84.善人、アムと音楽を聴きながら、いちゃつく【前編】
いつもお世話になってます!
桜華に髪の毛を切ってもらった、その日の深夜。
俺はふと、目を覚ます。
「…………今何時だ?」
むくりと体を起こし、枕元に置いてあったスマホを手に取る。
夜中の2時だ。
スマホはこうやって、時計が割として使うことができる。
前は壁掛けの時計を見ないと、時間を確認できなかったからな。
正確な時間を、すぐ確認できる。スマホを作って、正解だったなと思った。
「ふぅ……」
俺の部屋。ベッドの上には、裸身の女の子たちが、気持ちよさそうに眠っている。
特に桜華は、心地よさそうに、すぅすぅと寝息を立てていた。
俺は起き上がると、彼女たちに毛布をかぶせていく。
季節は晩秋。
さすがに裸で寝ると、風邪を引くからな。
コレット、マチルダ、先輩、桜華……そしてアムと、俺は毛布を掛けていく。
そして壁にセットしてあったエアコンの電源を入れる。
スマホにエアコン。
現代的なツールが、この異世界にあることに、俺は違和感を覚えなくなっていた。
コレットとであってから、すでに半年が経過している。
あのときから、俺の運命は、がらりと変わったんだよな。
……としみじみ思っていた、そのときだ。
「……ジロ?」
ベッドの上で、むくり、誰かが体を起こす。
夜の闇の中でも、きらりと月のように輝く、黄金の瞳。
うごめく猫のしっぽに猫耳。
「アム。悪い。起こしちゃったか?」
ベッドの上でアムが、半身を起こして、くわっとあくびをする。
「ううん。気にしないで。へくち」
「大丈夫か?」
俺は落ちているアムの衣服、および下着を拾い上げる。
彼女に近づいて、手渡す。
「…………見ないで」
アムがジトッとした目を俺に向けてくる。
今、彼女はなにも身につけてない。
小ぶりな胸を、両手で隠してる。
「すまん。また子供扱いしてしまった」
アムに衣服を手渡して、俺は後ろを向いて、ベッドに腰掛ける。
ぱち……と、ホックを留める音。
シュル……とシルクの下着をはく音。
みんな寝静まっているから、そんな小さな音さえも、際だって聞こえる。
ややあって、アムが着替え終えた。
「終わったか?」
「ん。もう良いわよ」
俺はくるりと振り返る。
長袖のパジャマに身を包んだアムが、立ち上がると、ベッドから降りる。
そして俺の隣まで移動してくると、真横に腰をかける。
「ジロ。大丈夫?」
アムが俺を、気遣わしげに見てくる。
「ん? なにがだ?」
「ほら……桜華さんに、いっぱい……ほら」
「ああ……」
俺は数時間前のことを思い出す。
「ほんと、いつ見ても凄まじいわ。桜華さん。あんた、大丈夫だったの?」
「ああ、なんとかな。心配してくれてありがと」
「ば、ばか……。べつに、心配なんてしてないわよっ。ふんだ」
ちなみに桜華とのそれを乗り切るために、最近俺は、竜の湯をボトルに詰めて、ベッドの近くに置いてある。
竜の湯は、飲めば体力が回復するのだ。
「でも一晩でボトル5本もって……凄まじいわよね」
「仕方ないよ。それが鬼の女の子と付き合うってことだろ」
「……そ。あんたがいいなら、良いわ」
それきり、アムが黙り込む。
しゅるり……とアムが、自分のしっぽを、俺の腕に絡ませてくる。
獣人にとってしっぽ同士の絡め合いは、重要な意味を持つらしい。
家族や、恋人と愛を確かめ合うとき、こうしてしっぽを絡ますのだそうだ。
「……なんでしっぽないのよ」
不満げにアムがつぶやく。
「人間でごめんな」
「別に悪いなんて思ってないわよ。……ん、ちょっと動かないでよ」
身じろいだときに、アムのしっぽと、俺の肌とがこすれる。
「悪い。しっぽは敏感なんだっけ」
「へ、変なこと覚えてないでよ! ばかっ! バカッ! もうっ!」
ぺちぺち、とアムが叩いてくる。
「ごめんって。許してくれよ」
俺はアムの赤い髪を撫でる。
猫のようなくせ毛。
だが触るとふわふわとしていて、気持ちが良い。
「ん…………」
ぴくん、とアムが身じろぐ。
腕に巻かれてる猫しっぽが、ヘビのようにゆらりと動く。
暖かなケモノのしっぽが、腕を上下に這う。くすぐったさと、気持ちよさを腕を通して感じる。
ややあって、髪の毛を触るのをやめると、
「…………」
アムが不満げに頬を膨らませて、にらんでくる。
「やめてごめんな」
俺は撫でるのを継続する。
「べ、別におねだりなんてしてないからねっ……!」
アムが頬をあからめながらいう。
「はいはい」
「ん…………。もっと耳の付け根のあたり、撫でて」
「了解だ」
俺は猫耳のあたりをよしよしと撫でる。
ふにゃり、と耳がお湯につけたように、ぺちょんと垂れる。
と、そのときだ。
「あ、そうだ。思い出した」




