157.善人、子供たちと餅を焼く
初詣をすました俺たちは、ホテルへと戻ってきた。
「はー! つっかれた~、です!」
キャニスは着物姿のまま、ソファにダイブする。
もぞもぞと脱ぎ出そうとする。
「こらこらキャニス。着物がしわになってしまうぞ」
「おにーちゃん。でもこれきゅーくつで……はやくぬぎてーです!」
「はいよ。コレット、手伝ってくれ」
「がってんだい」
コレットともに、キャニスが部屋に消える。
「他にも着替えたい人がいたら言ってくれな」
「れいあ着替えたいわ! これ、ほんと、きゅーくつじゃない!」
「みーはこのままでいようかな。せっかくのおしょうがつだし」
「らびも着物、かわいいから!」
「おいらもー……ぉ」「あたしもこのままでいいや」
レイアとキャスだけが着替えて、他の子たちはそのまま着物でいるようだ。
「らびちゃー……ん、屋台で何買ったのー……ぉ?」
「えへへっ♡ 何も買わなかったのです! 貯金なのですー!」
「おー……ぅ。かしこいねー……ぇい。でも、おなかすかなー……い?」
「あう……」
きゅーっ、とラビのお腹から、可愛らしい音がした。
「に、にいさーん……」
「はいよ。昼間でもうちょいあるから、お餅で良いか?」
「はいなのですー!」
ということで、餅を焼くことにした。
ホテルの部屋にはベランダがあった。
このベランダもまた、かなり広い。
ちょっとした庭園になっていた。
俺は持ってきた七輪をセットして、炭を火をつける。
その作業を、子供たちが興味深そうに、囲んでみていた。
「コンちゃー……ん。あんちゃんは、なにしてるのー……ぉ?」
ジッ……とみんなの注目が、コンに集まる。
「コンちゃんは物知りさんなのです! きっと……今にーさんがやってること、わかってるのです!」
するとコンがふっ……とさみしそうに笑う。
「みーにだって……わからないことくらい……ある」
「「!」」
子供たちに衝撃が走る。
「こ、コンちゃんが知らないなんて!」
「あ、あんちゃんはいったい……なにをしてるんだよー……ぉ」
「うそぴょーん。しってるよー」
「「コンちゃーん!」」
ふたりが驚く。
「そーりー。ちょっとおどかしてみたかったのさ」
「「そっかー……」」
コンは七輪に近づいて、しっぽでびっ、と指す。
「これは七輪。ものを焼く小型のコンロみたいなものだよ」
「「おおー!」」
きらきらとした目を、七輪に向ける。
「みんな、上の部分に触れちゃだめだよ。火傷しちゃうからね」
「「わかったー!」」
コンの言葉に、ラビと鬼姉妹が手を上げて言う。
「コン、いつも解説ありがとうな」
「なぁに、解説があいでんててーなところ、ありますからね」
ふふん、とコンが得意げに胸を張る。
俺は彼女のサラサラとした銀髪をなでる。
「ああーん、らめぇ~。こどもたちがみてるわ~。かんじちゃう~」
「変な声を出さないようにな。さて、そろそろ餅焼くぞー」
「「「まってたー!」」」
キャスとレイアも着替え終わったようで、ベランダに子供たち全員が集まる。
「もっちー!」「おもちっ!」「おもちのびのびのーびのび!」
子供たちが七輪を取り囲む。
「あったかいじゃない! さわっていい?」
「のー! れいあ、それは……のーばっと!」
びっ……! とコンが腕をバッテンにする。
「レイアちゃん、めっ、なのです!」
「そうだよー……ぅ、あちちなんだよー……ぅ」
ラビと鬼姉妹も、腕をバッテンにする。
「ちぇー、けち」
「レイア、けちじゃなくて、みんな火傷しないように心配してくれてるんだよ」
俺が言うと、レイアは「なるほど!」と納得いったようにうなずく。
「あんたたち、よいはたらきね! れいあのかしんにしてあげるわ!」
「「「ははぁ、ありがたきしあわせ~」」」
子供たちが遊んでいる間に、俺は切り餅を取り出して、七輪にセットしようとする。
「にぃ、まって」
ぴっ! とコンが手を上げる。
「みーたちに、やらせて」
「お? やるか、みんな?」
「「「「やる~!」」」
うちの子たちは、好奇心旺盛な子が多い。
やりたいと志願したことは、とてもよいことだ。
俺は子供たちに切り餅を配る。
「かたいじゃない! もちじゃないじゃない!」
