表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】善人のおっさん、冒険者を引退して孤児院の先生になる 〜 エルフの嫁と獣人幼女たちと楽しく暮らしてます  作者: 茨木野


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

162/189

150.善人、孤児院みんなで王都へ行く



 年末の朝。俺たち孤児院のメンバーたちは、準備を整え、いよいよ王都へ出発しようとしていた。


 俺が孤児院内の戸締まりをしていると、俺の携帯に、電話がかかってきた。


「ん? 誰からだ……?」


 ポケットからスマホを取り出すと、画面には【クゥ】という文字が表示されていた。俺は通話ボタンを押す。


【ジロさん、おひさしゅーな】

「おうクゥ。どうしたんだ?」


 クゥとは俺の所属している商業ギルド、銀鳳商会の実質的なリーダーだ。ちなみに名義では俺が社長トップとなっているが。


【ん。ちょっとジロさんが王都に来るって小耳に挟んだんでな。ちょいとお願いしたいことがあって電話したんや】

「あいかわらず耳が早いなぁ」

【商人は情報の鮮度が命やかなら】


 くつくつ、とクゥが笑う。ちょっと得意そうだった。


【んで、王都くるんやろ? 孤児院の子ぉらとメンバーとで。3日くらい王都に滞在するンやろ】

「お見通し過ぎてこわいんだが……」


【まあまあ別に悪用はせんわ。んで、滞在中のどっかのタイミングでええんやけど、商会までご足労してくれへん?】


「いいぞ。というか、もともと年始の挨拶をしに、クゥんところには行く予定だったんだ」

【あ、そーなんや。なら都合ええわ】


「しかしクゥよ、何の用事だ?」

【ちょっとジロさんにお年玉あげよう思ってな】


 お年玉? なんだろうか……。お金でもくれるのか。いやしかし、クゥからは定額の給金をもらっているしな。


「お年玉ってなんだよ」

【そりゃ来てのお楽しみや。どえらいの用意してまっとるで】


 実に楽しそうに、クゥが言う。まあ悪いものじゃないだろうが、ちょっと……いやかなり気になるな。


 しかし聞いた感じだと、この場で正体を教えてくれなさそうだし、追求するのはやめておこう。


【そりゃそうとジロさん。王都来てる間は、孤児院の管理はどないすん?】

「ワドやユミルたち【銀鳳の槌】が、俺たち不在3日間、面倒見てくれることになっているだよ」


【んなことせんでも、そこ私有地になっとるやん。誰も入ってこぉへんやろ】

「まあな。けど万一ってこともあるだろうし、それに水道管が凍らないようにしてもらいたいってのもある」


 冬場は特に、水道管が凍ってしまう事故が結構起こる。なのでワドたちには、不在の間、定期的に来て、水を通してもらう手はずになっているのだ。


【なんや準備万端やなぁ】

「ああ。荷物も積んでるし、あとは車で王都へ行くだけだよ」


 ちなみに運転は俺、先輩、マチルダ、アム、桜華の5人で、5人乗りの車を運転していく。


 コレットは……うん。


【先生は運転あらいからなぁ。雪道の運転やさかい、きぃつけてきてな】


 ほな、といって、クゥは電話を切ったのだった。しかしどえらいお年玉かぁ……。なんだろうな。気になる。



    ☆



 クゥと通話を終えた俺は、いよいよ王都へ出発することになった。


 孤児院の玄関先には、車が5台止まっており、孤児院の子どもたちと職員たちが集まっている。


「まだかっ! まだなのかーっ!」


 うずうずしているのは、犬耳元気娘のキャニスだ。この寒いのに半ズボンだ。


「せいせい。キャニスくん落ち着きたまへ」

 

