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第12話 お肉はご馳走だから


 ビッグホーンラビットを解体した後、山小屋まで運ぶのに、僕とプロケロさんでは重いのと嵩張るので難しかった。木の枝でソリを組み、ランダーさんの出した木の根の紐で縛って運んだ。


「お肉には、先に乾燥させたオミット茸を粉にしたものをまぶしておくんだ」


 年中涼しい山岳の針葉樹。それに清い水が豊富な魔力の高い土地⋯⋯と条件はいくつか選ぶオミットという名前の茸は、虫よけや雑菌の繁殖を防ぎ、熟成させるのに便利な粉を作る素材になる。


 肉の保存には乾燥や燻製や塩漬け、氷漬けにして悪い菌がつかないようにする必要がある。僕はプロケロさんに教わったように、肉を保存するための処理を行う。疲れていても、お肉はご馳走だからね。虫が湧いたりしないようにきちんと下処理が大事なんだ。


「まあ私は蛙人だから、虫が湧いた方が好みなのだよ」


「えっ⋯⋯」


 この世界には色んな人がいて、様々な種族がいる。生活習慣や価値観があまりにも違う人々が一緒に暮らしているという事を、僕は改めて実感した。


 僕の暮らす山小屋付近にこのオミットが自生するのは、英雄ガウツが菌床を持ち込んで繁殖させたものだ。


 英雄に憧れて狩猟の方法や戦闘訓練まで受けたのに、結果は散々だったけどね。


「悄気てないで、臭いから服を脱いで髪と身体洗ってきなよね」


 リリーに言われて、自分がビッグホーンラビットの血を浴びて臭い事に気がついた。汚れを落とすのに時間がかかりそうだ。


「解体がうまくなれば、大きな獲物を捌いても汚れなくなるさ。リリー、この汚れは簡単に落ちないから魔法を頼むよ」


「仕方ないわね。レン早く脱いで」


 僕がかなり疲弊しているのを見てプロケロさんが気をつかってくれた。今日は何だかみんな優しい?


「お祝いよ、お祝い。レンはお肉⋯⋯久しぶりなんでしょ?」


 フキゲン豆のスープは不味いし、山菜と茸のスープは美味しいけれどあっさりしていて物足りない。お肉の味なんてもう覚えていないのに、リリーたちが凄く嬉しそうだから、僕も楽しみになった。


 僕は桶を用意し、水霊石に手をかざす。使い方はリリーが教えてくれた。魔法の石は僕の水を出すイメージに反応して、桶いっぱいに水を出してくれるのだ。


 魔法を使う時もやり方は同じなんだそうだ。魔晶石は魔力の塊なんだけど、魔法の練習にも使われる理由は、こうして魔力を動かすイメージトレーニングだからだ。


 少し手の先が熱くくすぐったい。冷たい水を出しているのに不思議な感覚だけど、それが魔法の力だった。


 

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