155.善人、子供たちとおせちを食べる【後編】
ラビを起こして、俺たちはホテルのリビングに着ていた。
キッチンとの壁はなく、開放感のあるリビング。窓ぎわには大きめのガラステーブルがあり、そこに孤児院メンバーが集まっていた。
「あー! ラビおめー、やっとおきたかー!」
犬娘キャニスが、俺とそして抱きかかえられているラビを見て言う。
「おそいじゃない! 何してるのよ、れいあを待たせるとは……いいどきょうね!」「みー!」
ドラゴン娘レイアと、黒猫のクロが頬をくらませる。
「ご、ごめんねぇ~」
ぺちょん、とうさ耳を垂らすラビ。
「ま、しゃーねーや!」
にかっ、とキャニスが笑って言う。
「ラビほらこっちすわれやです!」
「うんっ!」
俺はラビを下ろす。
キャニスのとなりに腰を下ろす。
「あの……にーさぁ……ん」
ちらちら、とラビが俺を見上げる。
「らびのとなりに……座って?」
「あとでな。俺は料理の準備してくるから」
俺はリビングからキッチンへと移動。
そこには嫁たちがいて、せわしなく動いていた。
「ジロくんお疲れ様」
「ああ。料理の準備大丈夫か?」
金髪のハーフエルフ、コレットがエプロンをして立っている。
「うん。あとは出すだけだよ。おねがいできる?」
「もちろんだ」
俺はキッチンに置いてあった重箱を持って、リビングへと向かう。
「飯にするぞー」
「「「まってたーーーーーー!!!」」」
子供たちがキラキラとした目を、俺に向ける。
俺は職員たちと手分けして、テーブルの上に料理を並べる。重箱を置いて、箱を並べる。
「おいコン! みろよすげー! なんか……すげー弁当箱にはいってやがる!」
「のん。弁当箱じゃない。重箱っていうね……ちょ、みーのしっぽひっぱらないでよ」
「わあ……! わぁ……! きれいなおべんとばこに、きれいなおりょーりいっぱいなのですー!」
「だからお弁当箱じゃなくてね……ああだからしっぽひっぱらないでぷりーず」
獣人たちの耳やしっぽが、ぱたたっ、とせわしなく動く。
「きれいなおべんとばこだねー……ぇい」
「だなぁ。きんぴかでかっけーこの弁当箱」
鬼姉妹も重箱に興味津々だった。
「にぃ、みんながみーのいうこと聞いてくれないのん……かなしす」
ひょこっ、とコンが俺の肩に乗っかって言う。
「みんなお腹すいてるんだよ。別に無視してるわけじゃないから」
「にぃ……ちゅき♡」
ちゅっ、とコンが俺のほっぺにキスをする。
「ありがとな、コン。俺も大好きだよ」
「おうこれはそーしそーあい。けっこんかいけん秒読みまであるね」
「将来はもう少し真剣に考えような。さて、ほら、じゃあ降りてめしにするか」
あれこれ準備を整えて、飯の時間となった。
「さぁジロくん。新年の挨拶おねがいね♡」
「え? なんだそれ……聞いてないぞ」
コレットを見て俺が言う。
「新しい年が始まったんだから、こういう挨拶は必要でしょう?」
「いやそれより子供たち早くご飯食べたいんじゃないか? あいさつとか」「「「ききたーい!」」」「………そうか。じゃあそうだな」
俺はよいしょと立ち上がって、みんなを見渡して言う。
「あー……。えっと、新年が始まったな。今年もみんなが喜んでもらえるよう、俺たち大人もたくさん頑張ろうと思う。みんなは思う存分、今この瞬間を楽しんでくれ。……それじゃ、明けましておめでとう」
「「「おめでとー!」」」
挨拶がすんだので、みながいっせいにおせち料理を食べ始める。
「うめー! この卵のあめーやつちょーうめー!」
「ほぅ……この黒豆、いいね。昆布も……うん、良い味してる」
「はぐはぐあぐあぐ……ん~~~~♡ おいしー!」
子供たちが小皿に取ったおせち料理を、実においしそうに食べている。
「姉貴っ、つぎはエビくいたい!」
「よー……ぉし、おねえちゃんがー……とってあげるよー……ぅ」
いつもは料理を、大人たちが取り分ける。だが今日は各自すきなもの、好きなようにとって食べているのだ。
……ちなみにこの料理だが、事前に孤児院で作ってきた物だ。それをマジック袋にいれておいたのである。
「お雑煮たべるひと~」
「「「はいはいはーい!」」」
コレットがキッチンからそう言う。
子供たち全員が手を上げる。
