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【完結】善人のおっさん、冒険者を引退して孤児院の先生になる 〜 エルフの嫁と獣人幼女たちと楽しく暮らしてます  作者: 茨木野


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43.新しい孤児院での1日

いつもお世話になってます!




 今日は新校舎での生活を見ていこう。


 マチルダがウチの職員になって、1週間が経過したある日のこと。


 すっかり夏も真っ盛り。


 朝起きるとすさまじい熱さを感じる。


 俺は6時に目を覚まして、内風呂に入りひげを剃って、嫁たちを起こす。


 6時半には職員が起きる。ホールでその日の分担と1日の流れを打ち合わせして(昨日の時点である程度は固まっているので、確認程度)、行動開始。


 ちなみにマチルダは桜華たち鬼のことを知っているし、納得もしている。


 1週間前、マチルダは一花と出会った。


 2度目に彼女たちにあったマチルダは、そんなに怯えてなかった。俺は鬼の実態や境遇を説明し、マチルダはそれを了承。


 そしてこの1週間、鬼たちと共同生活を過ごしたことで、マチルダはすっかり鬼に対する抵抗感をなくしていた。


 今では桜華とも、その娘とも、あやねたちとも、マチルダは普通に接している。


 それはさておき。


 コレットと桜華は朝食作り。


 俺とマチルダとアムは子どもたちを起こしに行く。


「ぐぅー……」「ぬぅー……」「ですぅ……」


 すやぁ……と眠る子どもたちをひとりずつ起こしていく。


 まずはキャニス。


「キャニスー」「はっ! 朝か-!」


 キャニスは一発で目を覚ます。


 次にコン。


「コンー」「ぬ……」「コンー」「だれかがみーをよんでる。ふぁんのひとかな?」


 キャニスほどではないが、目覚めは早い。


 あやねとアカネがマチルダに起こされていた。


「ふたりともおはよう!」


「まちるだおはよー……ぉ」「…………」


 あやねはふへっと笑っているが、アカネはまだ眠そうだ。ぎゅーっと姉の腕を掴んでこくりこくりと船を漕いでる。


「ラビ。ラビあさだぞー」


 ベッドで規則正しい寝息を立てているラビをよいしょと抱っこする。


「ラビ、ほら、朝だぞ」「んぅー……」


 ラビは朝が苦手だ。だからこうしてだっこして揺すってあげないと起きない。


「あ、ずりー! ぼくも抱っこしやがれです!」


「みーもだっこされたいきぶん」


 にゅっ、とキャニスとコンが俺の肩に乗る。


「ラビ、ほーら、みんな起きてるぞー」

「んぁ~……。にーさぁー……ん」


 ラビがしょぼしょぼと目をこすりながら、またこくりこくりと船を漕ぐ。


「まだ起きないか……。よーし、みんな、裏庭に移動だ。ラジオ体操するぞー」


「「「っしゃー!」」」


 キャニスとコンが俺からおりて、ぱたぱたと部屋を出て行く。


 マチルダは鬼姉妹の手を握って一緒に出て行く。


「ぐー」「レイア……」


 レイアは微塵も起きる気配がしない。


 俺はレイアとラビを抱っこして、部屋を出て行く。


「そんじゃ、アム。あとは任せたぞ」


「ん、おっけー」


 アムはシーツを回収する。職員のエプロンには【筋力増強ビルドアップ】と【高速化ヘイスト】の付与されているため、小柄なアムでもシーツの回収は容易い。


 前と違って今はアムも立派な職員だ。


 こうして俺たちの手伝いをしてくれる。


「エプロン姿、似合ってるぞ」


 アムのしっぴがピーンっとたつと、ふにゃりと垂れる。


「ば、ばかいってないではやく行きなさいよ。ばかっ、ばかっ」


 ぱたたたたたー♡ と猫耳が羽ばたいてて実に可愛らしかった。


 俺はラビとレイアを連れて裏庭へ行く。


