表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/34

終わりの時 05

 薄暗闇の中で、レイアは椅子に座って足を組み、膝の上に手をのせてゆったりと構えていた。


「お前を飼うことに決めたよ」


 レイアと全く同じ姿をしている黒い闇に、レイアは冷たい視線を向けている。闇は以前よりも濃度を高めていたが、今のレイアには関係なかった。


「馬鹿め。後悔させてやる」

「お前は完全になれば私を喰い破ると言っていた。思い通りにいかず、残念だね」

「……いずれ必ず喰い破ってやる」


 唸りながらそれは、激しい怒りと憎悪をレイアに向けた。レイアは平然とした顔で答える。


「その時はセルジュが私の心臓を貫く」

「できるわけがない」

「セルジュはやるといったらやるよ。でも、そんなつらい思いはさせない。私は絶対にお前を外に出さない」


 闇を拘束する、手枷と足枷に繋がっている太い鎖は、二重になっていた。


「昔よりも、私の力は強くなったみたいだ。平和な時代のおかげかな」


 レイアは椅子の背にもたれかかって、少しだけ笑う。


「謝っておくよ。すぐに消し去ってあげられないことを。私の寿命が尽きるまで、しばらくそうしているといい。その時が来たら、お前も消滅だ」

「ふざけるな」


 それは怒気を振り撒きながら、重い金属音を立て、鎖を引き千切ろうとしている。レイアは眉一つ動かさず、冷淡にそれを見ながら続けた。


「これからも私は、普通の幸せは望めないだろう。お前のおかげで、生涯監視下におかれ、子供もできない。容量不足で、魔女としても使い物にならないし。何の役にもたたない、お前を抱えるだけの荷物番だ。おまけにその荷物は、危険物ときている」


 レイアは一度大きな溜息をついた。しかしすぐに、強いまなざしを向けて、はっきりとした口調で告げた。もう迷いはなかった。


「それでも、生きてみることにする」


 それを最後にレイアが立ちあがれば、どうやってもそこから立つことができない闇が、獣のように低く吠えた。


「レイア、お前がここに私を閉じ込めても、何も変わりはしない。人間がいる限り、闇は生まれ続け、いつか王国を飲み込む。新たな闇に、お前は耐えきれまい。もう魔女はいない。お前もこの国も、終わりだ」

「心配しなくても、その時には、他の誰かが役目を果たすよ。そうして私たちは、これまで生きてきたんだから。滅びかけて、それでもこの国が在り続けることが、その証だ。絶望の次には希望がある。あまり人間を見くびらないことだね」


 それを最後にレイアは背を向け、いつものように椅子を蹴った。それが闇の中に消えてしまったのを見てから、背中を向けたまま片手を上げた。


「ここにはもう来ない。じゃあね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