165.体験入学
ラビの将来のことを考えて、俺はラビを連れて、王立魔法学園へとやってきた。
学園長のエルフ、デルフリンガーさんが自ら、学園を案内してくれるらしい。ありがたいことだし、光栄なことだ。
「わぁ! わぁ! すごいすごーい! おにいちゃん、階段が動いてるよー!」
学園内はかなり広かった。縦に長い建物。階段がなんと、エスカレーターのように、上へと自動で登っていくのだ。
ラビは動く階段に大層おどろき、また目をキラキラさせてる。
「まほうかなー?」
……これを見て、すぐ魔法の力で動いてると、ラビが見ぬいていた。
デルフリンガーさんがニコニコしながら、しゃがみこんで、ラビに言う。
「何の魔法だとおもう?」
その言い方はどこか、相手を試すようなニュアンスを含んでいた。じっと彼女は、ラビの目を見ている。
「んーとんーと、ぞくせーまほうじゃないです。だから、むぞくせーまほう……です! どんなむぞくせいだろー」
属性魔法。この世に現象として存在する、地水火風闇光を、この世に顕現し操る魔法。
無属性魔法は、それ以外の魔法のことだ。これくらいの知識は、彼女の中にある。
デルフリンガーさんは、一度うなずいて、言う。
「図書館見てみる? そこのご本なら書いてるかもよ」
「みるー!」
ラビはデルフリンガーさんの後ろをついていく。俺の後ろじゃ無くて、だ。
……ああ、ラビ。おまえは本当に、魔法が好きなんだなぁ。
あの引っ込み思案なラビが、自分のしたいことを、自分の意思でやろうとしてる。俺は……この選択が間違いじゃ無かったと、早くも確信を得ていた。
「わーーーー! ご本いっぱーーーーーーーい!」
王立学園の図書館は、孤児院とは比べものにならないくらいの、大量の本であふれている。
ぎっしりと本が詰まった棚が、いくつも並んでいる様は、芸術的にすら見えた。
「どんな本が読みたいか、司書さんに聞いてみるといいわ」
「はいなのですー!」
ラビがとことことカウンターへと向かう。そこに立っていたお姉さんと、普通に会話していた。……というか、今気づいた。
「デルフリンガーさん。ここって、獣人の差別がないんですか……?」
この世界において、獣人はまじりものとして、扱われてる。
だから、子供達を外に出すときは、必ず変身薬をのませて、人間に見えるようにしていた。
だが、デルフリンガー先生は、ここへ入る前に、薬を飲ませなくていいと言ってきたのだ。
大丈夫かと不安だったのだが、人間の司書さんと、ラビが普通に会話してる。
「そう。ここは徹底した実力主義。獣人だろうとエルフだろうと、みんな平等に魔法を学んでいるの」
「そう……なんですか」
それは、めちゃくちゃいいじゃないか。この環境なら、ラビは誰の目も気にせず、魔法を学べる。
ほんとうに、最高の環境だ。絶対にラビをここに通わせるべきだ。
「でるふりんがーせんせい! むぞくせーまほうの、ごほん! よんだのです!」
ラビがいつの間にか本を手に持っていた。そして、彼女に言う。
「えとね、【移動】って、魔法!」
するとデルフリンガーさんは、とてもうれしそうに笑う。そして、目をキラキラと輝かせていた。
「正解! よくできました!」
「えへー!」
わしゃわしゃとデルフリンガー先生が、ラビの頭をなでてくれる。ラビもまた、よく彼女になついてる。
……うん。決めた。やっぱりラビは、ここに通わせよう。