「よーし、みんな! 体操の時間だよ!」

「しっかりぼくらの動きをまねやがるですー!」


「「おー!」」


 ラジオ(出したはいいけど電波が使えないので無用の長物と化している)の前にマチルダとキャニスがたっている。


「ちゃんちゃかちゃーん! ちゃんちゃんちゃーん! 手を振り上げろてめえらー!」


 さっ! と子どもたちがキャニスとマチルダのマネをする。


 キャニスたちの前には鬼姉妹とコンがたっている。俺はラビをコンの隣に立たせてやった。


「あぅ~……」


「らび、ねるな。ねるとしぬぞー」


 コンが自慢のふかふかしっぽで、ラビの脇腹をくすぐる。


「あは、あははっ、コンちゃんやめてー♡」


「やめろといわれるとやりたくなるふしぎ。ほれほれ」「きゃはー♡」


 コンのくすぐりでラビが目を覚ましたようだ。


「ほら、レイア起きろ。体操の時間だぞ。キャニスがひとりでやってる」


 するとレイアが「なんですってー!」と起きる。


 翼を広げて俺から飛び立ち、キャニスの隣にたつ。


「レイアおっせーぞです。マチルダが代わりに一緒に踊ってくれてやがるです」


「れいあがやるからっ、まちるだはあっちいってないさい!」


「うん、わかったよ~」


 マチルダはラビの隣へ移動。


「ラビちゃんおはよう♡」


「マチルダお姉ちゃん♡ おはよーなのですー♡」


 起きたばかりのラビが、マチルダや他の子たちにあいさつをする。


「こらー! おめーら手がとまってんぞー! うでをうごかせやですー!」


 キャニスがぷんぷん腹を立てると、子どもたちは「そうでした!」「さぼりよくないね」「アカネちゃん起きないとおこられるよー……ぉ」「ふぁあ……い」


 体操をしていると日が昇ってくる。


 日差しが俺たちを焼く。みんな額に健康的な汗をかいていた。


 やがて体操が終わる。


「よーし、じゃあみんな手を洗って中にはいれー。朝ご飯だぞー」


「「「はーい!」」」


 裏庭は新校舎を建てる際、新しく整備された。


 サッカーゴールや遊具、そして手洗い場もできている。


 じゃばじゃばと手を洗い、石けんを使ってキレイにしていく。


 洗い流した子の手を、俺とマチルダがタオルでふいてやる。


「ぼくがいちばんのりー!」


「みーは2ばんてー」


「れいあが1番だもん-!」


 だーっ! と元気が良い組は、窓から1階ホールへ行き、食堂へと走って行く。


「み、みんなまって~……」


 ラビがあせあせと急いで手を洗おうとする。


「だいじょうぶだよー……ぉ、らびちゃー……ん」


「そうだぜ。あいつらにあわせるひつようねえって。ゆっくりでいいし」


「アカネちゃん、あやねちゃん……」


 比較的おとなしめなラビと鬼姉妹。あやねたちはラビを待ってあげてるみたいだ。


「マチルダ。先いってコレットたちの配膳の手伝いを」


「はいっ! わっかりました!」


 マチルダは元気よくうなずくと、だだだーっと走って行く。元気だな。アレが若さか。


「てあらいおわったのですー!」


 にぱっ、と笑ってラビが両手を俺に向けてくる。


「うん、泡も残ってない。今日もラビが1番よく手を洗えてるな」


「えへへっ♡ にーさんにほめられてうれしーのですっ!」


 ラビの小さな手をタオルでぬぐってやる。


「ラビちゃんはさすがだぁー……ね」


「…………」


「あー……アカネちゃんもお手洗い上手だとおもうよー……ぉ」


「は、はぁ!? べつにこんなのにうまい下手とか、ねーだろーが!」


 どうやら姉がラビをほめていたので、妹がむくれてしまっていたのだろう。


 すかさずあやねがフォローに入る。


「えらいぞ、あやね。さすがお姉ちゃん」


「んへぇ♡ ほめられちった」


 俺はラビたちを連れて食堂へと移動する。

 

