160.祝福
数日後。俺たちは王都から、森の中にある孤児院へと帰ってきていた。
そして、俺は食堂にみんなをあつめていた。
子供達は、椅子にすわって俺たちの発表を待っている。
「なんです? はっぴょーってなんでやがるです?」
犬耳の幼女、キャニスがそわそわしながら周りの子らに尋ねる。
「じゅーだいはっぴょーらしいよ。まあまあ、かみんぐすーんだから、ちょいとうぇいとたいむだよ」
狐耳の銀髪幼女、コンがちょっとませたような言い方をする。
「コンちゃんはかっこいーのです!」
うさ耳幼女ラビが、コンのことをほめる。
きらん、とコンが目を輝かせる。
「みーはいつだってイカス女……」
とまあ、みんなの注目が集まった状態で、俺は子供達、そして、職員たちを見渡す。
獣人のアムをはじめ、鬼の桜華とその娘達、かつて冒険者ギルドで受付嬢をしていたマチルダもいる。
「今日はとても大事なことを、みんなに言っておかないといけない」
「「「おお、じゅーだいはっぴょーだ!」」」
獣人幼女たちに加えて、竜の少女レイア、そして鬼の幼女姉妹のあやねとアカネ。
彼女らの目が一斉にかがやきだす。
「コレットが……お母さんになります」
「「「?」」」
はて、と幼女達が首をかしげる。
職員達はあらかじめ伝えておいたので、驚いている様子はない。
「おねえちゃんが……ままです?」
「ままはままなのです」
キャニスとラビは、まだ状況を飲み込めてないらしい。
ませた少女コンが、きらんと、目を輝かせる。
「しょくん、まみーに、赤ちゃんができたのです!」
「「「!!!」」」
ああ、そう言えば良かったのか。
俺の代わりに説明してくれた、コンの頭をなでる。
「ありがとな」
「みーは右腕ポジですからな」
さらさらの銀髪をなでると、コンがうれしそうに、尻尾をぶんぶんと振るう。
「え、えーーーーー! おねえちゃん、あかちゃんできたー!?」
キャニスがコレットに抱きつく。
ラビもまた抱きつく。
「ままっ、ほんとです?」
「ええ、本当よ?」
コレットはしゃがみ込んで、二人を抱きしめる。
キャニス達は「「すごーい!」」と無邪気にはしゃいでいた。
「あねき、あかちゃんだって! すげえなっ!」
「そうだー……ぁ、ねー……ぇ」
鬼姉妹も喜び、レイアもまたぎゅっと抱きつく。
子供達はみんな、コレットのこと大好きだ。
だから子供ができたことを、純粋に、喜んでくれている。
「…………」
その様子を、離れたところでひとり、泣いて見ている子がいた。
獣人の少女、アムだ。
アムはキャニス達より年齢がうえで、コレットのお手伝いをずっとしてきた。
「よかったねぇ……コレット……」
アムは、コレットが苦労してきたのをよく知っている。
この世界では、ハーフエルフは忌み嫌われている。
俺が会う前のコレットは、きっと俺の想像するよりも遥かに苦労してきたはずだ。
その苦労を、俺は知らない。でもアムは知っている。
だから……コレットが幸せになったことを、心から、喜んでいるのだろう。
「ありがとうな、アム」
ふいに、俺はアムにそんな言葉をかけていた。
「コレットを今まで支えてくれて、ありがとう」
アムは目を丸くした後、笑顔で首を振った。
「ううん、ジロ。あたしじゃ……ここまでコレットを幸せにできなかった。あんたのおかげよ。こっちこそ……ありがとう……アタシのお姉ちゃんを、幸せにしてあげて」
そんなの、言われるまでもない。
俺はアムの頭をなでて、みんなを見渡していう。
「アム。俺は別にコレットだけを幸せにしないよ。ここにいる子供達、職員のみんなを、全員幸せにする」
それは決意表明……ではない。
俺にとってはもう、それは確定事項であり人生をかけて取り組むクエストとして、走っているもの。
これからも、そうするぞという思いを込めて口に出したのだ。……ああこれ、決意表明ってやつか。
アムは俺の言葉を聞いて、うれしそうに笑う。
「期待してるよ、ジロ」




