149.善人、年末旅行を企画する
いつもお世話になってます!
コンの小説練習につきあった、その翌日。
いよいよあと数日で、年度が変わるとなった、ある日の夜。
俺は孤児院の1階ホールに、子供たちや職員たちを集めていた。
「なぁコン」
「なにかねキャニスくん?」
ホールのソファに座る、犬娘が、となりのキツネ娘の肩をたたいて言う。
「これはなんのあつまりです?」
「しっ。にぃが今からそれをゆーから。おとなしくしてなさい」
「むむっ。コン、おめーなんか、おとなっぽいな!」
「ふふ、せやろ?」
逆サイドのソファでは、
「楽しみなのですー!」
「だねー……ぇい。あんちゃんがおいらたち集めるときはー……ぁ、たいてい何か楽しー……ぃ、イベントのときだからねー……ぇい」
ウサギ娘のラビと、鬼姉妹が座っている。妹鬼は眠そうに、うとうととしていた。
姉鬼はアカネに肩を貸して、よしよしと頭をなでている。
鬼娘、職員たちも空いてる席に座っている。
俺だけが、みんなが見える位置で立っていた。
「よし、じゃあそろそろ始めるか」
俺は子供たちを見まわす。
獣人たちは、ぱたたたたっ、と耳やしっぽをはためかせていた。鬼姉妹はわくわく、と目を輝かせている(アカネは起きた)。
俺は言う。
「年末から年明けにかけて、みんなで旅行へ出かけようと思っているんだ」
俺の言葉に、子供たちはというと。
「「「きたぁぁああああああああああああああああああ!!!!!」」」
と歓声を上げる。
「りょこー!」「わぁ……! 楽しみなのですー!」「やったー……ぁね」
「「「わーーーーーーい!!!!」」」
子供たちがいっせいに、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねる。
うん、喜んでくれて良かった。
「のん。みなのしゅー、のん」
ただひとり、コンだけが冷静だった。シュパッと手を上げる。
「おいコンっ! なにれーせーぶってんだ! 旅行だぞ旅行!」
キャニスがコンの肩をゆする。
「それはわかっておる。けどみなのしゅー、落ち着け。にぃが今、話してるとちゅーでしょ?」
「「「! そうだったー!」」」
子供たちがソファに座り、静かになる。
「にぃ、みなのしゅーが静かになりました。続きをどーぞ」
「ありがとなコン」
俺がそう言うと、
「なぁに、みーはにぃの右腕ですゆえな」
むふふ、とコンが笑って、満足そうに鼻を鳴らす。
「コンちゃんが……とっても大人なのですー!」
ラビがパチパチパチ、と拍手する。
「やめて。ラビ、せっかくしずかになったんだよ?」
「はわわわっ、ご、ごめんねぇ~……」
「ううん、いいの。実はみー、ラビに拍手されて……めちゃうれしす」
「えへへ♪ コンちゃんが喜んでくれて、らびもうれしっ♪」
えへー、と笑うコンとラビ。
「おめーらおにーちゃんが話したそうにしてっぞ」
「「「しまった!」」」
子供たちはお口を手で覆う。
「話を進めるぞ」
「「「ふぉーふぉー!」」」
どうやらどうぞ、と言いたいらしい。口を押さえているので、くぐもっていた。
俺は今回の旅行の概要を説明する。
「31日から翌月の2日までの3日間、王都へ行くつもりだ」
「「「おーと! わぁー……!!」」」
子供たちがぱぁ……っと表情を明るくし、はっ……とまた口を手で覆う。
「王都のでっかいホテルを予約してある。そこにみんなで泊まる感じだ」
「「「ひゅ~~~~~~!」」」
子供たちが立ち上がると、ホールの真ん中で円陣を組む。そしてわっしょいわっしょい、とジャンプ。
そして元に戻る。
「「「話を続けてっ!」」」
「了解だ」
俺はプリンタで出力した、ホテルの写真を子供たちに配る。
「にぃ、これって前に、クゥちゃんとごはんたべた、【メトロポリタン・シェアノ】?」
「そうだ。よく覚えてたな、コン」