 新しくなった食堂は広く、そして長テーブルも2列に増えた。


 背の高いイスに、俺はラビと鬼姉妹を座らせる。


 料理を終えたコレット。皿はマチルダとアムが配膳している。


 子どもたち全員に食事が行き渡った後、俺たち職員もイスに腰掛ける。


「んじゃ、今日のいただきます当番は……」


「みー」


 そう言ってコンが手を上げる。


「よし、じゃあ頼むぞ」


「おまかせあれ」


 こほん、とコンが咳払いをすると。


「それでは……おててとおててをあわせて」


 全員が胸の前で、手をパンっ、とあわせる。


「じんたいれんせー」「わかりにくいネタやめろ」


 現地人たちが全員、はて? と首をかしげる。


「異世界人しかわからないから」「はがれんよみたい」「今度出してやるから」


 コンは俺と一緒で転生者、つまり前世が地球人だ。


 だからこいつは、ちょいちょいネタを挟んでくるのである。


「それじゃーあらためて。……いただきますっ」


「「「いただきまーす!!」」」


 全員が元気よく声を張り上げる。


「がががっ! がつがつがつ! うめー!」


「うまあじ。あさはわしょくにかぎるね」


「ふええ……じゃむこぼしちゃったのですぅ……」


 俺たち職員は、いちおういただきますをするときは座っているのだが、子どもたちが食事を始めるとまた立ちあがってそれぞれが行動する。


「おーかおねーちゃんっ! おかわりっ!」


「みーも!」


「……はい♡ ちょっと待っててくださいね♡」


 桜華がキャニスから茶碗を受け取って、てててて、と調理場へ移動する。


 俺はラビの口元をぬぐってやり、新しいジャムとトーストを用意する。


 子どもたちにも和洋で好みがある。

 

 和食は、コン、キャニス、鬼姉妹。


 洋食はレイア、ラビが好む。


 いつも和洋でどっちも用意はしている。米もトーストも事前に俺が【複製】して出してあるのだ。


「そーせーじなくなった! おかわりー!」「そーせーじーぷりーずー」


「はいはいちょっと待ってなさいね」


 アムが皿を回収。コレットはすでに焼き上がったソーセージを皿にのせる。


 調理場に桜華とコレット。


 現場には俺とアムとマチルダの3人。

 