 そのとなりには、半眼の銀髪キツネ娘、コンがいて、キャニスの肩にぽんっと手を置く。


「にぃたち今、出発の準備してる。せかすのはよくないよ」

「おいコンてめぇひとり大人ぶってんじゃねーです。ほんとはおめーもウズウズしてるくせに」

「ほほ。そんなことないよ。やれやれ、キャニスは子どもだね」

「んじゃどーして尻尾ぶんぶんしてるんだよ」

「さぁて、なんででしょうね」


 その一方で、ウサギ娘と、鬼姉妹が集まってニコニコしている。


「王都ー……ぉ、たのしみだー……ぁねぇ」


 短髪でニコニコしているのが、姉のあやねだ。逆に長髪でつり目なのが、妹のアカネ。


「べ、別にアタシはべつに……」

「おんやー……ぁ? 楽しみで眠れなかったんじー……ゃ? なかったっけー……ぇ」


 ニヨニヨ、とあやねが楽しそうに、アカネをいじる。アカネは顔を真っ赤にして、


「ばっ……! そういうこと言わなくていいしっ!」


 ぺちぺち、と姉の肩をたたく。そのとなりで、ウサギ娘がニコニコしながら言う。


「らびも昨日はドキドキで眠れなかったのです! アカネちゃん、同じなのですー♡」


 ぴょこっぴょこっ、とうさ耳をせわしなく動かしているのが、ウサギ獣人のラビだ。


「一緒なのですー♡」

「うん、一緒だなっ」


 えへーっと笑うウサギ娘とアカネ。


「ふたりは仲良しだー……ぁね。よかったねー……ぇい」


 うんうん、と姉が嬉しそうにうなずいて言う。ラビはちょこちょことあやねに近づいて、きゅっと手をつなぐ。


「もちろんあやねちゃんとも仲良しさんなのですっ!」

「えへー……ぇ♡ おいらうれしよー……ぅ」


 ラビと鬼姉妹は、仲良く手をつなぐと、ぴょんぴょんとその場でジャンプしながら、「楽しみ楽しみ~♡」と踊っていた。


「ちょっと! まだなのかしらっ! れいあ待ちくたびれてるんですけどー!」

「みー!」


 バサッ! と翼を広げ、俺の体に抱きついてきたのは、ドラゴン娘のレイアだ。その頭の上には、黒猫のクロが乗っている。


「すまんなレイア。もうちょっとで出発するから」

「もうちょっとっていつよっ! とっとと出発したいじゃない!」「みー!」


 うがー! と口から火を噴きながら、レイアが言う。


「おー! レイア、おめーのゆーとーりですっ!」


 キャニスが俺の体に抱きついて、するすると肩の上に乗っかる。


「おにーちゃんっ! はやくはやく~」

「すまんな待たせて。よし、じゃあ出発する前に点呼とるぞー」


「「「おー!」」」


 子どもたちが俺の前に、行儀良く整列する。


「ではみなのしゅー。にぃが名前呼ぶから、元気よくあいさつすること。よいね?」


 いつの間にか頭の上に乗っていた、コンが腕を組んで言う。


「おいコンてめぇ。こっち側だろです」

「ふふっ、それはどうかな」


 にやり、とコンが不敵に笑う。


「みーは謎多き女ですからな」

「コンちゃん……今日もかっこいーのですっ!」

「ふっ……ラビ。みーはおとなだから。そんな見え透いたおべっかじゃ喜ばないのよ」

「コンちー……ゃん。しっぽぶんぶんしてるよー……ぉ」

「あやねる、お静かに」


 こほんっ、とコンが咳払いをする。


「にぃ、みーが点呼とってよい?」

「いいぞ。頼むぜコン」

「おまかせれい」


 コンが俺の頭から降りる。


「ではさっそく……キャニスくん」

「おー!」


 ばっ……! とキャニスが、目を><にして、元気よく手を上げる。


「うむ、元気があっていいね。次……レイアくんとクロくん」

「いるじゃない!」「みー!」


 ばばっ……! とレイアもまた目を><にして、両手を挙げる。


「レイアおめー……両手を挙げるとは……!」

「ふふんっ! れいあの勝ちねっ!」

「くそ……! 負けたです……!」


 なんだか知らないが、そこで勝負があったらしい。


「次……ラビくん」

「は、はいなのですっ」


 ラビもまたばっ……! と両手を挙げる。


「せいせいラビくん。手は片手でいいんだよ。レイアくんをまねなくていいんだ」

