156.善人、子供たちと初詣へ行く【後編】
女神様に挨拶をした後、俺たちは孤児院メンバーとともに、大通りへと来ていた。
「はえー! すげー! どこもうまそーなにおいしやがるですー!」
いぬっこキャニスが、鼻をヒクヒクさせ、口からよだれをたらしていう。
とおりには所狭しと、出店が並んでいる。
簡単なテントを立て、そこで焼いてものをその場で売っている。
そこには日本の食い物もあった。
よく見ると銀鳳商会……つまり俺の同僚、クゥが出資しているテントもあるようだ。
「おにーちゃん! あれうまそー! あれかってかって!」
「にぃ。みーはわたあめ。わたあめをしょもー」
わあわあ、と子供たちがあれをこれを、と指さす。
「みんな聞いてくれ」
「みなのもの、けーちゅー」
子供たちが俺の前に並ぶ。
俺はコレットとともに、小さな袋を、子供たちに与える。
「にぃ! こ、これはもしや伝説の……ポチ袋!」
「「「ぽち……?」」」
地球の知識があるコンだけが、俺の渡した物が何かをわかっているようだ。
「ああ。みんなにお年玉だ」
「やったー。おとしだまやー」
「「「たまー?」」」
はて、と異世界の子供たちが、首をかしげる。
「みんな、袋開けてみて。わたしたちからみんなへのプレゼントよ」
「「「ぷれぜんと!」」」
コレットが言うと、子供たちがいっせいに袋を開ける。
「お、お、おにーちゃん! き、きんぴかのコインが入ってやがるです!」
「きんいろのー……ぉ、おかねさんだー……ぁねい」
子供たちの手には、金貨が握られている。
みんな目を輝かせて、よろこんでくているようだ。
「へいにぃ、いいの? こどもにおかねなんてもたせちゃって」
「いいんだ。これはお年玉。そろそろみんなにも、自分の頭で考えて、自分の欲しいものを買うことを覚えて欲しいって思ってさ」
いつまでも大人から与え続けるのでは、彼女たちの意思が育たない。
子供たちに安心安全な生活を与えるだけが大人の仕事じゃない。
彼女らに教えを導き、やがてここを去って行く子供たちが、自分たちの足で歩いて行けるように支える。
それも俺たちの仕事……違うな、使命だからな。それが他人の子供の人生を背負うってことだ。
「難しいことは考えなくていい。あげたお金は、自分で考えて使うんだ」
「「「わかったー!」」」
ぱぁ……! と子供たちが笑顔で答える。
「ぼくあれ! さっきのいいにおいするやつ買うー!」
「姉貴。あたしはあっちの風船みたいなやつほしい」
「そうかー……ぁ。それじゃあおいらもそれほしいかなー……ぁ」
俺はコレットと手分けして、子供たちと出店を見て回ることにした。
メンバーはさっきと同じ。
俺は獣人チームの保護役だ。
自由に買い物をしていいとはいったが、さすがにこの人ゴミの中、子供たちだけで歩かせるわけには行かないからな。
「おにーちゃん! ぼく、あっちのやつ買う!」
「ふっ……せつなてきだね。みーはキャニスと違って大人だから、すべてを回ってから買う物を決めるよ」
ふたりとも買い物プランはすでにあるそうだ。
さて……。
「あうあう……えっとえっとぉ~……」
ラビはオロオロして言う。
その手にお金は握られているが、困っているような表情を浮かべていた。
「どうしたんだ、ラビ?」
「に、にぃー……さー……ん」
どうしたんだろうか、と思っていると、キャニスが屋台に突撃していく。
俺はラビと手をつないで、キャニスの後に続いた。
「おっちゃん! それくれ! です!」
「おっ。元気の良い嬢ちゃんだ。おまけしちゃうぜ」
「わふー♡ おっちゃん太っ腹ー!」
キャニスは目についた上手そうなもの……たこ焼きを買った。
「おめーらの買い物終わってから食べるです! はやくおめーらも買うもんきめろやです!」