 おかわりへの対応。よごしちゃったり床に物を落としたときの後始末。


 結構朝から大変だったりする。


 なにせ子どもたちは食欲旺盛だ。朝から腹がパンクするまで詰め込む。


「くったー!」「そとであそぶわよ!」「きょーはどっじぼーるしよー」


 アウトドア派がまず食い終わる。


「おにーちゃん下ろしやがれです!」


「みーをちじょうにかえして」


 足の長いイスに座っているので、俺たちが下ろさないと子どもたちは降りれない。


 レイアはバサッと翼を広げると、ひとりぴゅーっと飛んでいく。


「キャニス、コン。ごちそうさまするから、ちょっと待ってろ」


「「へーい」」


 俺は飛んでいったレイアを回収してイスに座らせる。


「なんでよ」「飯を食い終わったらみんなでごちそうさましろっていったろ?」「ちぇー」


 ややあって、全員をイスに座れ背手ごちそうさまをする。


「よーし! じゃあみんなっ! 私といっしょにドッヂボールだー!」


 マチルダにはアウトドア派の対応を任せる。


「きょーこそまちるだをたおすぞ、コンッ!」「このげーむにはひっしょーほーがある。それをつけば勝てるんですよ、あきやまさん」「誰よそれ?」


 マチルダとともに、キャニス、コン、レイアが食堂を出て行く。


 アムと俺はあいた皿を回収。コレットと桜華は洗濯物を回収しに、食堂を出て行く。


「はう……アカネちゃん。あやねちゃん、ごめんなのです」


 ラビは食が細いわけじゃないんだが、いかんせん食べるのが遅い。


「いいよー……ぅ。待ってるよー……ぅ」


「そーだぜ。ゆっくりくいな」


「うんっ!」


 鬼姉妹はラビが終わるのを待つ。


 俺はアムと手分けして皿を洗う。と言っても皿には【動作入力プログラミング】の魔法がかかっているので作業自体は楽だ。


 皿は手を使って、スポンジで表面をさっと洗う。


 すると【洗剤で磨かれたら、水ですすいで、食器棚へ戻る】という動作命令プログラムに従って皿が独りでに動いてくれる。


「便利よね、これ」


「ああ。だからアム、おまえは先に飯を食え。食い終わったらマチルダと交代な」


「ん。おっけ」


 職員たちの朝ご飯は、ある程度作業が終わり、落ち着いてからだ。


 俺が食器を洗っている間に、アムが隣の机で洋食を食べる。どちらかというと現地人は洋食を好む傾向がある。


 和食は少数派だ。俺とかコンとかあと先輩とかな。


 すると「ふぁあ……おはよう、ジロー」


 と言って、ピクシーが起きてくる。


「おはよう、先輩」


 先輩は学会を終えて、孤児院へと戻ってきてる。新しくなった校舎を見てびっくりしていた。


「先輩は和食だよな」


「ん。すまないね。食べたらすぐに子どもたちの相手するよ」


 ご飯と味噌汁をついで、冷蔵庫から目玉焼きとソーセージを取り出してレンジで温める。


「いや、先輩は職員じゃないんだからいいって」


「そうかい? まあでもそれだとしても、私は子どもたちが好きだから。勝手に彼女たちと遊ぶよ」


 食事を取り終えたピクシーとアムが、裏庭へ向かう。


 入れ替わるようにマチルダが帰ってくる。

「ジロさんっ! わたしも、和食が良いです!」


「え。おまえパンのほうが好きだろ?」


 彼女が職員になって1週間。食事の好みもようやくわかるようになった。


「いえっ! 私、ジロさんの食べてるものが食べたいんです!」


「ああ、うん。わかった……」


 俺は米と味噌汁を用意してやる。


「いただきますっ! はぐはぐはぐはぐ!」


 マチルダはよく食べる。あっという間に食い終わると、自分でご飯をよそいで、またはぐはぐと食べる。


「すげーくいっぷりだぜ……」とアカネが感心している。


「アカネちゃんもあれくらいたべないとー……ぉ。おっきくなれないよー……ぉ」


「う、うっせーよ姉貴!」


 あやねと違ってアカネは食が細いのだ。


「けぷっ。ごちそーさまなのです! けぷっ」


 ラビがようやくご飯を食べ終わる。


「ごちそーさまですっ!」


 同じタイミングでマチルダが飯を食い終わったので、子どもたちをイスから下ろしてもらう。


 あいてる皿の回収をしてもらうと、マチルダが俺の隣へやってくる。


「ジロさんジロさんっ♡」


 嬉々としてマチルダが、俺の隣ピッタリくっついてくる。


「どうした?」


「へへっ♡ こうして並んでお皿洗っていると、新婚さんみたいんですねっ!」


「え、あ、ああ……。そうだな」


 俺とマチルダは付き合っている。だがまだ結婚したわけではないのだが。


「じー。じろくん、じー」


 洗濯物を回収しに行っていたコレットと、桜華が、飯を食いにやってきた。


「ジロくんや。マチルダと仲が良いジロくんや。とてもマチルダと仲が良さそうじゃのう」


 すすす……とコレットが食堂から、にゅっと調理場に顔を伸ばす。


「ええっ! とっても! ジロさんと私は、とっても仲が良いですから!」


 濡れた手で、マチルダが俺の腕を取って言う。


「マチルダ♡ 今は仕事中よ♡」


「わかってます!」


 にこにこにこーっと笑い合うマチルダとコレット。けど目が。目が笑ってないっす、ふたりとも。


 コレットに洋食を、桜華に和食を出してやり、俺はその場を後にする。


 コレットたちのぶんは自分たちで処理するのだ。そして俺が出て行くのと入れ替わるように、


「おーす兄ちゃん♡」「おにーさん♡ おはよー」「おじさまおはようございますわ♡」「おっちゃんちーっす!」「…………」


 鬼娘たちが、2階から降りてくる。


 三女の美雪以外全員からあいさつをされる。


 彼女たち鬼娘は、子どもたちの食事が終わった後なのだ。


 一緒だとそれこそ、戦場のように忙しくなるからな。


「兄ちゃん兄ちゃん♡ 昨日も激しかったねぇい♡」


 にやり、と長女の一花が笑って言う。


「おにーさんって意外とたふだよね~♡」


「……なんで知ってるんだよ」


「「さてどうしてでしょー」」


 と意味深に笑って、鬼娘たちは食堂へと入っていく。


 やっぱり野外だとバレるのだろうか。



    ☆



 今日の午前中は森の中を散歩だ。


 全員が帽子を被り、肩から水筒をさげる。


 引率は俺とコレット。残りの面々は校舎に残って他の仕事(掃除洗濯)。


「いいかてめーら! もりのなかでまいごになったとき、どーするのです? はいコン!」

 

