152.善人、嫁たちと部屋決めをする
年末旅行をしに、王都のホテルへとやってきた俺たち。
俺は寝ている子どもたちの様子を見に、子ども部屋へとやってきていた。
「がーがー……」
「ぬぅーん……」
「すぅ……すぅ……」
子どもたちが寝ているのは、借りている部屋の一室だ。俺たちはホテルの最上階(より1つしたの階。最上階はレストランになっている)。
この部屋はその階まるまるが1部屋となっている。中には小部屋がいくつもある、という間取りだ。子どもたちはその小部屋の一つを使っている。
「……小部屋っていっても、すげえ広さだけどなぁ」
俺は小声で呟くと、恐ろしいほど広い部屋の奥へ行く。そこにはキングサイズのベッドが二つあった。
2つのベッドをくっつけて、子どもたち6人が、横並びに寝ている。
「がー……がー……」
「ぬぬぅーん……」
「すぅー……にぃさぁー……ん」
獣人たちは気持ちよさそうに、ぐっすりと眠っている。鬼姉妹は、姉が妹をだっこして、くぅくぅと寝ていた。
「レイアは……?」
レイアが見当たらないと思って探すと、布団がこんもりしていた。中を見ると、レイアは布団の中で、クロと一緒に丸くなって眠っているではないか。
「よいしょっと」
俺はレイアとクロを一緒に引っ張り上げて、他の子たちが寝ているよこに、寝かしつける。
「……あれじゃ息苦しいだろうしな」
実際寝苦しそうにしていたのだ。外に出したら、すやすやと寝だした。
他の子の様子を見る。どの子も行儀よく眠っていた……と思ったそのときだった。
「ぬぅーん……ぬぅーん……」
ころんっ。
ぽてんっ。
足下に、銀の毛玉が転がってきたではないか。
「コン……おまえ相変わらず寝相悪いな……」
コンは寝るとき、尻尾を抱いて寝る。遠目で見ると銀の毛玉に見えるのだ。
俺はよいしょとコンを持ち上げて、キャニスとラビの間に寝かしつける。
するとまたコロン……っと落ちようとした、そのときだった。
はしっ。
はしっ。
「がー……がー……」
「すぅ……すぅ……」
キャニスとラビが、コンの尻尾を、抱きしめてきたのだ。
「両手に花……やでぇ……ぬぅー……ん」
コンは左右両方から、子どもたちに押さえつけられて、その場から動けないようだった。
キャニスはコンの尻尾に顔を埋めて、幸せそうにフヘッと笑う。ラビもまたコンの尻尾の匂いをかいで、にへっと笑った。
「もてもて……りーそしあー……」
「……ぐっすりお休み、みんな」
俺はそう言い残して、子ども部屋を後にする。
部屋を出ると長い廊下が続いている。左右に部屋のドアがいくつも並んでいた。このひとつひとつが、子ども部屋と同じように、寝室やら風呂やらといった部屋になっている。
廊下の一番奥が、リビングスペースとなっている。そのドアを開けて、中に入る。
「じーろさんっ! お疲れ様ですー!」
ンバッ……!
ぬぎゅぅ~~~~~~~~~!
