162.才能の原石
あくる日、孤児院に来客が会った。
「こんにちは~」
白いスーツを着た美女だ。
目は狐のように細く、腰のあたりからは黒い羽が生えている。
「「「クゥちゃーん!」」」
プレイルームで遊んでいた子供達が、一斉にその美女……クゥのもとに集まる。
後ろには秘書の女性が立っていて、手にいっぱいの箱を持っていた。
「みんなおひさーやなぁ。ほれ、プレゼントやで~」
「「「わー!」」」
クゥは商人であり、大きな商業ギルド【銀鳳商会】のギルドマスターをやっている。
俺とは懇意にしてもらっており、ここへ来るたびプレゼントを持ってくる。そのため、子供達からの人気は高い。
子供達はクゥのプレゼントに夢中だ。
「ラビ」
「なのです?」
「ちょっといいかい」
「なのです!」
クゥのプレゼントのぬいぐるみを抱いているラビを連れて、俺はクゥとともに、事務室へと向かう。
「くぅちゃんは何しに来たのです?」
「ラビちゃんに会いにきたんやで」
「らびに? なんでー?」
「まあすぐわかるやろ」
事務所の片隅にある、ソファに座る俺たち。
正面にクゥ、俺の隣にラビが座って、ぎゅっと腕にしがみつく。まだまだ甘えたがりなとこがあるのだ。
だからこそ……悩ましい。
「それじゃ、ジロさん。本題に」
「ああ。ラビ」
俺はラビと目を合わせる。
「クゥに見せてあげてくれ。おまえの……魔法を」
魔法。この世界存在する、奇跡を体現する技術。
通常は、選ばれしものしか使えないこの技術を……。
「はいなのです!」
ラビは指を立てて……魔法を発動させた。
「!?」
空中には4種類の、魔法でできた玉が浮いている。
地水火風。それぞれの属性の魔法を、空中に、同じ大きさのボールにして浮かせている。
「む、無詠唱で……しかも、四属性やと!?」
「それだけじゃない。ラビ、お空飛んでごらん」
「はぁ!? じ、ジロさん……冗談はよしておくれーや。空を飛ぶってそら飛翔の魔法で……」
ふわふわ、とラビがその場で浮いて見せた。
あんぐり……とクゥが大きく口を開ける。
……驚くのも当然だ。
飛翔魔法。それは、失われた、いにしえの魔法だ。
俺も冒険者をやっていたので、それくらいの常識はわきまえている。
無詠唱、四属性の使用、そして古代魔法の行使。
どれも、常人にはできないこと。つまりは……。
「天才や……」
そう、ラビは魔法の天才なのだ。前からちょこちょこ、この子は才能の片鱗を見せていた。
子供達と遊んでいるときに、この子が魔法を無自覚に使っているとこを目撃した。
それで、俺はクゥに相談を持ちかけたのである。
「ち、ちなみに魔法の教育は?」
「街で買った魔法の教本1冊。あとは独学」
「そっからこのレベルに進化したなんて……話半分に聞いとったけど……これはまじや。まじもんの天才や。世界が……驚くで」
クゥは額に汗を搔きながら、口元をゆがませていた。
ラビの中に、大きな宝石の原石を見いだしたからな。
「ジロさん。じゃあ、あの話……進めといてええな? つーか、駄目って言われても、うちが連れてく!」
「ああ。進めてくれ」
話しについて行けないラビが、首をかしげている。
「おいで、ラビ」
「なのです!」
魔法の玉を消して、ラビが俺の膝の上に乗っかってくる。
すりすりと頬ずりするラビ。……甘えたがりなとこがある。
でも将来を考えたら、これが一番いい選択なのだ。
「ラビ、ちょっとお出かけしないか?」
「おでかけー! わーい! みんなと遠足なのですー!」
ああ、そうか。みんなで行くと勘違いしているようだ。
そりゃそうだ。うちででかけるってなると、孤児院のイベントと勘違いするんだろう。
「違うぞ、ラビ。おまえだけだ」
「え? らびだけ?」
「そう……」
俺は、本題を彼女に告げる。
「俺とクゥと一緒に王都へ行くぞ。そこの……王立魔法学園に、見学にな」




