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【完結】善人のおっさん、冒険者を引退して孤児院の先生になる 〜 エルフの嫁と獣人幼女たちと楽しく暮らしてます  作者: 茨木野


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29.善人、テレビゲームを流行らせる

いつもお世話になってます!



 

 コレットが出て行った1日目。


 その午前中の出来事だ。


 部屋で子どもたちと戯れていると、すっ……と音も無く隣に女性が立っていた。


「社長、おはようございます」


 ヒザをついてあいさつをするスーツの女性は、俺の秘書のテンだ。


 全身黒づくめのスーツ姿で、前髪で顔を隠している。


 テンは鎌鼬かまいたちという種族の獣人で、職業は忍者。


 いつもは姿を隠しているが、俺のことを影から守ってくれているのだ。


「おはよ、テン。どうかしたか?」


 テンは用事が無いと姿を現さない。


 現すと言うことは、何か俺に用があると言うことだ。


「社長にお客様です。大工の棟梁とうりょうが面会を求めてます」


 現在うちの獣人孤児院は新しく建て直してる最中だ。


 その作業を行う人材は、鴉天狗からすてんぐのクゥをリーダーとする商業ギルド・銀鳳ぎんおう商会から斡旋してもらっている。


 銀鳳商会から派遣された大工のリーダーが、俺に面会したい、ということらしい。


「リビングにてお待ちいただいています」


「わかった。すぐ行く」


 子どもたちにちょっと用事があるからいくな、と告げると、えー、と不満そうにつぶやく。


 アムがすかさずフォローを入れてくれた。

 サンキュー、アム。


 俺はテンとともにリビングへ行く。


 そこにはふたりの人物がいた。


 ひとりは小柄な女の子と。イスに座ってふんぞり返っている。


 そしてもうひとりは、2m50cmほどの、大きな女の子が、小柄な少女の背後に立っていた。


「フンッ! 遅いぞ貴様っ! このエリート山小人ドワーフのオレ様を待たせるとはいったいどういう了見だ!」


 120cmほどのちびっ子が、俺が来るなり、ギロりとにらみつけてくる。


 その子は日焼けした肌、赤銅色の長い髪を三つ編みにしている。


 ぶかぶかのズボンにランニングシャツ一枚という大工の格好をしている。


 顔立ちは整っており、一見するとどこぞのお嬢様かと思うほどに美しいのだが、その顔は日に焼けて、元気な子どもという印象をあたえる。


「すみません、ワドさん」


 俺はぺこり、と山小人の少女・ワドに頭を下げる。


「フンッ! 謝るくらいなら最初から待たせるな。このオレ様は忙しいんだ」


「あー、スンマセン。ウチの頭領が、マジスンマセン」


 後に控えていた2m超の人物が、ぺこぺこと頭を下げてくる。


「おいユミル貴様。なにぺこぺこと謝っている。おまえも我が誇り高き【銀鳳のつち】のエリートのひとりなんだぞ。もっと誇りを持て」


 ワドが巨女、ユミルを見てそう言う。


 ユミルはいやいや、と頭を振って言う。


「いやボス、遅れたっていっても1分か2分くらいじゃないスか。そんなん遅れたって言わないスよ」


 このユミルという巨女は、巨人族の少女だ。


 2mを超える身長があるのに、巨人族の中ではまだ子どもなのだという。


 年齢は13歳だそうだ。


 年を追うごとにもっともっとでっかくなるそうだ。


 黄色の肌に、栗色の長い髪をおさげにしている。服装はワドと同じだ。


「フンッ! ところで……おい貴様、ジロ。今日はアレはないのか?」


 きょろきょろと辺りを見回すワド。


「アレ?」


「客が来たのに茶も出さないのか?」


「あー、ちょっとお待ちを」


「いや茶はいいからアレを出せ。あの冷たくて甘くて白いアレだ」


 ワドがにらみつけながら俺に言う。


「あー……はい。ちょっと待ってください」


「オレ様はばにらだ。それ以外に口にしないからな」


 わかってますよと言って、俺は冷凍庫をあけて、カップアイスクリームをひとつ、そしてパーティサイズのアイスクリームをひとつ取り出す。


