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白金のハイエルフ  作者: 味醂
再会
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雪の朝

 雪の朝



 山の姿は四季折々だ。春に芽吹いた木々は我先にと葉を広げ、僅かに見せていた山肌を新緑に染め上げながら覆い隠して夏を迎える。やがて短い夏が終わりを告げて、思い思いに紅葉すると実り多き秋も残りわずかとなっていて、すぐ目の前に迫りくる、厳しい寒さに備えて葉を落とす。夜のうちに降っていた雪はすっかりと止んで、雪化粧した山肌や木々は朝日を浴びて白く光り輝いていた。


「すっかり雪景色になりましたね」


 湯舟の浅い段に寝そべるように、あの山の雪のように白い肌を寄り添わせ私の首に絡みつくリーリカの吐息もまた白かった。私は肩まで湯に浸かっているので横から抱き着かれている状態なので寒い事はないのだが、リーリカは身体の少なくない部分が湯から露出しており、時折揺れる水面付近ではきめ細かい肌が湯を弾いている。


「そうね。でもその前にリーリカもちゃんと入らないと風邪ひくわよ?」


 この聖地ラスティは山間にあるためか、冬の冷え込みは厳しいようで、明け方前には布団の中で身を寄せ合っていてもやはり冷えるほどだった。そしてその冷えた身体をのんびりと温めるために入る朝風呂が温泉である事に感謝しつつ、目覚めたらまず温泉というのが日課になりつつあった。


「こちらのほうがお傍に寄れますので」


 そう言うリーリカの熱い吐息を首筋に感じながら、私は身をよじりリーリカを抱えると、反転させて自分の膝の上に引き寄せた。

 やや小柄なリーリカを後ろから抱きかかえると、リーリカも特に抵抗することなく私にしなだれかかるが、水の中という事もあり、重さは殆ど感じられなかった。


「ほら、こんなに冷えちゃってるじゃない」


 丁度身体の右側だけひんやりと冷たくなっているリーリカに更に密着すると、手の中に形のいい柔らかな双丘が丁度収まって、僅かだが小さな肩がピクリと震えた。

 胸骨までしっかりと湯が掛かるように、かき集めるようにしていると心なしか立ち昇る湯気が濃くなったような気がするのだった。


「エリス様背中がコリコリですね」


 身をよじらせるリーリカに胸に受ける圧迫感がやや強くなる。


「このところ執務が山の様だったしね、リーリカが上手く解消してくれるんでしょ?」


「それは勿論です。お疲れのエリス様を癒すのも私の務めですから」


 湯舟の中では小さな手が脛から這い上がるのを感じながら振り返ったリーリカと流れるような動作で顔を重ねた後は、記憶が曖昧になってしまっていた。



 ◇ ◇ ◇



「マリス朝食の準備が出来たって」


 ぼんやりと景色を眺めていた私にドアの前で食事に呼びに来たメイドの対応をしていたマイアが声を掛けてくる。この城で寝泊りするようになってから既に半月ほど経っているが、律儀にも毎回食事の用意が整うと部屋まで呼びに来るのだから、朝のこの時間に誰かが来れば、それ以外の理由は考えにくい。


「今行くかしら」


 別に慌てる事はない。私はゆっくりとソファーから身体を起こすと静かにマイアのいる方へと移動して、一緒に部屋を出る。


 廊下では若いメイドが姿勢よく待っており、私達が出てくると丁寧に腰を折って出迎えた後、しずしずと廊下を歩き出し、私達は無言でその後に追従するのも毎朝の決まった光景となっていた。


 いつもより明るく感じられる中庭もすっかり雪化粧をしているようで、木々の枝はやや重そうに垂れ込んでいる。もう少しばかり長く降っていたならば、あるいは折れてしまうのではないかと思うのだが、中庭の隅で早速植栽の雪下ろしを始めている庭師の影を認めると、急速に興味が失せていった。


「マリス様とマイア様をお連れしました」


 建てられたばかりの城館の四階はこの城の主の為のプライベートエリアになっており、この階だけにとどまっていても特に生活に不自由しない程度の各種設備が揃っている。特に来客が無ければ通常は食事も四階のダイニングに用意され、今日もいつもと同じ席に座るのだった。


「おはよう」


「おはようマリス。随分と積もったけど寒くなかった?」


「問題ないかしら。私やマイアは少しばかり温度変化に寛容だから」


 先に席についていたこの城館の主と一言二言言葉を交わし、ふと横に座るマイアを見れば意外そうな表情をしているようだ。吸血鬼の眷属は吸血鬼の特性を持つのだが、まだ吸血鬼になって日も浅い彼女はその事に気が付かなかったのだろう。「そういえば確かに……」なんて呟いている彼女には「そういう事なのよ」と声を掛けているうちに美味しそうな香りと湯気を漂わせるスープが配膳された。


「ではいただきましょう」


 城館の主の声が朝餉の始まりを告げる。とはいってもテーブルについているのは四人。事情を知らないものであればなぜメイドが主と共に座って食事をしているのかと疑問に思われるかもしれないが、この城でそんな事を突っ込む者は居ない――むしろいたとしたらその方が大問題だろう。

 この城では他にも奇妙に映る点は少なくない。この場だけをみても、主人(エリス)その信者(リーリカ)の後方で甲斐甲斐しく世話をする城の者とはまた違ったメイド服を着用しているアリシアの立場も実に微妙なところで、この城のメイド長としてはどう考えているのか個人的には気になるところではあった。

 何日か前にエリスがリーリカにメイド服ではなく普通の服装を勧めていたが、彼女は頑なにそれを受け容れず、同様にリオンの王城からついてきた押しかけメイドであるアリシアも自身の着ているメイド服に拘っている。食事の進行を観察しながら配膳しているメイドは胸元の大きく飾るリボンタイが印象的で、この城本来のメイド長であるにも関わらずすっかりとリーリカやアリシアにそのお鉢を奪われているのが少々痛ましくも感じた。


 焼きたての胡桃の入ったパンを齧りながらこの奇妙な風景から目を逸らすようにマイアを見れば、彼女も行儀よくパンを口に運んでいるところで、その所作の美しさは流石は元貴族令嬢と言ったところだろう。出会った頃の投げやりな翳は身を潜め、今ではすっかりと彼女本来の素直な姿を見ていると、いつの間にか口元が緩んでしまうのは仕方のない事ではないだろうか。


「今日も平和(ひま)な一日になりそうね」


 心の中で呟いて、私は再び食事に集中するのだった。

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