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【完結】善人のおっさん、冒険者を引退して孤児院の先生になる 〜 エルフの嫁と獣人幼女たちと楽しく暮らしてます  作者: 茨木野


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170.優しさの意味



 俺は孤児院の子供部屋にて、獣人のラビに、魔法学園に通わないかと言った。


 王都にある魔法学園に通うためには、ここを出て暮らす必要がある。

 甘えん坊なラビにとっては、酷なことをさせることになるだろう。


 ……現に、ラビは泣きそうになっていた。


 彼女は聡い。1000年に一人の逸材だ。けれど……まだ5歳の、か弱い女の子なのだ。

 育ての親、友達と分かれるのが……辛いのは、わかる。


「…………」


 泣きそうになるラビを見て、前の俺なら、たぶん慰めていた。無理をさせなかったろう。

 大丈夫、いつまでもこの温かい場所にいてイインだよと。


 ……でも。


『情けは人のためならずだよ』


 ……コレットの言葉。それが今の俺を作ってると言っても過言ではない。

 人に優しくすることは、巡りめぐって自分のためになる。


 でもここの、人に優しくすることと、人を甘やかせることは、違う。

 その子が泣かないように、選択肢を隠してしまうことは、優しくすることとイコールじゃない。


 本当の優しさって、なんだろうか。

 俺はずっとわからないでいた。


 でも……。


「ラビ。よく聞いてくれ」


 そうだ。おまえは頭が良い。だから、ちゃんと俺が話せば、伝わってくれるはずだ。


「俺は死ぬ。いつか、かならず」


 何を突然……とラビが驚いて、泣くのをやめる。俺は続ける。


「おまえより年を取っている分、俺はおまえより先に天に召される。コレットは……ハーフエルフだし長生きするかもだが、それでも……彼女だっていつか死んでしまうんだ」


 ラビは、俺の言葉を遮らない。俺の言葉を、ちゃんと聞いてくれる。

 俺が、何か大切なことを言おうとしているのが伝わってくれてるんだろう。


 ……それか。俺がラビに伝えたいことがある、ってことを、感じてくれたのかも知れない。

 いずれにしろ、やっぱりこの子は頭が良い。五歳児に、普通そんなことは、出来ないとは言わないけど……出来るやつは少ない。と俺は思う。


「親代わりの俺も、コレットも、いつか死んでしまう。そのときに……ラビ。人は、いつまでも、大人に頼って生きていては、いけないんだ」


 守ってくれる人が居なくなったとき、何も出来ないように、ならないように。

 子供は学んでいかないといけない。


「ラビ。おまえは、キャニス達友達と、俺たち親と別れたくないんだろ? わかるよ……でもな、ラビ。いつか、別れは確実に来るんだ。どんな形にせよ」


 早いか遅いか、理不尽か、そうじゃないかは、それぞれだろうけど。


「確かに、好きな人たちとの別れは辛い。ずっとそばに居たいと思う気持ちもわかる。でもタイムリミットは、確実に来ちゃう。これは事実なんだ」


 ……子供に、現実を教えてどうすると、かつての俺がささやく。

 こんな幼い子に、早すぎると。今にも泣きそうじゃないかと。


 でも……俺は過去の幻影を振り払う。


「ラビ。おまえは、凄い子だ。才能がある。よりたくさんの人を助けられる、すごいすごい、魔法の才能があるんだ」


 ラビをベッド脇に座らせる。しゃがみこんで、彼女と目を合わせる。


「その才能は、種だ。栄養と水をやらないと、大きな花が咲かない。そして何より……良い土がないと、いけない」


 土とはつまり環境のことだ。


「ここの土は温かいかもしれないけど、おまえのもつ種を大きく育てるためには……向いていない。おまえが悪いんでも、ここが悪いんでもない。もっともっと、その才能を伸ばすに適した土地がある。そう言ってるんだ」


 ここには、魔法の質問に答えてくれる先生もいないし、友に魔法を競い合うライバルもいない。


「誰もが優しいこの環境は、おまえにとって居心地がいいだろうけど……おまえの持つ才能の花は、咲いてくれないよ」



 ……今まで、俺は。

 先生の『人に優しくしなさい』って言葉を信条に生きてきた。

 誰も傷つけない生き方をしてきた。


 でも……もうそれから、卒業しないといけない。


 たとえ、その子が悲しい思いを今、するかもいれなくても。


 彼女の……未来のために。



「だからおまえは、ここを出て行かなきゃいけない。ラビ……おまえは、魔法学園に、いきなさい」

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