「みーの頭はデータバンク。孤児院のあいだひこいちとはみーのこと。よーちぇっくや」
にやりと笑ってコンが言う。
「「「かっけー!」」」と子供たち。
「やめて。てれてまうやろ」
ひゃあ、とコンが自分の顔を尻尾で隠す。
「ホテルはコンが言ったでっかいホテルだ。そこのでっかい部屋を予約した。すごいんだぞ、広くて。な、コレット」
「うん、とっても広い部屋で、孤児院の何倍もおっきいんだからっ」
俺とエルフ嫁は、子供にわかりやすくそういう。
コレットと俺は、クリスマスデートで、このホテルと部屋に泊まっている。
デートの帰りに、俺はクゥに頼んで部屋を予約してもらった。
このホテル、大人気でなかなか予約が取れないらしい。だが大商人の権力があったおかげで、部屋を確保できた。
クゥにはほんと、感謝だな。
「でっけー部屋!」
「でっかいホテル!」
「「「たのしみー!」」」
子供たちが目をキラキラさせて、身をくねらせて言う。
「年明け2日まで部屋を取ってある。年末の夜は年明けの瞬間、花火やるみたいだから、部屋からみんなで見ような」
「「「!!!!!」」」
子供たちが戦慄する。
「お、おにーちゃん……ぼくら、ぼくら夜更かししても、いいのっ?」
キャニスが尻尾をぶるんぶるんと振り回しながら、尋ねてくる。
「ああ、その日はお昼寝たっぷりして、夜の年明けの瞬間を、みんなで祝おうな」
「「「やったぁああああああああああああああああ!!!」」」
子供たちがジャンプして、また中央に集まる。
円陣を組んで、わっしょいわっしょい、と飛び跳ねて、またソファに戻る。
「夜更かし楽しみなのですー!」
「ちょっぴり大人の気分だぁー……ね」
「「「そっれねー!」」」
「おめーら夜はねかせねーからなー!」
「「「ひゃああああああああああああ!!!」」」
子供たちがテンションマックスだった。
「らびなにしよー?」
「みなのしゅーでボードゲーム対決するべ」
「テレビ持ってってゲームとかもいいじゃなお!」「みー!」
わあわあ、と子供たちが旅行への思いをはせている。うん、喜んでくれて嬉しいな。
「はっ、しもーたみんな。話のとちゅーよ。お静かに」
「「「そーだった!」」」
「騒がしくしてソーリー、にぃ」
「「「そーりー!」」」
ぺこーっと頭を下げる子供たち。
「謝らなくていいさ。それだけ喜んでくれて、俺はとっても嬉しいよ。企画したかいがあった」
子供たちがにこーっと笑ってうなずく。
「やっぱおにーちゃんはひと味ちげーな!」
「にぃの企画、ぜんぶあたり企画。ヒットマンとよぼう」
「にーさんはいつも、らびたちをたのしーきもちにしてくれるから、大好きなのです!」
「「「それなっ!」」」
子供たちが笑いながら、俺を見上げて言う。
「ありがとう、そう言ってもらえると冥利に尽きるよ」
「「「えへへ~♪」」」
俺も嬉しくなるし、子供たちも嬉しそうに笑っている。
職員たちもほほえんでいた。ちなみに旅行のことは、すでに職員や鬼娘たちに告知し、打ち合わせ済みである。
さて。
「最後に今後の話をしておく。とりあえず2日くらいで旅行の準備してもらって、31日のお昼にここを出発。夕方に王都に到着してって感じだ」
「「「おー!」」」
「出発まで日がなくてすまん。忙しいかもだけど、2日で準備できるか?」
「「「おっけーおっけー!」」」
よし、子供たちの了承はとれた。
「それじゃあみんな、詳しい予定はしおりを配るから、それに目を通しておいてくれ」
職員たちが、子供たちに旅のしおりをくばる。
子供たちは目を輝かせながら、楽しそうに笑っていた。
「よし……じゃあみんな。年末年明けを、楽しもうな」
俺は孤児院のみんなを見回して言う。
それに対して、みんなが手を上げて、
「「「おーーーーーー!!!」」」
こうして俺たちは、年末、旅行へ出かけることになったのだった。
次回もよろしくお願いします!