 新校舎の入り口前、散歩に出発する前に、キャニスが注意事項をたたきこむ。


「むやみにうごかない」


「正解っ! つぎラビ! まいごにならないためにどーすりゃいいです?」


「えとえと、ひとりでぜったいに行動しない、なのですっ!」


「正解っ!」


 キャニスはみんなのリーダー的なそんざいであるため、誰ひとりとして迷子になることを許さないのだ。


「よーしかくにんさぎょーしゅーりょーです。よーし、てめえら、探検にしゅっぱつするでやがるですー!」


「「「おー!」」」



 てててて、と子どもたちが駆けだしていく。


 俺は足の遅いラビと手をつなぎ、コレットは鬼姉妹と両手につないで、アウトドア派の連中の後に続く。


「最近本当に毎日暑いわねー」


 コレットは額に汗をかきながらいう。


 しゃわしゃわ、みーんみーん、と森の中はセミやらなんやらの声でうるさいくらいだ。


「でもでもっ、寝るときと起きるときは、くーらーのおかげでかいてきなのです!」


「クーラーはー……ぁ、いいもんだよねー……ぇ」


 日本の電化製品は、俺の【複製】スキルで出すことができる。


 この国は四方を山と森に囲まれる盆地のような形になっているため、夏は暑いのだ。


「ほんと、ジロくんが来てくれたおかげで、今年の夏はとっても過ごしやすいわ。ありがと、ジロくん♡」


「なのですっ!」「ありがとねー……ぇい」「……あんがと」


 コレットと子どもたちにお礼を言われると、なんだか照れくさい。


 すると先行していたアウトドア派の連中が、木の前で立ち止まっていた。


「どうした?」


「「「セミー!」」」


 見やると、木の幹にセミが止まっていた。


「コンッ、あみをっ、虫取りあみをもってこいですっ!」


「しもーた。もってない。ごめんぬ」


「そんなのいらないわよ」


 レイアはバサッと翼を広げると、びゅんっと素早く木に近づいて、セミを捕まえる。

「「「おー!」」」


 獣人たちが耳をぴーんとたたせ、鬼姉妹は目をきらきらさせる。


「ふふん、どうよ。みごとなもんでしょう?」


「すげー!」「れいあ、ぱねえ」「レイアちゃんすごいのですー!」


 やんややんや、と子どもたちがレイアを褒めちぎる。


 しかししゃわしゃわとセミがうるさかったので、「うるちゃい」レイアはすぐにリリース。


「セミはうっせーです」と耳を押さえてキャニスがいう。


「のいずきゃんせりんぐきのうほしいよね」


「コンちゃんがまたしらないたんごをいってるのですっ」


「コンちゃんは博学だぁー……ね」


 おー、と子どもたちがパチパチとコンに拍手する。


「せいせい。さぁおさんぽをつづけよう」


「「「おー!」」」


 俺たちにいるソルティップの森は、現在私有地になっている。


 森には管理人をおいてあるので、外部から人が入ってくることもない。


 安心して、獣人や鬼族たちを、こうして外で散歩させられるのだ。


 ちなみに森の中の危険動物やモンスターもすべて駆除されている。それらの駆除管理も、全部【あいつら】がやってくれている。


「にぃ」


 にゅっ、とコンが俺の肩に乗っかってくる。


「どうした?」


 前を歩いていたはずが、いつの間にかコンが、俺の肩に乗っていた。あいかわらずすばしっこいヤツだ。


「最近森の中、がんがんごんごん、うるさいね」


 コンの指摘したとおり、遠くから工事の音がする。


「ああ、今作ってもらってんだよ」


「つくる? けーせいする? びるどする?」


「うんまあ、そうだけど」


 本当にこの子は何歳なのだろうかと思う。


「なにをびるどしてるの?」


「うんまあ、お楽しみに。夏が終わる前には完成するっていってたから、そろそろ入れると思うぞ」


「ほー、それはたのしみ」


 するする、とコンが降りて、キャニスたちと一緒にちょこちょこと歩き出す。


「ジロくんジロくん」


 ちょんちょん、とコレットが俺の肩をつつく。


 ラビと鬼姉妹は、キャニスたちを追いかけて走って行った。


「クゥちゃんのとこからね、昨日水着届いてたよ」


「お。さすがクゥ。仕事が早い」


 何を作っているのかというと、プールだ。

 

