66.子供たち、秋の森で色々拾う
いつもお世話になってます!
山の紅葉を見たことがないという子供たちを連れて、遠足にやってきた。
天竜山に入って山道を登って少ししたところで、俺たちは止まっている。
子供たちは俺たち職員の目がとまるところで、しゃがみ込んでいる。
「ドングリ見つけたのです-!」
「みーもー」
ラビが笑顔で、手に持っていたドングリをかかげる。
そばにいた子供たちが、ちょこちょこと、ラビとコンのそばへよる。
「へいラビ。バトルしようぜ。ぽけもんばとる」
「いいのですっ! どっちが大きいどんぐりか……勝負なのです!」
審査員はキャニス、鬼姉妹、そしてレイアらしい。
子供たちがラビと、コンの持っているドングリを見比べている。
「みーのほーがおっきいくてかたちもよくってさわりごこちもいいもん」
「コン。それはドングリのことだよな? 他意はないよな?」
俺が釘を刺すと、コンは、
「にぃなんのこと? みーこどもだからわからない。いったいぜんたいなんのこといってるの?」
と純粋無垢な目を向けてくる。だが口元が笑っていたので、たぶんからかってきているのだろう。
「ドングリのことだよ」
「つまらぬかいとう。きょーざめもいいところ。しちょうしゃががっかりしちゃうよ」
「おまえはどこの目を気にしてるんだよ……」
そうこうしていると、子供たちの審査が終わったようだ。
「ではかんてーけっかをみていきましょう。おーぷんざぷらいす」
「「「?」」」
「どっちが大きかったか教えてくれってさ」
コンの言葉を通訳する俺。「おまえ古い番組知ってるな」「にちよーびによくみてた」
それはさておき。
「んじゃ手を上げてくれ。コンの方が大きかったと思った人」
「ふふ、まんじょーいっちでみーのかちだね。みーのかんぜんしょーり。ぱーふぇくとびくとりー」
すると……。
誰も手を上げなかった。
「なん……だと……。卍解!」
驚愕に目を見開くコン。そんなときでもネタを忘れないきつね娘に、俺は拍手を送りたかった。
「じゃあラビの方が大きかったと思う人」
バッ! と全員が手を上げた。
「みーがまけた……あいむるーざー……はいぼく……」
がくり、とコンがヒザをつく。
「なんでや、なんででぃあべるはんがしなないとあかんのや」
「「「だれー?」」」
「ギャグが滑るこのはずかしさたるや……」
ひゃぁ、と言ってコンが自分のシッポを抱いて、ころころと悶え転げる。
「コンちゃん……ごめんなさいなのです」
ちょこちょこ、とラビがコンのそばによる。そして持っていたドングリをすっ……とコンに差し出す。
「らびのドングリあげるのです。これでコンちゃんが優勝なのですっ」
ラビは自分の勝ちをコンに譲ろうとしているみたいだ。負けて悔しがっている友達を見てそのままにしておけなかったのだろう。優しい子なのだ。
「ラビ、きもちだけうけとっておくよ」
すく……っとコンが起き上がる。
「今回はみーのまけ。けどつぎはかならず勝つ。だからきょーはカカロット、おまえがなんばーわんだ」
「コンちゃん……」
じわ……っとラビが涙を浮かべる。
「カカロットってだれだです?」「ごくーさんだー……ぁね」
他の子供たちは別のものへと興味が移ったようだ。
「おっ! なーなーおにーちゃんっ!」
「ん? どうしたキャニス」
いぬっこがシッポをぶんぶんしながら、俺に近づいてくる。その手には松ぼっくりが握られていた。
「でけーです!」「すごいな、結構でかいなそれ」
キャニスの小さな手からこぼれ落ちそうほど、大きな松ぼっくりだった。
「でしょー! へへーんっ」
大きな松ぼっくりを拾えて、得意げに胸を張るキャニス。
子供たちがちょこちょこと歩いて集まってくる。
「ほわー、きゃにすそれでかい。すごい」
「とってもおっきーのです! いいなぁ」
「…………姉貴」
