第10話 英雄の愛用した武器
リリーとの採取の他に、オミットという万能茸の栽培をランダーさんと始めた。それに、プロケロさんによる狩猟訓練も加わり、僕は毎日が忙しくなった。
「この山小屋はね、元々英雄ガウツが冒険者を引退した際に移り住んだ土地なのさ」
英雄ガウツさんの話は僕も少しはリリーから聞いている。「星竜の翼」という名前のギルドマスター、レガトさんの⋯⋯祖父にあたる人だって。カルミアさんも何らかのつながりがあるとか。
「リリーも私も召喚したのは最近だから詳しくはないんだよ。英雄は、現ギルマスや母上殿とは、実際には血のつながりがないらしい」
ギルドマスターのレガトさんは生まれて間もない頃に父を亡くし、その母のレーナさんは3歳の時に川に捨てられていた所を英雄ガウツに拾われたという。
「カルミアも、レンと同じくらいの時には一人で雑貨屋と冒険者をしていたんだって。でも冒険者なんてチンピラだから、だいぶぼられて利用されたって怒ってたわ」
リリーやプロケロさんやランダーさんから冒険者の話を聞くと、僕は恵まれた方だったのかなと思ってしまう。
この世界は過酷だったから。英雄として語られる人の大半は僕と同じくらいの年齢から苦労したのがわかって、へこたれるよりも、頑張ろうとする勇気が湧いて来た。大変なのは自分だけではないんだからね。
「それじゃあ未来の英雄さん。実戦を踏まえて、狩猟を本格的に始めようか」
プロケロさんから習ったのは枝払いに使う手斧だ。冒険者なら剣や槍や弓とかだと思っていたよ。
「大人になってムキムキの筋肉ついてからの話よ。レンなんて弱っちいからその辺りの棒切れでも変わらないわ」
「うぅ、そうなんだけどさ⋯⋯」
僕は格好良く剣を振り、強い魔物を倒したり、悪い人たちをやっつけたりする姿を想像していた。
「英雄ガウツも手斧を愛用していたよ。枝を払うにも、魔物と戦うにも、小回りが利く。扱いやすいのが一番なのさ」
プロケロさんがニッコリ笑いながら手斧を僕に握らせた。英雄が使っていた武器、そう思うと何だか嬉しくなった。
「レンも何だかんだ男の子よね〜〜」
「うむ。男の子は英雄を目指すとよいゾ」
僕の気が変わったのを知って、リリーは呆れて笑い、ランダーさんは応援してくれた。
僕は楽しくなって忘れていた。ここは僕のいた世界と違う世界なのだということを。
「────レン!」
僕の目の前に兎の魔物が現れた。僕より大きな兎が飛びかかり、僕は手斧を振るう間もなく吹き飛ばされた。
僕の身体が軽かったのと、体制が不安定だったので転がってしまった。
「ビッグホーンラビットよ!」
「聞いてないゾ」
大型のホーンラビットで、森では滅多に出ないはずの魔物だった。長い角に刺されていたら間違いなく即死だった。
僕の世界では兎は大人しいイメージがある。でもこの世界のホーンラビットという兎は獰猛だと教わった。
「獰猛ってわかる? 危険で凶暴なやつね」
大人には大して強くなくても、僕のような子供にはホーンラビットですら大怪我を負う可能性があった。それがビッグホーンラビットとなると猪と変わらなかった。跳びはねる力が強いので逃げるのも難しかった。