 リビングのテーブルの上に置く。


「はい、どうぞ。お茶の代わりです。いつもお世話になってます」


 テーブルに置いたアイスを見やると、ワドは光の速さでイスについて、アイスをガツガツと食べ出す。


「ユミルさんもどうぞ」


「いつもスンマセン。ボスはすっかりこのあいすくりーむってやつの虜になってしまってるんス」


 ばくばくガツガツと美味そうに食べる様を見れば、それは一発でわかった。


「おい貴様、オレ様がアイスを食べ終わったぞ。ナニをぐずぐずしている、早くお代わりを出せ」


 ワドが口周りをべたべたにしながら、俺をキッっと睨んでくる。


 なんか子どもみたいでかわいいが、こう見えて人間で言うとアラサーくらいなのだそうだ。


 ちなみに既婚者であり、結婚相手はそこにいるユミルだったりする。


 ワドもユミルも女なのだが、亜人では同性結婚というものが普通に行われているらしい。


「ボス、あんまりアイスばかりたべると、お夕飯が食べられなくなるスよ」


「バカか貴様。貴様の作る手料理を残すわけ無いだろ。アイスも食う、貴様の料理も食う。このエリート山小人が妻の料理を残すわけがない。当たり前だろうが」


「そっすか。えへ~♡ ワドさんだいすき~♡」


 ユミルがだらしのない笑みを浮かべると、ワドにくっつく。


「やめんか貴様。外ではボスと呼べと言ってるだろうが」


「そうスね。スンマセン」


 ラブラブな夫婦(どっちも女だけど)とのやりとりを経て、いよいよ本題に入る。


 ワドの前に腰を下ろす。


「それで新しい孤児院はいつ頃できそうですか?」


 口周りがアイスでべったべたのワドに、俺がそう言う。


 ユミルが指でワドの口元をぬぐってやっていた。


「数日中で完成だ。貴様の助力もあって普段の何倍ものスピードで工事が進んだ。礼を言っても良いぞ」


「すごいっすよね、ジロさんの貸してくれた工具、めっちゃ作業しやすいス。それに整地作業、資材提供に協力してくれて、ほんと助かったス」


「いえいえ」


 銀鳳商会のおかかえ大工衆、銀鳳の槌の面々が来たのは、クゥに立て替え依頼を頼んだ翌日。


 ワドをはじめとした大工衆たちと打ち合わせし、新・孤児院を新たに建てることになった。


 今度は木造じゃなくてレンガ造りのしっかりしたものにしてくれと依頼。


 レンガだといささか値が張るといわれので、俺は【筋力増強ビルドアップ】などの魔法の付与された工具、さらに建設予定地の整地作業などの手伝いをすることを条件に、建築にかかる費用を割引してもらうことになった。


 レンガはサンプルとなるものを1つワドから借り、竜の湯で【複製】を行い、大量に作成。


 その後もレンガがなくなるたび複製し、資材提供もしているというわけだ。


 ワドは口元をきれいにしてもらったあと、俺を見て言う。


「数日で孤児院は完成する。おそらく明後日には工事完了だ」


「ほー、ならコレットが帰ってくるころには完成するんですね」


 ワドがうなずいてうなる。


「どうしたんですか?」と俺。


「オレ様に質問をするな」


 と不機嫌にワドが返す。


「あー、ジロさん。ウチの旦那はアンタに嫉妬してるんすよ」


 すかさず巨人のユミルがフォローを入れる。


「本来なら依頼されていた工事は、もっと時間がかかる予定だったス。けどジロさんの作った素晴らしい工具や、ジロさんの複製のチカラのおかげで驚異のスピードで工事が完成しそうで、それを素直に褒め称えられなくて結果不機嫌になってるんす」


 ワドは無言でユミルの足を蹴っていた。


 ドワーフ少女がため息交じりに言う。


「……我らの槌は、銀の鳳を支える柱の1本だ。大ギルドのおかかえ大工衆として、エリート集団としての矜持があった。オレ様たちがナンバーワンだとな。……しかし上には上がいた。我らもより高みを目指さねばならぬな」


 クゥのギルドはこの国では最大手の商業ギルドだ。


 そこの大工と来れば、確かにエリートと言って差し支えないだろう。


 その大工のリーダーが、俺を褒めて……くれてるのか?


