148.善人、きつね娘の小説の練習に付き合う【後編】
いつもお世話になってます!
ホールでラビたちと交流した後、俺は孤児院の中を掃除しながら、プレイルーム1へとやってきた。
この孤児院、冬の初め頃に改築し、中でも遊べるよう施設を作った。プレイルーム1は、室内で運動ができるような、簡易の体育館のような構造になっている。
「お、また誰かいるみたいだぞ」
「あ、やせいの子供と大人たちがあらわれた。ゆけ、みーのポケモン」
しゅっ、とコンが何かを投げるジェスチャーをする。
「俺はおまえのポケモンじゃない」
「逆?」
「それも違う。おまえはうちのかわいい子供」
「にぃ、やさしす。ちゅき」
それはさておき。
プレイルーム1は、床が体育館のように加工されている。
なかでは子供2名と、大人2名が、バトミントンに興じていた。
「ほう、ばみとんとん」
「バトミントンな」
ネットを挟んで、片側には子供たちが、逆サイドには大人たちがいる。
「いっくよーふたりとも! せやー!」
パァンッ……! といい音がする。打ったシャトルが、子供たちめがけて飛んでいく。
「キャニス!」
「まかせやがれ、おりゃー!」
犬娘が、高速でシャトルの前に移動。ラケットを構えて、振り下ろす。ぱんっ……! といい音がした。
「なんのっ! せや!」
「今度はれいあの番!」
打ち合いする四人を、コンが見なが描写する。
「【今シャトルを打ち返したのは、ドラゴンの化身レイアだ。年齢は5歳ほど。褐色の肌に灰色がかった銀髪をしている。特徴的なのは側頭部から生えた、ねじまがったドラゴンの角。そして尾てい骨から生える尻尾だ】」
レイアの打ったシャトルを、今度は赤髪の猫少女が打ち返す。
「【彼女はアム。猫獣人、ワーキャットの少女だ。年齢は15。燃えるような赤い髪の毛を短く乱雑にカットしている。ピンととがった三角の耳。おしりからはにょろりと伸びる猫尻尾。体には無駄な肉が一切ついておらず、しかし乳房と尻には女性らしいラインが見て取れる】」
コンが一息つく。その間にもシャトルが
いったりきたりと往復を繰り返していた。
「すごい饒舌じゃないか。本物顔負けの描写力? だな」
「でしょでしょ。才能ありまくり?」
「ああ、ありすぎて怖いよ。先生、デビューはいつですか?」
「気が早い。まずは運営を介して打診のメッセージを送ってください。まずはそこから」
最後ちょっと何の話をしているのか、よくわからなかった。同じ地球人とはいえ、育った環境が違うからな。必ずしもネタをすべて拾えるわけじゃない。
「にぃ、練習に戻る」
コンが俺の頭の上で、打ち合いをする彼女たちを見ていう。
「まちるだやるなっ、ぼくのウルトラショットくらいやがれです!」
「【今自分をぼくと言った犬耳少女は、名前をキャニスという。癖のある茶髪。頭の上からは、とがった犬耳と、お尻からはふわふわとした犬尻尾がついている。口元からのぞく八重歯と、この寒い中半ズボンで走り回るその姿からは、活発な少女の印象を与える】」
キャニスが打ったシャトルを、
「よぉし、じゃあわたしのウルトラショットでお返しだよ!」
元気よくそう言うと、彼女がラケットでシャトルを打ち返す。
ばるんっ、と彼女の大きな乳房が揺れた。
「【今胸を弾ませて、シャトルを打ち返した少女は、名前をマチルダという。年齢は18。背は150後半と平均的だが、その乳房の大きさは平均を大きく逸脱している】」
コンが一息つく。
「【その乳房は子供の頭くらい大きい。そして動いているというのに、その形は全くといって崩れない。激しく動くたび、ゴムまりのように上下左右に動くその乳房は、さながらおっぱいバレー】」
「コン。真面目に練習してるんだろ?」
「にぃ、わかってないね」
ふぅ、とため息をついて、ふるふると首を振るう。
「ライトノベルはね、軽妙な語りが売りのひとつなんだよ。真面目にお堅い文章が続いていると、読者があきちゃうんだ」
「そうなのか? コンは物知りだな」
「古今東西のエンタメを網羅する、エンターテイナーこんこんとはみーのことよ」
きらん、と目を輝かせて言う。そして練習を続けるようだ。
「【マチルダは色素の薄い髪の毛を、三つ編みにしている。長さは肩甲骨のあたりまで。髪質はふわふわとしており、全体的に綺麗というよりは、かわいいという印象を見るものに与えるのだった】……どう?」
「良いんじゃないか。さすがコン先生。すごい描写力だ」
「ふふ、みーの美技に酔いな」
そんなふうにコンが練習をしていると、シャトルが地面に打ち込まれる。
「ぼくたちの勝ちー!」
「あ-、負けちゃったぁ……」
どうやら子供チームが勝利したようだ。いぬっこがドラゴン娘とハイタッチしている。
