156.善人、子供たちと初詣へ行く【中編】
俺はコレットともに、子供たちを連れ、街へとやってきていた。
「わぁ……! 人がたっくさんいるのですー!」
ウサ耳をぴゃっ、と立てて、ラビが驚く。
「今日は元旦だからなぁ。いつも以上に王都には人がやってきてるんだよ。みんな女神様にご挨拶に来てるんだな」
「「「めがみさま~?」」」
はて? と子供たちが首をかしげる。
「みなのしゅー、知らないのかい?」
ふふん、とコンが得意げに鼻を鳴らす。
「コン、おめーはしってやがるです?」
「もちろんだよ。みーは博識だからね」
「おお、コンは物知りだな」と俺。
「コンちゃー……ん、おいらたちに教えてよー……ぉ」
子供たちの期待のまなざしが、キツネ娘に集中する。
コンはふっ……と笑うと、俺の足をぽんと叩く。
「ではラビくん、みなに説明してあげなさい」
「「「しらないのかい!」」」
「ちちち、知ってるよ。けど今回はあえて、ラビに花を持たせてあげようと思ってね」
「「「なるほど! やさしー!」」」
やんややんや、とはやし立てる。
「ラビ、みんなに説明できるか?」
「はいですにーさん!」
ラビはうなずいて、子供たちに説明する。
「えとえと……この世界と、世界に住むひとたちは、みんな女神様が作ってくださったのです」
「姉貴、女神様って?」
「えらい女の神様だー……ぁよ」
「天も地も、人も動物も、みんな女神様が作ってくれたのです。元旦は、そんな女神様がこの星を作ってくれた最初の日なのです。だから、1月1日はみんな集まって、王都の中央広場にある女神様の像に、新年の挨拶をしにいく……のです!」
長い説明を終えて、ふぅふぅ、とラビが息を切らす。
「ラビ、すごいぞ。とっても上手に説明できたな」
俺はラビのふわふわした髪の毛を撫でる。
「えへへっ♪ やった♡ にーさんに褒められたのですぅ~♡」
「「「やるな……ラビ!」」」
子供たちが、ラビに賞賛の拍手を送る。
この子は本当に頭が良い。
計算力も高ければ、記憶力も抜群。
将来はきっとすごい子になるぞ。
「それじゃそろそろいこうか」
「みんなー、迷子にならないように、ジくんとわたしと手をつないで歩きますよ~」
「ではラビにはにぃからとくべつごほーびとして、にぃの手を握る権利を進呈します!」
コンがラビにビシッと指を指す。
「わぁい♡ えへへ~♡」
ラビが俺の右手をちょんっと掴む。
「では残りひと枠、にぃのとなりをかけて、じゃんけん大会を開きます」
「っしゃー! まけねーぞ!」
「おいらも……ぉ、本気出すぞー……ぉ」
ふたりがふんすふんす、と鼻息荒く言う。
「あ、あたしは……別にどうでもいいし……」
アカネが頬を染めながら、そっぽ向いて言う。
「じゃ三人でじゃんけんすっぞ」
「れいあもいるから4人じゃあない!」
寝坊して出発ギリギリになって起きたドラゴン娘、レイアが言う。
起きがけだったので、着物をしっかりと着れてない。
着崩して素肌が覗いている。
寒そうだが、ドラゴンの彼女は、これくらいでちょうどいいそうだ。
「あ、あたしもやっぱじゃんけんする!」
「んじゃ恨みっこ無しでやがるぞ! 負けてもごねんじゃねーぞ! てめら!」
キャニスの号令に、みなが手を上げて答える。
「「「じゃーんけーん、ぽん!」」」
さて結果はと言うと……。
「えへへっ♪ ぼくのかち~」
俺はキャニスとラビと手をつなぐ。
「おいコン。おめー負けたんだからおねーちゃんとこいけや」
「ふふ。頭の上はみーのぽじしょんですゆえな」
俺の頭の上で、コンがにやりと笑う。
「れいあはしょーがないから、コレットで我慢してあげるわ」
「アカネちゃん、おしかったねー……ぇい。ないちゃだめだよー……ぉう」
「くすん……べ、別に泣いてないし。つぎがあるしっ」
コレットは左にレイア、右にアカネ、妹の手を姉のあやねがつかむ。
「それじゃあみんな出発するか」
「「「おー!」」」
☆
王都には何度か訪れたことがある。
だがここまで人が多いのは初めてだ。
女神像があるのはここ王都と、首都マシモトのふたつだけ。
世界に像が二つしか無いので、どうしても人が多くなる。