「よー……ぉし、おいらもおっきーのさがすぞー……ぉ」
子供たちはみんな、キャニスの大きな松ぼっくりを見て羨ましいと思ったのだろう。かがんで探す。
キャニスは拾った松ぼっくりを、背負っているリュックにしまう。それは【無限収納】の魔法が付与されているので、色んなものがたくさん入るのだ。
「なかなかおっきーのないねー……ぇ」
「姉貴! これとか……くっ、キャニスの方がでっけーか……」
妹鬼がぽいっと捨てた松ぼっくりを、あやねは拾ってリュックにしまう。
「姉貴、それ捨てたんだけど」
「これでアクセサリーでも作ろうかなー……ぁっておもってー……ぇね」
すると子供たちが「「「それだー!」」」と姉鬼を指さす。
「どんぐりとかまつぼっくりでアクセサリーつくるとかしゃれおつ」
「あやね、それすっげーナイスです!」
「んへー……ぇ♡ そうかなー……ぁ」
てれてれ、とあやねが頭をかく。
「よしおめーらっ。1番おっきーのさがしつつ、拾ったものは回収すんぞっ」
「あとでみーだけのアクセサリーつくる。たのしみすぎる」
子供たちはいっせいに落ちてるものを拾ってぽいぽいとリュックにしまう。
子供たちがそうやって拾いものをしているのを見て、俺は桜華とコレットに言う。
「俺たちも集めるか」
「素材集めね」「……わかりました」
俺は子供たちが遠くへ行かないよう注意を払いながら、松ぼっくりやドングリを集める。
「にーちゃんみてー……ぇ」
姉鬼がアカネとともに、俺のところへやってくる。
「こんなのひろたー……ぁ」
「? どれどれ」
それはドングリに形が似ていたが、おにぎりみたいな形をしている。表面はつるつるとしていた。
「これもドングリかなー……ぁ?」
「いや、これは別だな。これは栗だ」
「んー……ぇ?」「くりって黄色くてやわらかかったきすっぞ?」
ああ、この子たちは剥いたあとの栗しかみたことがないようだ。
「あやね、コレどのへんで拾ったか?」
「こっちー……ぃだー……ぁよ」
ぴっ、とあやねが東の方を指さす。
「おーいみんな集合」
俺は子供たちを呼び寄せる。
「! おめーらしゅうごうだ!」「つどえ、にーのもとへ」
わー、と子供たちが集まってくる。
「これからちょっと移動して栗を拾いに行くぞ」
「「「くりー?」」」
獣人たちも栗の中身しかみたことがないらしい。
俺はあやねの先導の元、栗の木のそばまでやってくる。あちこちにイガグリが落ちていた。
「あー……。帽子被ってない子はこっちこい」
マジック袋から帽子を取り出して、子供たちの頭に乗っける。
「おにーちゃん……たいへんです……」
キャニスがしゃがみ込んで、神妙な顔つきで俺を呼ぶ。
「どうしたキャニス」
俺はキャニスの隣へしゃがみ込む。ぴっ……とイガグリを指さして言う。
「ぼくこれしってるです。モーニングスターってやつです」
……いやに真剣な表情のキャニス。
うん、まあ、そうだよな。栗の中身しかみたことないんだ。イガグリなんてしらないだろう。
「おう、ほんまやんけー」
コンがキャニスの隣にしゃがみ込む。
「もーにんぐすたーやん。ふりまわすやつじゃん」
「コン……。間違った知識を与えるなよ」
「まちがったちしきってなーに? コンはこのせかいのじゅーにんのかわゆいきつねむすめ。イガグリとかしらないよ」
知ってるじゃんか……。
「はわわ、モーニングスターがいっぱいおつてるのですっ!」
「姉貴ー……ぃ。怖いよぉー」
ぐすぐすと泣きながら、アカネと、そしてラビが、あやねに抱きついてる。
「だいじょうぶだぁよー……ぉ。おいらがついてるよー……ぉ。おいらがふたりの盾になるからねー……ぇ」
するとラビとアカネが、「「それはだめー!」」と首を振るう。
「あかねちゃんが危ないのです!」
「そーだぜっ! 姉貴があぶねーじゃん。ンなのアタシがゆるさねーよ!」