「ふっ……あせりなさんな。じっくりと店を見て金の使い道を決めるのだよ」
「あうあう……えうえう……」
キャニスとコンは買い物を楽しんでいる。
だがその一方で、ラビはどうにも困惑しているようだった。
「どうしたんだ、ラビ?」
「にぃさん……あのね、あのね……。これ、どう使っていいのか……わからないのです……」
キャニスはお好み焼きを買い、コンは値段とかを比べながら、欲しいものを買っていく。
「らび……みんなみたいに、自分の買いたい物、わかんない。らび……だめなこなのかなぁ……」
ラビは頭がいい。
が、頭が良いからこそ、いろんなものを、余計なことまで考えてしまうのだろう。
俺はしゃがみ込んで、ラビと顔を合わせて言う。
「ラビ。おまえはダメな子なんかじゃないさ。いろんなこと考えて、最善の決断をできるのは、おまえの長所だよ。ダメな子なんじゃ全然無い」
「そーだぜ!」「ふぉーふぁふぉ」
買い物を終えたふたりが、ラビの元へと戻ってくる。
「ふたりともだいぶ買ったなぁ……」
「らび、おめーはダメなヤツじゃねえ! ぼくらが考えつかないようなことを考えられる……えと……おいコンなんていうんだっけ」
「らびは頭が良いんだ。かしこい」
「そうそれ! おめーはかしこいんだからよ! くよくよすんなって!」
キャニスがニカッと笑って、ラビの背中を、バシッ! と叩く。
「へいらび。無理にお金使うことないよ。ためて必要なときに使うのも、選択肢のひとつだよ」
「み、みんなぁ……」
ラビは、たぶんふたりがすぐ買い物をしたから、取り残されたと思ったのだろう。
「コンの言うとおりだ。俺は別にここで全部使って欲しいと思ってあげたんじゃない。あくまで、お金の使い方について、自分の頭で考えて欲しいってだけさ」
「にーさん……うん!」
ラビは握っていた金貨を、ポチ袋の中に戻す。
「らび……買い物しない。ためておいて、みんなが買いたい物が出てきたとき、使うように取っておくのです!」
ラビは決然とそう宣言する。
その目にさっきまでの迷いはなかった。
「おいおいラビおめー。いいんだって、自分の使いたいもんにつかえやです」
「ううん、いいの。だってらび……自分の欲しいもの買うより、みんなが欲しいものを買って、喜んでくれたほーが、うれしーのです!」
本当に、この子は優しくて賢いな。
「ラビ……おめー……やるな!」
「らび……まけたぜ。おまえがなんばーわんだ」
ふたりがラビを褒める。
「ラビ、それでいいんだ。おまえは本当に良い子だよ」
「えへへっ♡」
「それに二人も友達思いのほんとうにいいやつらだよ。偉いな」
「「いやぁ、それほどでも~♡」」
ラビは買い物をしないと決めたようだ。
キャスにはその後、持っているお金を全部使って、出店の食い物をバクバクと食った。
コンは慎重に買う物を精査したが、結局全部その場で使ってしまった。
「ふたりともほしーものがあるなら言って! らび……これあげるから!」
「いや! ラビそれは待て。おめーの金だからな!」
「へいラビ。今はソノトキじゃない。じっくりとタイミングを待つのだ。じぶんのほしーものを買うんだ」
「でもでもっ、らびはみんながほしいものをかいたい!」
「いや! それおめーのためにつかえや!」
「でも!」「いやでも!」「いやいやでもでも」
三人がお金の使い道を考え出している。
良いことだ。
こうやって少しずつ、いろんなことを学んでいって欲しい。
結局三人は買い物をこれでストップするようだった。
俺はコレットと合流し、ホテルへと戻るのだった。
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