 ワドは立ちあがると、スッ……と手を差し出してきた。


「なんですか?」


「貴様、ウチに来い。副頭領の席を貴様にやる」


「ちょ、ボス。それ私の席スよ」


「うるさい。おまえはいいかげん家に入れ。家でオレ様の帰りをただ待ってろ」


 えー、と不服そうなユミルだったが、


「まあジロさんっていう超絶逸材が入るんス。喜んでどくっすよ。そろそろ子どもも作りたいスからね」


「そういうことだ。ウチに来い。そしてオレ様たちの片腕になれ」


 真剣な表情で、エリート大工が俺をスカウトしてくる。


「ありがたい話しではあります。が、それはできません。それに俺にはこの孤児院を支えていかないといけないんで」


「………………。そうか」


 ワドが残念そうにそうつぶやくと、ぽすんと座り込む。


「気が向いたらいつでも来い。雇ってやる」


 ワドはそう言うと、立ちあがる。そろそろ作業に入るのだろう。


「そう言えばさ、ワドさん」


 俺はドワーフ少女の背中に話しかける。


「なんだ? このエリート山小人に質問するとは良い度胸だな。つまらん質問なら蹴飛ばすぞ」


「いやたいした話しじゃないんだけど……」


 このドワーフ、俺をスカウトしてきたってことは、知らないのか?


