終わりの時 05
薄暗闇の中で、レイアは椅子に座って足を組み、膝の上に手をのせてゆったりと構えていた。
「お前を飼うことに決めたよ」
レイアと全く同じ姿をしている黒い闇に、レイアは冷たい視線を向けている。闇は以前よりも濃度を高めていたが、今のレイアには関係なかった。
「馬鹿め。後悔させてやる」
「お前は完全になれば私を喰い破ると言っていた。思い通りにいかず、残念だね」
「……いずれ必ず喰い破ってやる」
唸りながらそれは、激しい怒りと憎悪をレイアに向けた。レイアは平然とした顔で答える。
「その時はセルジュが私の心臓を貫く」
「できるわけがない」
「セルジュはやるといったらやるよ。でも、そんなつらい思いはさせない。私は絶対にお前を外に出さない」
闇を拘束する、手枷と足枷に繋がっている太い鎖は、二重になっていた。
「昔よりも、私の力は強くなったみたいだ。平和な時代のおかげかな」
レイアは椅子の背にもたれかかって、少しだけ笑う。
「謝っておくよ。すぐに消し去ってあげられないことを。私の寿命が尽きるまで、しばらくそうしているといい。その時が来たら、お前も消滅だ」
「ふざけるな」
それは怒気を振り撒きながら、重い金属音を立て、鎖を引き千切ろうとしている。レイアは眉一つ動かさず、冷淡にそれを見ながら続けた。
「これからも私は、普通の幸せは望めないだろう。お前のおかげで、生涯監視下におかれ、子供もできない。容量不足で、魔女としても使い物にならないし。何の役にもたたない、お前を抱えるだけの荷物番だ。おまけにその荷物は、危険物ときている」
レイアは一度大きな溜息をついた。しかしすぐに、強いまなざしを向けて、はっきりとした口調で告げた。もう迷いはなかった。
「それでも、生きてみることにする」
それを最後にレイアが立ちあがれば、どうやってもそこから立つことができない闇が、獣のように低く吠えた。
「レイア、お前がここに私を閉じ込めても、何も変わりはしない。人間がいる限り、闇は生まれ続け、いつか王国を飲み込む。新たな闇に、お前は耐えきれまい。もう魔女はいない。お前もこの国も、終わりだ」
「心配しなくても、その時には、他の誰かが役目を果たすよ。そうして私たちは、これまで生きてきたんだから。滅びかけて、それでもこの国が在り続けることが、その証だ。絶望の次には希望がある。あまり人間を見くびらないことだね」
それを最後にレイアは背を向け、いつものように椅子を蹴った。それが闇の中に消えてしまったのを見てから、背中を向けたまま片手を上げた。
「ここにはもう来ない。じゃあね」