……いきなり視界が塞がれた。と思ったら、とてつもなく良い匂いと感触が、俺の顔面に襲ってくる。
「ま、マチルダ……苦しい」
「えー? なんですかー? 聞こえないですっ。ジーロさん♡ えへへっジロさんの大人の匂い大好きっ♡ むぎゅー♡」
楽しそうに笑いながら、マチルダが熱い抱擁をしてくる。そのたびゴムまりのように弾力の良い乳房が当たって実に気持ちが良い。
「マぁーーーチルダぁーーーーー! あなたねーーーーーーー!」
エルフ嫁の叫び声が、遠くから聞こえる。と思ったら、視界が開けた。
「あーん。なにするんですかコレットー。せっかくジロさんの素敵な匂いに酔いしれてたのに~」
明るくなった視界。そこではコレットが、マチルダを背後から羽交い締めにしていた。どうやら抱きついていたマチルダをコレットが引き剥がしたようだ。
「ジロくんのにおいをかぎたいなら、そこにジロくんの上着があるわ。それで我慢しなさい」
コレットが柳眉を逆立てて言う。
「いやですっ! ジロさんに抱きついてたいんです! ジロさんを感じてないと、わたし死んじゃうんですー! ジロさーん!」
「マチルダ! シッダウン!」
「ノー! 犬じゃないから聞きませーん!」
わあわあきゃあきゃあ、とコレットたちが騒ぐ。
「静かにな。子どもたちぐっすり眠っているところだから」
「それは大丈夫だよ、ジロー」
下の方から声がする。そこにいたのは、幼女と見まがう姿の、紫髪したメガネ少女。大賢者ピクシーこと先輩だ。
彼女は俺と同様転生者であり、向こうの世界では大学の先輩後輩の間からだったので、つい先輩と呼んでしまう。
こちらの世界では先輩は【妖小人】という、見た目の幼い亜人種として転生しているのだ。
「大丈夫ってどういうことだ、先輩?」
「ここ、部屋ごとに防音の魔法が付与されている。ここでいくら騒ごうと、子どもたちの睡眠を妨害することはない。もちろん、部屋でどんだけ大きな音を立てても、となりの部屋には聞こえないよ。良かったね」
くすくす、と先輩が妖艶に笑う。
「それは……どういうこと?」
「鈍いねジロー。つまりだね、夜いたしても問題ないと言うことだ」
いやそれはそうだけど……旅行中ということもあり、俺は自重しようと思っていた。
「ジロさんっ! 新年最初のえっちはマチルダとしましょうっ!」
「ハウス! マチルダ、ハウス!」
「だから嫌です! コレットこそ引っ込んでてください!」
「わ、私だってジロくんとしたいもんっ! 新年最初はジロくんの腕枕で年明けたいもん!」
「それはわたしもですー!」
「……とまあ彼女たちは乗り気だよ。もちろん私も。アムと桜華もみたいだよ」
「そ、そうなのか……?」
二人の方を見やると、顔を真っ赤にして、もじもじとしていた。
「そんなわけだジロー。さっそく部屋決めといこうじゃないか。誰が君と一緒の部屋で過ごすのかを……ね?」
☆
リビングスペースにて。巨大で真っ白なソファが、窓の近くに置いてある。俺たち孤児院の職員たちは、顔をつきあわせていた。
ちなみに鬼娘たちは、街に買い物へ出かけている。みんな外見詐称薬をしっかりと飲んでいるので、ひとまずは安心だ。
桜華の孤児院の赤ん坊たちは、ベビーベッド(孤児院からマジック袋に入れて持ってきた)を出してそこで寝ている。
「さてじゃあ、最初に聞いておこうかな。ジローと一緒に寝なくても良いって人、手を上げて」
先輩が嫁たちを見回して言う。その顔はニヨニヨと実に楽しそうだ。絶対からかっている。
先輩の呼びかけに、嫁たちは誰一人として、手を上げていなかった。
「ふふっ。見たかいみんなジロー。みんな君と一緒に寝たいってさ。モテモテだねジロー。うらやましいよ」
「先輩、楽しんでるでしょ……」
「何を言う。当然じゃないか」
くつくつ……と上品に笑う先輩。
さてその一方で……。
「はいはい! わたしマチルダに考えがありますっ! 若い人優先というのはどうでしょう!」
「却下! 圧倒的に却下よ! ねえ桜華!」
「……そうです。ずるいです。わたしも、ジローさんのおそばが、いい……です」