 いや、たぶん知らないのだろう。実質的なリーダーはクゥだしな。


「俺さ、銀鳳商会の、いちおう社長なんですけど、もしかしてご存じないですか?」


「…………?」


 ぽかーん、とした表情を浮かべるワド。


 これは……知らなかったな。


「おい貴様。何の冗談だ?」


「冗談ではありませんよ」


 と言って、テンが音も無く出現する。


「貴様はあの鴉天狗の社長秘書。なぜここに?」


 ワドとテンには面識があるらしい。


「簡単です。私が社長秘書であり、社長がこの御方であるからです」


「な、ナニィ!?」


 ワドの目が驚愕に見開く。


 がっくーん、とアゴを外れるくらい大きく口を開く。


「うへぇ、いつの間に社長交代してたんスか? てっきりクゥさんが社長だと」


「つい最近な。と言っても、俺は名ばかり社長なんだけど」


 ほへー、とユミルが感心したように吐息を漏らす。


 まあ交代はつい最近の出来事だしな。それにクゥは下部組織には伝えてないって言ってた。余計な混乱を招くからって。


 だからワドは知らされてなかったのだろう。


 ワドは混乱からさっ、と立ち直ると、


 スッ……とワドが頭を下げる。


「今まで失礼なことをした。すまない」


「いや……気にしないでください。知らなかったんですから」


 俺が笑ってそう言うと、ワドは「ふむ……」とうなる。


「……こいつのそばにいる方が、我ら槌はより高見へ行ける……か」


「どうしたんスか、ボス」


「いや、ならば都合が良いと思ってな」


「都合? どゆことスか」


 はてとユミルが首をかしげる。


「ユミル、あの鴉天狗の元へ行くぞ」


 バッ……とワドが身を翻して言う。


「どこいくんスか?」


「あの鴉天狗のもとだ。許可をもらいに。許可が出次第、引っ越しの準備をするぞ」


「はぁ? どういうことスか~?」


 困惑するユミルに、ワドは何もいわず、ずんずんと出て行こうとする。


「おい社長ぼーず


 ぴたり、とワドが立ち止まる。


「どうしました?」


「敬語は良い。オレ様はちょっと王都へ行く。だが作業はオレ様がいなくても進むから安心しろ」


「はぁ……」


 何を言いたいのだろうか、この人は。


「いずれ貴様にも話しが行くだろう。そのときまで、さらばだ。またな」


 バッ……と身を翻して、ワドがリビングを後にした。


「あー、ごちそうさまっした。ボス~、まってくださいっすよ~。引っ越しってなんすか~」


 どすどすどす、とユミルがその後を追う。

「なんなんだ……? 許可? 引っ越し?」


 よくわからないけど、とにかく。


 工事は明後日に終わるみたいで良かった。


 これならコレットが帰ってくると同時に、新・孤児院をお披露目できそうだしな。



    ☆



 大工たちとの会話を済ました後、俺は子どもたちの部屋へと戻ってきた。


 すでに洗濯物は終わり、乾燥機に自動的に入っていた。戻る前に確認したのだ。


 自動化は結構上手くいっているみたいだ。

 まあまだ調整は必要だろう。洗濯物が乾燥機に入らず、何枚か落ちていた。


 洗濯機には【止まったなら中身を乾燥機へうつす】というプログラムを書いていたのだが、うつした後、ふとした拍子で落ちた洗濯物については、何も条件付けしてなかったからな。


 自動化は難しい。ただこれができるようになれば、より快適に過ごせるようになれる。


 実用化に向けて頑張ろう。


 それはさておき。


 子どもたちの部屋では、孤児たちめいめいが遊んでいた。


「きれいなごほんだぁねー……ぇ」


「にーさんが出してくれたのです♡」


 ラビと姉鬼のあやねが、ベッドに座って、絵本を読んでいる。


 俺が複製で出したものだ。一度目をとおした【経験】がある書物なら、普通に出すことができる。


 タダ問題なのは……。


「らびちゃん、これ何て書いてあるのー……ぉ」


 あくまで絵本は、前世で読んだもの。つまり日本語で書かれている。


 この国の言語は別にあって、異世界人であるラビたちは、当然日本語は読めない。


 しかし。


「【昔あるところにおじいさんとおばあさんがいました】って書いてあるのです」


「ほえー……ぇ、よく読めるねー……ぇ」


 あやねが感心したようにつぶやく。


「えへ♡ にーさんがいつも読んでくれるのです。文字はまだぜんぶは読めないのです、けどにーさんのセリフは覚えてるのです!」


 ラビたちには本を読み聞かせてやっている。寝る前にとかな。


 その成果じゃないけど、ラビは少しずつだが日本語を読めるようになっていた。


「らびちゃんはかしこいしねー……ぇ」


「えへ♡ あやねちゃんにそういわれると、うれしいのです♡」


 えへー♡ と笑い合うラビとあやね。


 一方で、


「ぐぬぬ……コン、そのカードがなんなのか、教えるやがるのです……」


 別のベッドの上でキャニスとコン、そしてアカネが車座になっていた。


 手にはトランプがにぎられており、キャニスはコンの手札を凝視していた。


「おしえたらでゅえるにならぬゆえ」


 ふふふ、とコンが不敵に笑う。


「おいキャニス、さっさとコンのカードをひけよ」


「うっせーな! わかってやるがですアカネ-! ぐぬぬ……」


 どうやらばば抜きをやっているみたいだ。

 ちなみにレイアはグースカと昼寝をしている。相変わらずマイペースなやつだ。


「コンがジョーカーをもってるのはわかってやがるです……。みぎかひだりか、どっちか……」


 コンの手札は2枚。キャニスはどちらをひこうか悩んでいた。


「…………」


 すっ、とコンが片方のカードをずらす。

 

