友として 04
相手を視認できるくらいの薄暗闇の中で、レイアは簡素な椅子に座っている。
「よくきたな、レイア」
体温を感じさせない低い声が囁いた。瞑目していたレイアはゆっくりとまぶたを持ち上げる。目前には、レイアの座る椅子と同じものがあり、そこにもう一人、レイアが座っていた。
鏡があったわけではない。それはレイアと全く同じ姿をしていながら、全体が薄黒く染まっていた。
「随分と弱ってしまったのではないか?」
嘲るような薄い笑みを向けられて、レイアは冷たい視線を返す。
「別に弱っていない。お前の希望的観測に過ぎないよ」
「かつてお前が封じた闇は、あとひとつ。私が完全になれば、お前の体など喰い破ってやろう。実に楽しみだ」
「そんな日は永遠にこない。お前は私の中から出ることなどできない」
「いいや、お前は一度失敗している。あの時と同じだ。お前から出たら、お前の周りの人間を一人ずつ呑み込んでやる。手始めにあの男だ。お前との縁を思い出しもしない、薄情な男」
にた、と笑う自分と同じ顔をしたもの。レイアは微塵も表情を変えなかった。
「薄情なのではない。私がそう望んだ」
「レイア、心が揺らいだぞ」
くく、と笑われて、レイアは一度小さく息をついた。
「揺らぎもするさ。お前と話をするのはいつも不愉快でね」
言いながらレイアは椅子から立ちあがる。蔑むように冷たい眼で見下しながら、その口調にはどこか同情するような気配も漂っていた。
「心底うんざりするけれど、残念ながら、お前たちを生み出したのは人間だ。私にできることは、最後までやる」
レイアは先程まで座っていた椅子の方を振り返り、無表情のままそれを思い切り蹴り飛ばした。激しく転がった椅子は、やがて闇に消えた。
「お前とはなるべく会いたくないから、いつもこうするのに、ここに来るとまた元に戻っているから、頭にくるよ」
そう言って、背中を向けたまま肩越しにそれを見れば、さっきまでは無かった、太い鎖に繋がった手枷と足枷が、その自由を奪っていた。
「おしゃべりは終わりだ」
「レイア……!」
必死の懇願にも似た叫びに続いて、ぎり、と奥歯を噛み締める音が聞こえた。
レイアが振り返ることは無かった。