ちなみにどうして像が二つあるというと、女神と言えば光の女神、そして闇の女神のふたりの女神様を指すからだ。
「にぃ、大行列だね」
「ぜんぜん動かないのですぅ~」
俺たちの前には、たくさんの人が一列になって並んでいる。
「みんな女神像の参拝客だな」
「こんなにたくさんすごいのです! 女神様は……人気者なのですー!」
ラビがひゃあ、と驚いて言う。
「そうだなぁ。この世界の人間はみんな女神様を信仰してるからな」
「おいコン。しんこーってなんです?」
「大人気って意味だよ、キャニスくん」
「コンも博識だなぁ」
コンの頭を撫でる。
「ふふん、よきにはからえ」
「そろそろ列が動くみたいよ~」
コレットが指さして言う。
ゆっくりだが前へ前へと俺たちは進んでいった。
ややあって、俺たちは最前列までやってきた。
「ラビちゃー……ん。このひとが女神様なの-……ぉ?」
「はいなのです! 光の女神様なのです!」
「かぁっこいいねー……ぇい」
「ラビちゃん、光のってことは、闇の女神様もいるの?」
「いるのです。闇の女神様の像は、マシモトにあるのですっ」
「さすがラビたん。ラビット、タンク。うさぎとせんしゃ。べすとまっち」
ビシッ、とコンが何かのポーズを取る。
「また新しいポーズだな」
「しらぬまにれーわライダーになっていたよ。しっぴつさぼってごめんね」
コンがよくわからないが、なぜか謝っていた。
「ところでコン、れーわってなんだ?」
「新しい元号だよ」
「そうなのか。平成も終わっちまったのかぁ……」
「にぃはへーせーまでしか知らないのな。ふっ、いっぽりーど」
今更だが俺は転生者、つまり日本で死んでこの異世界へとやってきた。
コンもまた転生者だ。だがいつの次代にこっちへ転生・転移してきたのかって、だいぶ人によって違ったりする。
コンは俺が転生した未来から、ここへ来たらしい。
「ほらほらみんな、おしゃべりしてないで、女神様にご挨拶と、お賽銭をしましょうね」
コレットと俺は、子供たちに銅貨を持たせる。
「にぃ、5円玉ないの?」
「残念なことにここ異世界だからな」
「ごえんがないとは悲しいな」
子供たちは銅貨を持って、しかし戸惑っていた。
「おにーちゃん。これなんです?」
「お賽銭。女神様の足下に箱があるだろ? あそこにいれてあげるんだ」
「どーして?」
「去年一年は女神様のおかげで元気に過ごせたからな。そのお礼金と、今年もお願いしますっていうお金だ」
なるほど……と子供たちが納得する。
「ではみなのしゅー。みーにつづけ」
コンが手に持った銅貨を、ひょいっと箱の中に投げる。
「てりゃっ!」「えいやっ」「そー……ぉい」「姉貴。あたし届かない。投げて」「れいあの乾坤一擲……くらえー!」
子供たちがめいめい、銅貨を投げる。
それは全部賽銭箱の中に入った。
俺もコレットもまた、同じようにお金を入れる。
「あとはみなのしゅー。おがむんだ。今年どうして欲しいのか、女神様におねがいだ」
むむむっ、とコンが両手を合わせて、目を閉じる。
「このとき願い事は口にしちゃだめだよ。かなわなくなるからね」
「「「なるほど!」」」
子供たちが目を閉じ、いっしんにお祈りをしている。
俺もまた、女神様に一年の感謝と、そして今年も子供たちを守ってくださいとお祈りした。
ややあって、俺たちは目を開けて、列から外れる。
「「「…………」」」
子供たちはみな、口に手を当てて黙っている。
「どうしたんだ、みんな?」
「みんな、もうお祈り終わったんだから、しゃべってもいいのよ~」
ぷはっ、と子供たちが口を開く。
「ねがいごとしゃべんねーよーにするの……むずかしーな、です!」
「みんなが何願ったのか、とってもきになるのですぅ~……」
わあわあ、と楽しそうに子供たちが会話する。
「その気持ちはよーくわかるよきみたち。でもね、それは秘密にするんだ。ひみつは女を美しくするからね」
ふっ、とコンがかっこつけていう。
「なるほど!」「らびたち黙ってるのです!」「これでいい女になれるといいねぇー……い」
「「「ねー!」」」
きゃっきゃ、と本当に楽しそうに話す子供たち
「それじゃみんな、ちょっと屋台みて帰るか」
「「「さんせー!」」」
後編は土曜日(11/16)に投稿します。