「どうしてカードを一枚だけずらしやがったです?」


「…………」


 コンは答えない。無言でにやりと笑う。


「コンはこっちのカードをひかせたがってる……てことは、これがジョーカーでやがるなー!」


 キャニスが喜色満面で、カードをびしっと指さす。


「どっきーん」


 まあたいへん、とばかりに、コンが自分のしっぽで口元を隠す。


「ばれてもーた。まけてまう。おじひ、おじひをぷりーず」


「あーーーーはっはっは! いのちごいしたところで無駄でやがるですー! かったぼくのしょうりですー!」


 キャニスが意気揚々と、ずらしてない方のカードを引く。


「はいジョーカー、ぼくのかちー! ……って、えええええええ!?」


 どうやらコンにまんまと乗せられ、ジョーカーをキャニスが引いてしまったらしい。

 コンの手札は1枚。すでにアカネは上がっている。


 キャニスの手札は2枚。コンは1枚。


「かけひきと、さいのうが、ふはいをさらうんだぜ」


 にやりとコンが笑う。


「ま、まだでやがるですー!」


 引いたカードをキャニスがシャッフルし、二枚をずびしっ、とコンに突き出す。


「どっちだー!」「こっちだー」「まけたぁああああああああ!!!」


 キャニスが後に倒れ込んで、壁にごちんと頭をぶつけた。


「くうはくに、はいぼくはない」


 手札が0になったコンが、立ちあがってガッツポーズを取る。


「しかしよくわかったな、コン、おめー」


 アカネが感心したようにコンを見やる。


「2まいのうちどっちかがじょーかー。かくりつは2ぶんのいち。てきとーにひいても50ぱーであたりをひける。ならてきとーにひいてもいい。しっぱいしてもわんたーんのこってるし」


「お、おう……。コン、おまえなにいってるのかさっぱりわかんないんだけど」


 アカネがちょっと引いていた。


「みためはこども、ずのーはおとな」


 にんまりとコンが笑う。勝ち誇るようにしっぽがふぁっさふぁっさとゆれていた。


「がー! じゃあつぎはしんけんすいじゃくですー!」


 キャニスがトランプを回収し、シャッフルしてから、ベッドにまき散らす。


 ちなみに言わなくてもわかるだろうが、このトランプ、俺が作ったものだ。


「みーにずのーでいどむというのかね」


 コンはしっぽを、自分の口の上のあたりに乗っける。

 