「みんな、おもちは何個くらい食べるか?」
すると「「「え?」」」と子供たちが目を丸くする。
「お、おにいちゃん……何個ってど、どうゆーことです?」
キャニスが困惑顔で、俺に聞いてくる。
「ん? いや……文字通りだぞ。お雑煮に何個おもちいれるかって意味だ」
「えとえと……おもちは、いつもひとり一個までだったのです」
なるほど……。
去年までの経済状況は、かなり酷かったからな。餅を買うお金がなかったのだろう。
「大丈夫だ。もちはたくさんある。各自好きなだけ食べて大丈夫だからな」
俺がそう言うと、ぱぁああ……! と子供たちの表情が明るくなる。
「おいきいたかおめーら! 好きなだけいいってさ! いいってさー!」
「「「おおー!」」」
子供たちがパチパチと拍手する。
「にぃ、ふとっぱら!」
「わーい! らび……たくさんおもちたべるの夢だったんだぁ~♡」
「姉貴、ここほんとすごいよ……天国みたいだ」
「そうだー……ぁね。最高だー……ぁねぇい」
「れいあ……じゃあ2個! 2個ほしいわ!」
「ん。了解」
コレットがお雑煮を茶碗に入れる。そこに焼いた餅(餅もトースターも家から持ってきている)を2個入れる。
俺は茶碗を持って、レイアのもとにおく。
「お、おー! じゃ、じゃあぼくは……ぼくは……3個!」
「「「おおー!」」」
「じゃじゃあ……らびは、らびは……よ、よっつ!」
「「「まじかー!」」」
戦慄する子供たち。
「ら、ラビちゃん大丈夫か? よっつもたべたらお腹お餅になっちゃうぞ?」
妹鬼アカネが、ラビに気遣わしげに言う。
「いいのっ! だっておもち……だいすきだから!」
「そ、そう……あ、アタシは1個でいいや」
「おいらもー……ぉ」
「みーもー」
各自おもちを入れて、お雑煮を子供たちの前に出す。
「ずずず……うめー!」
「ほう……だしがきいててまろやか」
「おもちおいしー! 何個でも食べれるのです-!」
うまうまー、とラビがお餅を頬張って言う。
「コンは1個で良いのか?」
「よい。おもちって、こんなちっちゃくてお茶碗いっこぶんくらいあるから、ふとっちゃうし」
むにむに、とコンが自分のお腹をつまんで言う。
「そんなの子供のうちから気にしなくていいんじゃないか?」
「そーしてると将来こまるんですよ……」
遠い目をするコン。
彼女は転生者、つまり前世が地球人である。
ここへ来る前に、何かあったのだろうか……。
「お正月明け……体重激増……くっ……!」
「そ、そうか……まあ自分の好きなように食べると良いぞ」
その後孤児院メンバー全員で、のんびりと食事を取る。
ややあって、食後。
「「「くったぁ~……」」」
子供たちが、仰向けに倒れて言う。
その顔は実に満足そうだった。
「ゆめみてーな時間だったです……」
「おもち……たくさん……けぷ」
「あ、姉貴……アタシのほっぺつねって。夢じゃないよね?」
「つねれないよー……ぅ。だー……ぁいじょうぶ、夢じゃあないからさー……ぁ」
はぁ~……♡ と満足そうに吐息をつきながら、余韻に浸る子供たち。
「みんな。そろそろ起きて支度しような」
「「「したくー?」」」
俺が言うと、子供たちが首をかしげる。
「おにーちゃん、したくって、何の?」
「これから初詣をしに、みんなでお出かけだ」
「「「おー!」」」
がばッ……! と子供たちが体を起こす。ラビだけ「うごけない~」とおきれなかったので、俺がよいしょと抱き上げる。
「さ、みんなでお着替えしましょうね~」
コレットがニコニコしながら言う。
「「「はーい!」」」
……かくして俺たちは、朝食を終えた後、初詣へとでかけることになったのだった。
夜に後編アップの予定です。
新作をはじめました。
「自由を奪った状態で倒すなんて、この卑怯者!」と追放された最強の暗殺者、人里離れた森で魔物狩りしてたら、なぜか村人たちの守り神になってた
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最強の影使いの暗殺者が無双するお話です。頑張って書いたので、読んでくださると嬉しいです。
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