 最近めっきり暑くなったきてからな。子どもたちに水浴びをさせてやりたいのだ。


 ただこの森の中には、川はあるんだがすごく遠くにある上に、流れが急だ。


 よって水浴びしたくてもできないのである。


 ということで、俺は【あいつら】に工事を依頼し、プールを作っている次第。


「そう言えばコレットも水着を頼んだんだよな」


「うんっ。どう、楽しみですかね?」


「そりゃあ、楽しみですな」


 にこっと笑うと、コレットが俺の腕に抱きついてくる。


「ジロくんを悩殺するために、きわどいのを選んでみたよっ!」


「いや……子どもたちも入るから、普通のでな」


「わかってるわよ。ちょっとした冗句よ冗句♡ それともジロくんはエッチな水着のほうがいい?」


「そりゃ……まあ」


「ふふっ♡ 素直でよろしい」


 なでなで、とコレットが頭を撫でてくる。


「ふたりきりのときにね♡」


「ああ」


「おにーちゃーん! おねーちゃーん! セミがいるー!」


 キャニスが俺たちを呼んでいたので、コレットともにそっちに向かうのだった。



    ☆



 昼食を食った後は中でお絵かき。


 1階ホールにて、真剣な表情で、子どもたちが画用紙にクレヨンで絵を描いている。


 お題は好きな物。審査員は俺。


「はいはいはいっ! ぼくがいちばんにかきあがったです!」


 キャニスが手を上げる。


 てててっと走ってきて、俺に画用紙を見せてくる。


 そこにはキャニスと、コン。ラビにレイア。そして鬼姉妹がみんな笑って手をつないでる絵が描かれていた。


「そっか。友達か。いい絵だな」


 俺はキャニスの頭を撫でてやる。キャニスの犬耳がぺちょんぱたぱたと激しく動く。


「つぎ、みー」


 コンが画用紙を持ってくる。そこには俺とコレットが描かれていた。


「にぃとまみー。どっちもすき」


「ありがとうな、コン」


「がはくとよんでも、よろしくてよ」


 コンの頭を撫でてやると、今度はラビがやってくる。


「らびは……これがすきなのですっ!」


 そう言うと、そこにはキャニスたち子どもたちと、俺たち職員。鬼族の娘たち、つまり孤児院の全員の絵が、すごく上手に書かれていた。


「これは……上手いな」


 驚く。写真かと思うくらい、ラビの書いた絵は達者だった。


「すっげーぞラビ!」「みーがとってもせくしーにかかれてる」「おじょうずだぁねー……ぇ」「すげー、ラビちゃんマジスゲえマジ最強」


 おー! と子どもたち全員が、ラビの描いた絵を褒める。


「おまえは頭も良いのに絵も上手いのか。ほんと、ラビは将来が楽しみだな」


「えへへっ♡ ほめられたのですー!」


 その後も子どもたちの絵を見た。


 どれも友達か、俺たちの絵だった。


「ないようがかぶっちまったです」


「ちょさくけんしんがいでたいーほ?」


「みんなみんながだいすきってことなのです!」


 それな、と子どもたちがうなずいてる。


 お絵かきの時間が終わると午後のおやつだ。


 ここ最近はアイスばかりだったので、今日はスイカ。


「あっめー!」「うっめー!」「おいしのですー!」


 食堂に集まった子どもたちが、半月に切ったスイカを、がつがつがつと食べていく。

「みなのしゅー、たねはぺっするんだよ。おなかごろごろしちゃうからね」


「コンはかせっ! りょーかいでやがるです!」


「はかせとかてれますがな。まんざらでもありませんがね」


 午後のおやつを食べると、お昼寝の時間だ。


 子どもたちを寝かしつけると、俺はすぐさま地下の作業場へ行って、食材を【複製】する。


 作った物をカゴに入れて、調理場へともっていく。


「ジロ。手伝うわよ」


「アム。悪いな」


 アムと一緒に、作った食材を冷蔵庫の中に入れていく。


「そう言えばアムも水着をクゥに頼んだんだよな」


「う、うん……」


 アムが目をそらしてうつむく。


「どうした?」