 どうやら髭を表現したいらしい。


「いどむにきまってらぁ! さっきのしょうぶは運がなかっただけでやがるです! つぎはかつ! ほえづらかかせてやるですー!」


 トランプをばらまき終わったキャニスが、きっ、とコンを睨む。


「しょうぶっ!」「かもーん」5分後。「負けたー!!」「いぇーい」


 コンの圧勝だった。


 キャニスは1枚たりとも取らしてもらえず、コンがすべてをかっさらっていった。


「ぐぬぬ……ぐぬぬ……どうしてかてねーです」


「きゃにす、ひとにはむきふむきがあるよ。おちこまないで」


 がっくりと気落ちするキャニスに、コンが自分のしっぽで、よしよしと撫でる。


「どーじょーなんていらねー!」


 うがー、とキャニスがトランプをまき散らす。アカネは「おい無くすだろうが」とぶつぶつ文句を言いながら、コンと一緒にトランプを回収していた。


「おにーちゃぁあああん!!」


 キャニスが、隣で見ていた俺にしがみついてくる。


「くやしいです! コンにっ、コンに勝てるゲームを作ってくれやですー!」


 キャニスにせがまれる俺。


 なんかドラえもんになった気分だった。


「あいつにあそびでかてるあそびをっ」


「いやそうは言ってもな……」


 ちなみにキャニスは外での運動は得意だ。ボール遊びでこのいぬ娘に勝てるやつはいない。


 しかし今は雨で、インドアでの遊びとなると、どうしても頭を使った勝負になってしまう。


「家の中でできて、頭を使わない娯楽か……」


「もしかしてないです?」


 ぺちょーん……っとキャニスの耳が、悲しそうに垂れ下がる。


 コンが申し訳なさそうに「ごめんね」と謝って、キャニスに近づき、しっぽでキャニスの頭を撫でていた。


「そうだな、無くないな」


 キャニスのしっぽが、ぴーんっと立つ。


「ほ、ほんとうでやがるですっ?」


「ああ、ちょっと待ってろ。準備がある」


 そう言って俺は部屋を離れて、いったん竜の湯へと向かう。


 複製合成を駆使してとあるものを作り、孤児院に戻ってくる。


 濡れないようにマジック袋に入れて持ってきた。


 リビングへ行き、部屋の端っこに、それを置く。


「これなんです?」


 子ども部屋から獣人たちが、なんだなんだと集まってきた。


 長方形の板と、そして黒い正方形の箱と、手のひらサイズのへんてこな形のプラスチックの塊。


「ふぁぁああああ♡」


 コンの目がきらきらと輝く。


 しっぽがぶんぶんぶんぶん! と激しく左右に振れる。しっぽが隣にいたあやねとラビに当たって「あう♡」「ふぁさふぁさできもちー……ぃ」と気持ち良さそうにしていた。


「コン、このみょうちきりんなもん、わかるです?」


 キャニスが首をかしげる。ほかの獣人、鬼族の子らも首をかしげる。


 しかしコンだけは、これが何であるかを知っているのだ。


 転生者である、コンだけが。


「てれびげーむだぁ♡」


 コンがとろけた表情で、テレビにがしっとしがみつく。


 そう、俺が作っていたのはテレビ、およびゲーム機とコントローラー。そしてゲームのカセットだ。


 一昔前の、黒い据え置き型ゲーム機を作っていた。4人対戦ができる、コントローラーが三つ叉の矛みたいな形をしたゲーム機。


「てれび?」「げーむ?」


 キャニスとアカネが首をかしげる。


「にぃ、すごい♡ げーむつくれるなんてっ」


 よくわかってない異世界人たちとは別に、コンがぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「動くだろうけど、問題はカセットだな」


 俺はゲーム機の前にあぐらをかいて座る。

 コンが「みんなにぃをまねて」と子どもたちに言うと、全員が俺の挙動をまねてあぐらをかいた。


「理論上だと、1度やったことのあるカセットなら複製できるはず……だけど」


 俺は髭男の絵が描かれた、レースゲームのカセットを手にとって、ゲーム機本体に差し込む。


 ちなみにゲーム機もテレビも雷魔法で複製合成しているので、普通に動く。


 果たして……。


 テレビ画面が明るくなり、ゲーム会社のロゴが回転する。


「なんだこりゃーーー!!!!」


 テレビ画面を見て、キャニスが驚く。目ん玉がでそうになるほど、大きく目を見開いていた。


「お、おねーちゃー……ん。ぴかぴかうごいてこわいよぉー……」


 アカネが半べそをかいて、姉の胸に飛び込む。あやねはよしよししながら、「ふしぎだねー……ぇ」とゲーム画面を凝視していた。


「に、にーさんこれは?」


 ラビがおそるおそる尋ねてくる。


「んー、なんていうか、ゲームだよ、ゲーム。トランプとは違った」


 この世界には娯楽が少ない。


 印刷技術の水準が低いので、絵本もトランプも作れない。将棋やチェスもなかった。

 

 だからこの子たちは、トランプや絵本にあそこまで興味をしめしていたのだ。


「げーむ?」


 子どもたちはゲームという言葉自体、よくわかってないようだった。


「まあこういうのは見るよりやった方が早いよな。コン。できるか?」


 転生者であるコンに尋ねる。


 このゲーム機じたい、俺からすればだいぶ前にでたゲームだ。


 この子がやったことあるかは不明だったが……。


「おまかせ、このてんさいげーまーKこと、こんにできないげーむはねえ」


 ふんす、とコンが鼻息をつくと、コントローラーを握る。


 真ん中の突起を左手で持ち、右手でボタン側を持つ。……この子、このゲーム機のコントローラーの持ち方を知ってるのか。


「おまえこれやったことあるって……何歳なんだよ……」


「にぃ、おんなにとしをきくのはしつれーよ」


 しー、としっぽで口元を隠すコン。


 本当に謎の多い子どもだ……。


「じゃあ適当に1レースやろう」


「のーこんてぬーで、くりあしてやるぜー」


 コンと俺でレースバトルをする。


 俺がスティックを動かすたび、画面上のキャラが同じ方向に曲がる。


「すげー! なにこれなんでやがるかこれー!」


 キャニスは画面と、そしてコンの手元を見て驚いていた。


「ぬるぬるってうごいてやがるです! コンがうごかしたとおりに、みどりの怪獣がうごいてやがるですー!」


 俺の操作する赤帽子ひげ男と、コンの緑恐竜がデッドヒートを繰り広げる。


 ややあって俺の勝利でレースは終わった。


「にぃ、つよしくさなぎ。てかげんして」


 ぷー、とほおを膨らませるコン。


「すまん。さて……」


 後ろを振り返ると、


「ふぉぉお…………」「はわわわ……」「すげ…………」「すごいねー……ぇ」


 目をきらきらとさせた子どもたちが、全員お行儀良く正座していた。

 

