163.未来のために
俺は商人のクゥとともに、王都へ向かっていた。
スキルで作った車に乗って、森から王都への道を走ってる。
俺は異世界に居た頃の記憶がある。そこに加えて、複製という技能がある。
消費MPが大きいが、孤児院にあった無限に魔力を生み出す温泉を発見してからは、こうしてたくさんの便利グッズを作れるようになった。
クゥとのつながりも、現実のアイテムを作っていたところから、できたものだ。
さて。
「ジロさん。なんで急に、ラビちゃんを学校に通わせようなんて思うたんです?」
助手席に座るクゥが尋ねてくる。
ラビはチャイルドシートに座って、眠っている。
なぜ、か。
「コレットが、さ。妊娠してな」
「まじっすか! そりゃあおめでたやないですか! もっとはようおしえてくださいよ!」
「ああ、すまん……」
なんだか怒っていた。
クゥはもっとドライかとおもったんだが、コレットや孤児院のメンバーを、大事に思っていてくれたんだな。
前は利用することしか考えて無かった彼女が、だ。凄い心境の変化だ。感慨深い。これもまた、コレットの教えがもたらしたものだろう。
「新しい命が芽生えて、俺も考えないとっておもってさ。これからの、子供達のことを、今以上に」
子供が生まれて、その子の未来を想像する。
そうなると、孤児院の子らの未来も考える必要が出てきた……というより、考えるフェーズに入ったというべきか。
コレットとアムだけで回していたときは、子供達を食わせるだけでやっとだったらしい。
俺も来た当初は、まだ色々模索していて、目の前のことしか考えられなかった。でも……。
今は、違う。安定した金が入ってくるようになった。孤児院も立派になった。新しい命が生まれることになった。
「目先のことだけじゃなくて、少し先を、きちんと見据えないとって思ってさ」
「なるほど……」
にっ、とクゥが笑う。
「ジロさん、あんたも長になったんやなぁ、ほんまの」
クゥのほうが年下だが、組織のリーダーとしての年期は彼女の方が上。
そんなリーダーに認めてもらえたことが、誇らしかった。
「それで王立魔法学園なんか。正直。ハイレベルやで?」
「そうなのか?」
「せや。国立の魔法大学は1個しかあらへん。国中の優秀な魔法使いたちが集まって、一流になるための、一流の教育を受けてる。……あの子がついてけるかいな?」
なるほど。かなり厳しい教育をしているとこらしいな。
たしかに、ラビは引っ込み思案なとこがある。
そんなたくさんの一流達が集まる場所で、やっていけるかという不安は、理解できる。でも……。
「やってけるさ。ラビは、意外とがんばりやさんだし。それに……」
「それに?」
「思った以上に……あの子は魔法を、好きみたいだしな」
チャイルドシートのとなりには、俺の買ってあげた魔法教本がおいてある。
ラビは魔法の楽しさを知ってから、毎日のように勉強してる。
誰に言われたわけじゃなくて、自主的にだ。
きっと魔法がおもしろくてしょうがないのだろう。
「新しい環境にあの子を入れるのは、正直不安だけど、森の中で腐らせておくにはもったいない才能だと俺は思うんだ」
「なるほど……本人のモチベも高いし、適性も才能もある。たしかに、やってけるかもしれへんな」
まあ結局、外野がとやかくいっても、最終的に決めるのはラビだ。
今日は見学。
そこで、ラビが嫌がるようなら、通わせない。
でも……彼女がやりたいって言うなら、俺はその意思を尊重してあげたい。
子供の未来のために。