「……だって。ジロってあれでしょ。どうせアタシの水着姿なんて、見たいって思ってないんでしょ」


「いや、そんなことないぞ。普通に見たいって」


「でも……コレットやマチルダと違って、アタシ、胸ないし……」


 自信なさそうにうつむくアムの頭に、手を乗せる。


「そんなことないよ。おまえも十分すぎるほどだって」


「そ、そうかなっ」


 ぴーんっ、とアムの猫しっぽがたつ。


「ああ。だから楽しみだよ。どんな水着なのか」


「あ、あんま期待しないでよね。ほんと、コレットと比べたら、ほんと、ほんとだから……」


 もにょもにょと口ごもりながら、食材を全部入れ終わる。


 俺はアムと一緒に物干し場へと向かう。


 裏庭から少し離れたところに、物干し竿がかてあり、そこに洗濯物が大量にぶら下がっている。


 職員全員で洗濯物を回収する。


 なにせ21人分の洗濯物なのだ。ここが1番の重労働である。


 洗濯カゴに入れて校舎へと戻る。


 カゴをホールのソファ前に置く。


 すると洗濯物にかかっていた【動作命令プログラム】が発動。


 洗濯カゴに入れられた洗濯物は、ソファの前にカゴが置かれると、自動的に折りたたまれるようになっているのだ。


 乾かすのと回収するのは手作業で行わないといけない(プログラムも絶対じゃないので、下手すると乾かされてない、回収されてない可能性もある)。


 だがこうして回収し終わった後の作業は、自動的に行えるように、俺が調整したのだ。


「ほんと、ジロくんのおかげで、作業が楽だわ~♡ さすがわたしの旦那さまっ♡」


 コレットが嬉しそうに、俺の腕に抱きつく。


「ほんとうですよねっ! ほんとうにジロさんは私の! 自慢の彼氏ですっ!」


 逆サイドにマチルダが座って、腕を掴んで胸に押しつけてくる。


 取り合いされていると夕方になる。


 ホールの振り子時計が16時を示すと、俺たちは再び行動に移る。


 コレットと桜華は食事担当。今日はカレーらしい。子どもたちの喜ぶ顔が目に浮かぶ。


 マチルダと俺はたたんだ洗濯物をそれぞれの部屋へ持って行く。


 すると子どもたちが起きて、ホールへと降りていく。


 夕方からご飯の間までは、テレビゲームが解禁されるのだ(雨の日は別)。


「ぐぬぬ、やはりれーすではきゃにすにかてぬしゅくめい……」


「コンはいろいろよけーなことかんがえすぎでやがるです」


 洗濯物を押し入れにしまい終えて、ホールへと戻る。


 その間は先輩が子どもたちを見ていてくれたので、交代。


「にぃ」


 てててーっとコンが俺の元へとやってくる。


「どうした?」


「キャニスをまりかーでぶちのめして」


 負けたのが口惜しかったのだろう、コンが俺に助っ人を申し出てきた。


「コン。俺が勝っても意味ないだろ。勝てるように頑張らないとな」


「……うん、がんばるまん」


 てってって、とコンがキャニスのそばに座る。


「まけねーぞー!」「おいらだってまけねぇぞー……ぉ」


 テレビゲームはキャニス、コン、レイア、あやねがやっている。


 残るラビとアカネはというと、


「おおかみさんは、赤ずきんちゃんを食べてしまったのです」


「お、おいおいだいじょうぶなのかよ。だいじょうぶなんだよなっ、ラビちゃんっ」


 ラビがアカネにご本を読んでやっていた。


「ラビ。もう読むのは完璧じゃないか」


「にーさん♡ えへへ、にーさんが寝る前にご本読んでくれるおかげなのですっ♡」


 1階ホールには漫画だけじゃなくて、子ども向けの童話集や絵本もずらりと入っている。


 頭の良いラビは文字を習得した後、こうして自分だけじゃなくて、他の子に本を読み聞かせてやっているのだ。


「うぉおおキャニス、くらえ赤こうら」


「あめーです! ばなながーど!」


「ぬわー、こーらがぁ……」


 そうしていると夕食の時間になる。


 夕食も朝食の時と一緒で、子どもたちが先に食べてもらい、大人は作業が終わってからだ。