あやねに抱きつくラビとアカネ。
「ふたりともありがとー……ぉ。おいらは良い友達と妹をもってしあわせだー……ぁね」
「あやねちゃん!」「姉貴!」
ひしっ、と抱きつく三人。そしてその場でわっせわっせ、と肩を組んでぴょんぴょんする。
「そんでおにーちゃん、これはモーニングスターです?」
キャニスが俺に問うてきたので、「違うぞ」と答える。
「「「ちがうのー?」」」「違うの」「「「そっかー……」」」
ほっ、と子供たちが安堵の吐息を漏らす。
「なんだよー」「あぶなくなくってよかたたのです!」「アカネちゃん、よかったー……ぁね。泣かなくて良いよー……ぉ」「別にないてねーし!」
子供たちが安堵している中で、俺はリュックからトングを取り出す。
ぐさっ、とイガグリに指して、押し広げる。
「「「!」」」
子供たちが驚愕に目を見開く。
「よっと。ほら、見てみな」
イガグリの皮を押し広げて、俺は露出した果実を指さす。
「これはー……ぁ」
あやねがいち早く正体に気づいたようだ。さっき実物を見せたもんな。
あやねがしゃがみ込んで、果実の部分をつつく。
「あ、姉貴っ。あぶねーよ! さわったらチクってなるっ! チクって!」
「いがいがじゃないぶぶんならー……ぁ。だいじょうぶだよー……ぉ」
ほうほう、とキャニスがあやねの隣に座って、つつく。
「たしかにちくちくがねーです」「ほんとうなのです」
つんつん、とつるつるとした果実をつつく。
「ちょっと避けてな」
俺は子供たちを離れさせると、トングで栗の実を取り、「あやね。手を」「はーー……ぃ」
あやねの小さな手の平に乗せる。
「おー……ぉ。これはさっきのだー……ぁね」
栗の実を姉鬼がしげしげと見やる。
「へいあやねる」
すすす、とコンが近づく。
シッポをあやねに向けて言う。
「もんだいです。これはなんでしょー?」
「んー……ぅ。そだー……ぁね」
つるつるの栗の実を持ち上げてあやねが言う。
「これは栗の実だなー……ぁと、おいらはおもうよー……ぉ」
「せいかい。ではつづいてだいにもん。あのいがいがはなに?」
コンの質問に、キャニスがバッ! と手を上げる。
「きゃにすくん」「栗がしんかしたやつー!」「おしい」
ちぇー、とキャニス。
「はいはいっ。コンちゃん!」
「はいらびくん」
「これは……これは、栗の実をつつむ、皮なのです!」
子供たちがじっ……とコンを見やる。
コンは「ふぁいなるあんさー?」とラビに聞く。
「ふぁ、ふぁいるなるあんさー」「…………」
コンが無表情のままラビをじいっとみやる。
「ほんとうにそれでふぁいなるあんさー?」「う、うう……じしんがなくなってきたのです」
垂れたうさ耳が、さらに垂れる。
「ラビッ! じしんもちやがれです!」
そんな兎娘の背中を押すのが、うちの元気なリーダーだ。
「そだー……ぁよ。ラビちゃんはあたまいいんだからー……ぁ」
「そうだぜ。じしんもってラビちゃん!」
「アカネちゃん、あやねちゃん……」
うんっ、とラビが力強く頷く。
「ふぁ、ふぁいなるあんさー、なのです!」
するとコンが「…………」ああっ、みたいな顔で口を開き、絶望の表情を浮かべる。
子供たちは「「「だめかー!」」」とみんなが顔を手でおおう。
「せーかいっ」
コンがシッポで○を作る。
「「「わー!」」」
子供たちがラビにいっせいに近寄る。
「すげーぞラビっ!」「ラビちゃんよくわかたー……ぁね」「わかるにきまってんだろ。ラビちゃんはすげえーんだからな!」
子供たちがラビを囲んで、わっせわっせ、と飛び跳ねている。
「えへへっ♡ あっててうれしーのですっ! いがぐり……おぼえたのです!」
こうして子供たちは新しい知識を身につけたようだった。
お疲れ様です!次は桜華さんと子供たちとが山のキノコとか栗とかをひろってく感じです。
ではまた!