「はう……そうだった……ごめんねコンちゃん……」


 ぺちょん、とラビのうさ耳が垂れた。


「なーに気になさらず。人はみな間違える。大切なのは、間違えたことから何を学び取るか……だ。ね、にぃ?」


 コンがにやっと笑って言う。


「ああそうだな。コンは相変わらず良いこと言うなぁ」


 わしゃわしゃ、と俺はコンの頭を撫でる。

「にぃに褒めれたー」

「「「いいなぁー……」」」

「みんなも後で褒めてもらうと良いよ」

「「「それなー!」」」

「おっと点呼の途中だった。さて……あやねくん、アカネくん」


 コンが鬼姉妹を見て言う。ふたりは仲よさそうに、手をつないだままだった。


「はー……ぁい」

「…………」

「アカネちゃんー……は、みんなに注目されている前でー……ぇ、手を上げるのはずかしぃってー……ぇ」

「ば、ばかっち、ちげーしっ!」


 顔を真っ赤にするアカネ。否定はしていたが、確かに恥ずかしいのか、姉の後に隠れていた。


「おいらがー……ぁ。アカネちゃんのー……ぉ、ぶん手を上げるからー……ぁ」


 ばばっ、とあやねが両手を挙げる。結果的にアカネも手を上げることになる。

「け、結局あげてんじゃんっ!」

「おやそうだー……ぁね」


 にこにこーと笑うあやねと、まったくもう……とため息をつくアカネ。


「うむ。にぃ、子どもたちはこれで全員そろったよ」

「おっとコン。まだだぞ」

「わっつ?」


 俺はコンを持ち上げて、地面に下ろす。コンがハッ……! と何かに気付いたような表情になる。


「みーが……まだっ!」

「おいコン。こっちこいっ!」

「コンちゃんの番なのですっ! こっちー!」


 キャニスとラビが、おいでおいでと手招きする。てててっ、とコンが二人の間に入る。


「ではにぃ……どうぞ」

「ああ……コンくん」

「いえす、あいあむ」


 コンが人差し指を左右に振って、ぴしっ、と地面を指さす。


「ふっ……きまつた」

「「「おー!」」」


 ぱちぱち、と子どもたちが拍手する。


「コン……おめー……いかしてんな!」

「コンちゃんかっこーのです!」

「ふっ……てれますな」


 ひゃーっとコンが自分の尻尾で顔を隠す。かっこつけたはいいものの、途中で恥ずかしくなってしまったようだった。


「にぃ隊長、子どもたち全員しゅーごーしました」


 びしっ、とコンが敬礼のポーズを取って、俺を見上げる。残りの子たちも、びしっ、と敬礼。


「よし……じゃあ行くか。みんな、車に乗ろうか」

「「「しゃー!」」」


 だーっ! と子どもたちが、孤児院の前の車に乗り込もうとする。しかし……。


「おいぼくが! ぼくがおにーちゃんの車に乗るからっ!」

「のん。みーが。みーがにぃの車にのるんだもん」


 1号車、つまり一番先頭の車(俺が運転する)に、子どもたちが集結していた。


「ら、らびも……にーさんの車が良いのです……け、けどみんなが乗りたいってゆーならぁ……」


 ラビが一歩引こうとした、そのときだった。


「おいおめーら! ラビがかわいそーだ。ここは公平に……じゃんけんできめっぞ!」


 キャニスが一番に、ラビに気付いて、そう提案する。


「「「じゃんけんだー!」」」


 残りの子たちも異存ないのか、うなずいて言う。子どもたちは一カ所に集まって、真剣な表情で構える。


「いくぞぉ……! じゃーんけーん!」

「「「ぽんっ!」」」


 はたして勝ったのは……。


「かったのですー!」

「ちくせう、まけたぁ……」

「ぼくも勝ったー! やったー!」


 1号車にラビとキャニス。桜華の車に鬼姉妹。アムの車にコン。マチルダの車にレイア、という順で乗ることになったらしい。


 孤児院メンバーは話し合ってどこにのるか決め、おのおのが車に乗り込む。


 俺は後部座席の確認と、後の車を確認した後……エンジンをつける。


「よし、じゃあいくか」

「「「おー!」」」


 かくして俺たちは、年末旅行へと出発したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