 食事を終えると俺は子どもたちを風呂へ連れて行く。アムとマチルダと協力して、子どもたちの体を洗う。


 その間にはコレットと桜華が飯を食って、鬼娘たちにごはんを作ったあと、あいてる皿を洗っているのだ。


 子どもたちの体をあらったあとは、湯船にしっかり入る。


 今日は天気が良いので、竜の湯で風呂に入っている。


「コン、きょうはなにしょーぶしやがるです?」


「きょーはどっちがながくおゆにかおをつけてられてるかしょーぶしようぞ」


 キャニスとコンが、ぶくぶくぶく、と顔をつけている。


 危なくなる前に俺がざばっと彼女たちを引き上げる。


「にぃ、しょーぶにみずさす。だめ」


「これはおとこのしょーぶ! じゃますんなやです!」


「危ないことはダメだっていつも言ってるだろ」


 ちなみに前回は、どっちが長く風呂に浸かっていられるか勝負だった。


「もうちょっと穏便な勝負にしてくれ」


「ふんっ、しょーぶにおんびんもくそもねーです」


「そのとーり。しょーぶはいつでもしんけんそのもの」


 ねー、とキャニスとコンが顔を見合わす。


「あやねちゃんの髪はまっかできれいでうらやましーのです……!」


「ラビちゃんのうさちゃんみみもかわいいよー……ぉ」


「そうだよなぁ。アタシらもそういう可愛い耳がほしいぜ……」


 インドア派は和やかにふろにつかる。


「ぐー……」


「レイア……。飯食ってはらいっぱいになったからって、こんなとこで寝るなよ……」


 レイアは相変わらずマイペースだ。


 風呂から上がると、子どもたちに牛乳を飲ませて、体温を下げさせる。


 寝る前の少しの間、ホールではゲーム大会が開かれている。


 決勝戦はコン対ラビだった。


 オセロ(今はリバーシっていうのか?)勝負。


 どちらも一歩も譲らない互角の勝負だった。


 コンもラビも頭の回転が速いため、このふたりがやると、子どもなのにとても良い勝負をする。


 果たして勝負の行方は……。


「ぐぬぬ、あいむるーざー。まけたよ」


「かったのですー!」


 今日はラビの勝利だった。


「しょーりしゃいんたびゅー。らびさん、今のお気持ちは?」


 コンが自分のしっぽをマイク代わりにして、ラビに尋ねる。


「えとえと、みんなありがとー!」


 わー! と全員が拍手する。


「よーし、勝負は終わったな。そろそろ寝るぞー」


「「「ふぁー……い」」」


 眠たそうに子どもたちが返事をする。


 すでに爆睡しているレイアとアカネをおぶって、2階へと向かう。


 彼女たちに歯を磨かせて、2階東ブロックの子ども部屋へ。


「んじゃ、おやすみ」


「「「ぐー……」」」


 電気を消す前から、ベッドに入った瞬間、子どもたちは一瞬にして眠ってしまった。


 俺は電気を消してその場を後にする。


 ちなみにここ、蛍光灯が導入されている。


 これも俺が地球で使っていたことがあったので電球を複製でき、雷魔法と複製合成することで、電気がつくことがわかった。


 あとは【動作入力プログラミング】でオンオフを調整し、室内に蛍光灯が導入された次第だ。


 電気の設置、スイッチを作るのは、すべて彼らと協力して作った。


 俺は子どもたちを寝かしつけたあと、1階ホールで、職員たちによるミーティングを開く。


 今日あったことの報告、明日への連絡事項、そして最近の協議事項を話し合った後、解散。


 21時には消灯し、みんな布団に入る。


 そして、まあいろいろあって眠るのは0時少し前だ。


 以上。


 孤児院の1日は、だいたいこんなものである。



お疲れさまです!今日から8章スタートです。


夏になったので、夏らしいことをやっていきます。プール入ってわいわいしたり、海へも行かせようかなと思ってます。


次回はプール回。あと前からちょこちょこ話が出ていた管理人たちもでてきます。


以上です!

ではまた!

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