


 火を通さず煮る手もあるそうだ。ただ今日は時間がないので明日の分も合わせてお肉を焼いた。


「味付け味付け〜」


 フライパンの上をリリーが飛び回り、パラパラと塩を振る。


「リリーは熱くないの?」


「落ちなきゃ熱くないよ」


 そうなんだけど、ぶつかりそうで怖い。焼いたお肉は暖炉に用意した鍋へ投入する。メヌの種とフキゲン豆の入った鍋に、ダシヌカ菜とアマミダケで味付けし、焼いたお肉を少し煮る。


 食欲をそそる良い香りがし始めて、僕のお腹は警報器のように大きな音を立てていた。

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