エピローグ
これにて、完結です。
あれから、季節が一巡した。
俺たちは、とある森の中にいる。
そこはコレットの故郷である、エルフの村。
その外れに広がっている墓地。
1つの墓標の前に、俺とコレット、そして……新しい命の【三人】はいる。
コレットが産んでくれた、赤ん坊。
「お母さん、すごく、すごく……久しぶりね……」
コレットが墓の前でつぶやく。ここは、エルフしか立ち入れない森の外。
コレットはそのエルフの里長の娘だったらしい。
人間とエルフ母の間に産まれた子供、それが、コレット。
あとは、俺の知ってるとおり。
「見て、お母さん。わたしとジロ君の息子よ。【ムイチロー】って名前にしたの。ふふ、かわいいでしょう?」
俺の息子……ムイチロー。彼は転生者と、ハーフエルフのハーフということで、クゥ曰く、かなりの才能を秘めているらしい。
将来がとても楽しみな子だ。
「ごめんね、お母さん。ここに来るのが遅くなって。……恐かったの。エルフのみんなに、拒まれるのが」
この世界の人間は、ハーフエルフや獣人と言った、混じり物を許さない傾向がある。
俺の村からコレットが追い出されたのも、彼女がハーフエルフだったから。
「わたし、ずっと心にトラウマをかかえていた。お母さんが、連れ戻されるとき……混じり物は要らないって、言われたから」
だから今日まで、自分の過去と向き合わずにいたわけだ。
でも……。
「うちの教え子【たち】がね、勇気を出して卒業したのを見て……思ったんだ。わたしもかわらないとね」
教え子とは、ラビのこと……だけを言ってるわけじゃないと思った。一瞬俺を見て、ふふっと笑ったから。
卒業……か。確かに、俺は先生の言葉から卒業した。俺とラビ、ふたりが変わったのを見て……コレットもまた、変わったんだ。
「ここに来るのも、1年かかっちゃった。里長を説得するの、随分と骨が折れたのよ。でも……がんばったんだ」
俺とコレットは力を合わせて、1年かけて、ようやく、この森に入ることを許された。
里の中には、入れないけど、コレット母の墓参りだけは許されたのである。
「いっぱい傷付いた……けど、傷付かないと手に入らないものもあるのよね」
そう。優しいだけじゃ、手に入らないものもあるんだ。
俺と彼女が目を合わせて笑う。
俺が手に入れた新しい気づきを、彼女も共有してくれている。
「あ、そうそう! そうだ、ジロ君がね、国王様から名字もらったのよ! 今までの功績をたたえてね!」
そう。なんだか知らないが、俺は名字をもらえることになった。
今までいろんな便利グッズを作ったこと、そして、ラビという天才魔法使いを輩出した功績をたたえてのことらしい。
「ジレット。それがわたしとジロ君の名前」
名字は好きにつけて良いと言われた。
ジロとコレット、だから、ジレット。
俺はジロ・ジレットで、彼女はコレット・ジレット。ちょっとラップみたいで面白い。
「うちの孤児院にもね、名前をつけたの。ジレット孤児院って。子供達はみんな、ジレットの子ってことで、その名字を使ってイインだってさ。ほんと、良い旦那様を捕まえましたぜ、わたしはっ」
得意げにコレットが言う。
ラビやキャニスたちにも名字がついた。
ラビ・ジレットとして、彼女は今も魔法学園で元気にやってる。毎日忙しそうらしいが、でも、充実してるって手紙には書いてあった。
だから、もう大丈夫だろう、ラビは。
「じゃあね、お母さん。また来るよ」
報告を終えたコレットとともに、俺たちは墓を後にする。
ムイチローを抱っこするコレットとともに、歩き出す。
「やっと一段落だな」
「そうね。でも……まだまだこれからですな」
「ああ、そうだ。まだまだだ」
今日までいろんなことがあった。でもこれはまだ、道半ば。
俺はこれからも愛する人たちとともに、あの森の中で、孤児院を経営していく。
本当は、孤児院なんてない方が良い。
孤児は、親に捨てられたかわいそうな存在だ。
そんな悲劇が、この世界から少しでもなくなるといい。孤児院が暇を持て余すような世の中のほうが良い。
俺は、そのために、自分の出来ることを、一歩一歩、これからも積み重ねていこう。
車に乗って、俺たちは故郷の森へと帰る。
そこでは、子供達や職員達が、俺を待っていた。
「「「おかえりなさーい!」」」
みんなが笑っている。俺たちも笑って、彼女たちの輪の中へと、戻っていく。
「「ただいまっ!」」
かくして、善人のおっさんと呼ばれた俺は、孤児院の院長となり、これからもたくさんの出会いと別れを繰り返しながら、幸せに暮らすのだった。
《おわり》
【★読者の皆様へ】
これにて、善人のおっさん、完結となります。
ありがとうございました。
この作品は、僕の夢だった作家になるきっかけをくれた思い出深い作品です。
だから、きちんと完結させようとは思ってました。
思ったより時間がかかってしまい、読んでくださってる皆様には、大変ご迷惑をお掛けし、申し訳ありませんでした。
でも続けられたのは、読んでくださってる方々がいたからだと思ってます。
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございました。