「ばっかおめー、これはまだやいてねーです。やいてからくうんです」
レイアにキャニスが説明する。
「どうやってやくのよ?」
「しらん! おにーちゃん!」
俺は七輪の上に、切り餅をのせる。
「「「これだけ~?」」」
「これだけ。後は待つだけ」
「「「おっけー!」」」
子供たちが一斉に、七輪の上のお餅をのせる。
数が多かったので、七輪をもうひとつコピーして出した。
「まだかなっ! まだかなー!」
ふぁっさふぁっさ、とキャニスのしっぽが左右に振れる。
「ちょ、へい、キャニス。きみのしっぽがわきばらをくすぐって、くすぐったい……」
「お? なんだ、コン。わきばらよわいのか? おらおら~!」
「あーん、らめー」
一方でラビと鬼姉妹は、七輪に手を伸ばして暖を取ってる。
「こうしてるとあったかいのです!」
「ほんとだぁね」
「ラビちゃんはほんとかしこいなー」
レイアは七輪の前から微動だにしない。
「まだなの!? まだ食べられないの!?」
「もうちょっとだ。そろそろ膨れてくるぞ」
「「「ふくれる~?」」」
はて、と子供たちが首をかしげる。
どうやら、子供たちは、既に焼き終わった物なら見たことがあるが、焼いてる途中の物は見たことがないらしい。
ややあって、切り餅の表面が、ぷくっと膨れる。
「お、おにーちゃん! ふ、ふくれてやがる!」
「すごいのです! せっけんみたいなのですー!」
わあわあ、と子供たちがはしゃぐ。
「まるでせっけんみたいだねー……ぇ」
「姉貴、アホなこと言うなよ。もちだぜ、これ」
「いや、アカネっち。これはせっけんだよ」
きらん、とコンが目を光らせる。
あやねにアイコンタクトを送る。
「みーが、すりかえておいたのさ!」
「な、なんだって!? まじかよ、姉貴!?」
「そうだよー……ぉ。さっきコンちゃんが、すりかえてたよー……ぉう」
「マジかよ! なんで、そんなことすんだよ! 食ったら、腹壊すだろうが!」
アカネは慌てて手を上げて言う。
「おいみんな! もちをくうな! せっけんだぞ!」
「「「?」」」
子供たちが、はて、と首をかしげる。
ややあって、餅が焼き上がる。
「そろそろ食べるぞー」
「ああ、だめだって! せっけんだって! 腹壊すってばー!」
アカネが泣きそうな声で言う。
俺はアカネを抱きあげて言う。
「アカネ、たぶんそれは嘘だ」
「へ? 嘘?」
「「うそぴょーん」」
「姉貴ぃいいいいいいいいい!!!」
アカネが叫ぶ。
苦笑しながら、俺は彼女の頭を撫でる。
「いつものコンたちのおちゃめさんだよ。ゆるしてあげてな」
「……わかったよ」
「コンたちも、アカネをからかうのはほどほどにな」
「「わかったよー!」」
さて。
餅が焼き上がったので、さっそく食べる。
「おにーちゃん! ぼく……しょーゆ!」
「らびはきなこ! きなこー!」
調味料も事前に作っておいた。
俺は紙皿に餅を取り、それぞれ好みの調味料をかける。
「まぐまぐ……うめー!」
「やはり、やきたてはうまし。やきたてモチじゃぱん」
もぐもぐもぐ、と子供たちが元気にモチを食べていく。
「あやねちゃん、さっきはごめんね~」
「いいよ、別に。姉貴、醤油ちょっとちょうだい。あたしの小豆あげるから」
鬼姉妹はちゃんと仲直りしたようだ。
「へいへい、アカネちゃん。さっきはそーりー。おわびにみーの焼いたおもちあげるよ」
「べつにきにしてねーっつの」
どうやら、ちゃんとみんな仲直りできたようだ。良いことだ。
「おにーちゃん! おかわりーほしーです!」
「お、キャニス。もう食べちゃったのか?」
「うん!」
「そうか。ただ、モチは食べ過ぎると昼ご飯食べれなくなるから、ひとり2個までな」
「「「ええー!?」」」
「昼はコレットたちがすごい美味い昼飯つくってくれてるから」
「「「なんとー!」」」
子供たちが目を輝かせる。
「んじゃ、しゃーねーな」
「二個でがまんしてあげるじゃない!」
「らび今度はしょーゆほしー!」
「あずきもおいしいよー……ぅ」
と、そんなふうに、昼前にお餅をみんなで食べたのだった。
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