うんうん、とコレットと桜華がうなずく。ふたりは亜人であり、人間換算すれば若い方だが、実年齢は百を超えている。
一方でマチルダは18。アムは15と、実年齢として若い。
「だからねみんな、逆に年長者優先ってことにしましょう?」
「「却下!」」
「もうっ! みんなジロくん好きすぎでしょ! 一人ぐらい我慢しなさいっ!」
コレットがプンプンと怒り出した。こうしてみんなから好意を持たれるのは、嬉しかったが……あまり争わないでもらいたかった。平和にいこうよ。
「じゃあじゃあッ! おっぱい大きい順はどうでしょうかっ!」
「暗に自分のおっぱいの方が大きいっていいたいのかな? ん? けんか売ってるのマチルダ?」
「違いますよ」
「あらそう」
「わたしのほうがコレットより若くて張りのあるおっぱいしてるので、もんだら気持ちが良いですよジロさんってアピールです♡」
「よし表に出ろマチルダ……久しぶりにキレちまったよ……」
「コレット、マチルダ……落ち着いてな」
普段は優しくておしとやかなコレットだが、マチルダ相手となると闘争心むき出しになる。
けんかするほど仲が良いというやつだろう。だとしたら俺は嬉しい。コレットは今まで、同年代の友達なんて少なかったしな……。
「もうジロくんっ。ハッキリ言ってあげてっ!」
コレットが立ち上がると、俺のとなりに座る。そしてむぎゅーっと腕にしがみついてきた。
「おれはコレットのおっぱいが大好きなんだ。マチルダみたいな子どもおっぱいはすっこんでな……って!」
「コレット……発言。気をつけような。そういうのよくないぞ」
「けどジロく~……ん。そうなるとわたし負けちゃうよ。年齢でもおっぱいの大きさでも負けてるし……」
コレットがまた、ジェラシーモードに突入していた。すりすりと自分の胸を俺に押しつけてくる。ぐにゅぐにゅと、持ちのような感触が腕に当たって気持ちが良い。
「ジロさんジロさんっ!」
マチルダがコレットは逆側に座る。むぎゅーっと力一杯、俺の腕に抱きついてきた。
「コレットに言ってやってください。おれはマチルダの張りのあるおっぱいが好きだ。垂れパイはすっこんでな……って!」
「よし戦争だな。表に出ろ。血の雨をふらしてやるぜ」
「コレット落ち着けって……」
ふたりのバトルが白熱しまくっていた。それを観戦していた先輩が、楽しそうに言う。
「アムと桜華はいいのかい? そんな控えめだとこの二人の肉食獣にジローは食われちゃうよ」
「「誰が肉食かっ!」」
「おや否定できるのかい?」
「「できないけれども……」」
でしょう、と先輩が実の楽しそうに笑った。くっ……他人事だと思って。
その一方で、アムが俺の膝の上に乗ってきた。
「……ジロ。その……あ、あたしじゃ満足させられるかわからないけど……い、一緒に寝たいな」
潤んだ目で、俺を見上げながら言う。
「……じろーさん」
ふにゅんっ♡ と俺の後頭部に、とてつもなく柔らかな物体が押しつけられる。桜の花のような良い香りがした。
「……じろーさん。たくさん、ごほーしします……だから、お願いします。一緒に……ね?」
黒髪の美女が、濡れた瞳で、俺に熱っぽい視線を送ってきた。
「ふふっ♡ いやぁ、ジローはモテモテだなぁ。いや実にうらやましいね。このこの」
つんつん、と先輩が俺の頭を肘でつつく。
「……先輩。もう十分楽しんだか?」
「ああ。十分すぎるほどね」
はぁ……と俺はため息をついて、こう言った。
「それじゃ……みんなで一緒の部屋で寝ようか」
小部屋はひとつひとつがすごい広さだ。大人6人でも普通に寝れる。
キングサイズのベッドが二つもあった。あれをくっつければ、みんなで一緒に寝られるだろう。……問題は、体力が持つかどうかってことだ。
「「「やったー!」」」
「けど年末から年明けにかけてはダメだからな」
「「「わかってらー!」」」
……竜の湯のお湯は、きちんと持ってきているので、大丈夫だろう……と信じたい。
かくして、平和的に、部屋割り問題は解決したのだった。
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