 その目は興味に爛々と輝いており、もうやりたくってしょうがない、といった雰囲気が、体全身から滲み出ていた。


「やりたい」ひと、と言う前に、


「はいはいはいはい!」「れいあれいあれいあがやるー!」「アタシもー!」「おいらもー」「らびもー!」


 いつの間にか起きていたレイアを含めた全員が、挙手してゲームをやりたがっていた。


「コンとおにーちゃんばっかり、こんなたのしそーなのやるなんてずるいでやがるですー!」


 キャニスが俺の手にのっかって、コントローラーをぐいぐいと引っ張る。


「落ち着けって。これ4人でしかできないから、順番な」


「じゃあぼく1番!」


 びしっ! とキャニスが真っ先に手を上げる。


 そのあとレイア、あやね……と気の強い順にコントローラーを奪っていった。


 アカネは「やりたかったー……」と後で凹んでいた。意外と気の小さい子なのである。


 ラビが「順番まわってくるのです。いっしょにうしろでまってようなのですっ」とフォローしていた。


 半べそのアカネはまんざらでもない様子で、ラビと一緒に手をつないで、後で正座する。


 画面の前に座った獣人と鬼たちが、コンに操作のレクチャーを受けていた。


「このぼーで、いどう。このぼたんで、かそく。うしろのぼたんで、あいてむはっしゃ」


 ほー、と子どもたちがコンの説明に聞き入っていた。


「コンはほんとに物知りでやがるです!」


「よせやい、てれますな」


 コンが顔をしっぽで隠して、もじもじと目を捩っていた。


 しばらくレクチャーと、練習試合が繰り広げられ、いよいよレース本番。


 スタート時はコンが優勢だったのだが、結果は……。


「ばかな……2ちゃくだと……」


 コンががく然と、画面を見やる。


「えっへへー♡ ぼくが1番でやがるです-!」


 わーい、と諸手を挙げて喜ぶキャニス。


「こういうあたまつかわないゲームはたのしいですー!」


「くぅ、やせいのかんにまけた……」


 どうやらキャニスの方が、こういう戦略無しのテレビゲームが得意みたいだ。


 子どもの順応能力はおそろしく、レイアもあやねも、すぐに動かしかたを覚えた。


 しばらくすると、


「ばかな……4位、だとぉ……」


 コンがなんと最下位になっていた。


 順位は1位キャニス、2位レイア、3位あやねで4位がコン。


「みなのもの、つよすぎる……」


 しゅーん……と落ち込むコン。


「落ち込むな。勝てないなら、練習あるのみだと思うぞ」


 凹むコンを抱っこして、ぽんぽん、と俺が頭を撫でてやる。



「! それな。にぃ、いいことゆー」


 コンが明るい表情を浮かべて、しっぽをぶんぶんさせる。


「とっくんあるのみ、キャニス、もういっせんだ」


 うぉおおと気合いを入れるコン。


 しかし……。


「はわわ、操作が難しいのですっ」


 相手席にラビが座っていた。あやねのいたところに、アカネが座っている。


「しまつた、こうたいか。ちぇー」


 しかし大人しく、コンは待っていた子らに順番を明け渡した。


 かくして我が孤児院に、テレビゲームが導入され、大流行することになったのだった。



お疲れ様です!


今回は子供達を書いたので、次回はアムちゃんとのイチャイチャをメインに書きます。


以上です!


今回もまた下の評価ボタンを押していただけると嬉しいです。大変励みになります。


また新連載を始めました。よろしければそちらも読んでいただけると幸いです!


下にリンク貼ってますので、ぜひ!


ではまた!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゲームのはこれマリオカートか!
[気になる点] 本番の中に「ド◯えもん」がストレートに表示されています。 こういうのは、文字を少し変えたりするのが良いのではないでしょうか。
2020/01/06 06:33 退会済み
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