大人チームはその場にへたり込み、子供たちに拍手する。
「やっぱりふたりとも強いな~……」
「相手が悪かったわよ。キャニスとレイア相手じゃね」
「「いえーい!」」
マチルダをアムがなぐさめる。
「まー、マチルダもアムねーちゃんも、まあまあやるです」
「そうよ。れいあたちの方が上手だっただけよ」
「「ねー!」」
笑い合う子供・大人たち。と、そのときである。
「あー! おにーちゃん!」
いぬっこキャニスが、俺たちに気づいた。ぱぁっと笑顔になると、獣人たちが俺の元へかけてくる。
「おにーーーちゃんっ!」
びょんっ、とキャニスが飛びつく。俺は正面から、彼女を抱き上げる。
「なーなーぼくの勇姿、みてくれたです?」
「ああ。強かったなぁ」
「れいあも強かったでしょ!」
いつの間にか背後に回っていたレイアが、俺の背中にしがみついて言う。
「ああ、ふたりともとっても強かった。さすがうちの孤児院の運動神経の良いツートップだ」
「「えへー!」」
うれしそうに笑う子供たち。
「じーーろさんっ♪」
マチルダが笑顔で、俺のとなりまでやってくる。俺の腕に、むぎゅっと、その大きくて張りのある乳房を押しつけてきた。
「お掃除おつかれさまですっ」
額に汗をかきながら、笑顔でマチルダが俺に抱きついてくる。つん、と甘酸っぱい汗のにおいが鼻孔をついた。
「あ、すみません、汗臭かったですよね」
「いやそんなことないよ。女の子って不思議だよなぁ、いつも良いにおいするよ」
「ジロさん……えへへ~♪ ジロさんもいつもセクシーなにおいがします。大人のにおい? とっても素敵です!」
「ありがとうな」
するとアムがおずおずとやってきて、俺のあいてる方の隣へ行く。
「ね、ねえジロ……」
「ん? どうしたアム」
アムは何かを言おうとして、口を開いたり、閉じたりする。
「あ、あたしは……」
「ん?」
「な、なんでもない!」
顔を真っ赤にして、アムが首を振るう。それを見たコンが、
「【アムはジロに気があるのだ。本当は素直にあたしも良い匂いがすると聞きたいけど、恥ずかしくていえなかった。素直になれないお年頃なのであった】」
「こ、コンあんたねー!」
アムがコンを抱き上げて、むににとほっぺたを伸ばす。
「アム。それくらいにな。コン、あまりアムを困らせないように」
「「はーい」」
☆
続いてやってきたのは、孤児院の裏にある竜の湯だ。
風呂掃除をしに、ここへ来たのである。
「むぅ、にぃ、不満あります」
服をきたままのコンが、温泉のふちに腰掛けて言う。
「どうした?」
俺はブラシを持って、露天風呂の床掃除をする。
「お風呂イベントなのに、肌色が少ない」
「いや、いま掃除中だから」
「こーゆーときは、風呂に先に女の子が入っていて、男の子がそこへ入って、きゃー、のびたさんのえっちー、みたいなのがお約束なのに」
「そりゃフィクションの中の話な。現実には先に風呂入っているところに、人は入ってこないよ」
と掃除をしていたそのときだ。
がらっ。
「え?」
「「「きゃ~~~~~♡」」」
脱衣所のドアが開き、そこにはうら若い五人の少女たちがいた。
「兄ちゃんじゃあないさね。やー、偶然だねぇい」
「ほんと、ちょーぐーぜーん♪」
「おまえら……」
にまにまと笑いながら、少女たちが俺の元へやってくる。その間にも、コンが描写を開始していた。
「【真っ先にやってきたのは、長身の鬼少女・一花。つやのある黒髪を束ね、切れ長の瞳は、まるで武士のような雰囲気を出している。巨乳】」
続いてコンが言う。
「【その後ろからやってきたのは、鬼少女・次女の弐鳥だ。小柄でめがぱっちりしている。笑うとえくぼができそれがチャーミングだ。ロリ巨乳】」
コンが言っている間に、俺は少女たちに囲まれる。
「いやあのなおまえら。掃除中の札を出してただろ。入ってきちゃだめじゃないか」
俺が注意すると、
「……ごめん、ジロ。ジロがいるってなったら、会いたくなったの。ごめんなさい」
ぺこっと素直に彼女が謝る。
「【頭を下げたのは三女の美雪。ショートカットの黒髪。唯一額から角が生えてないのが特徴的だ。体つきはすらりとしているのに胸が大きい、アイドルのような体型をしている】」
「わたしたちもいてもたってもいられなくって、ねえ風ちゃん♪」
「そうだぜ! な、おっちゃん、別に掃除の邪魔しねーから、風呂入ってもいいでしょー?」
コンが二人を見上げながら描写する。
「【四女の肆月。おっとりぽわぽわとしていおり、少しぽちゃっとしてるのが特徴的。巨乳。五女の風伍。小柄だが体育少女のように体が引き締まっており、褐色の肌をしている、巨乳】。って、巨乳ばっかりやんかーい」
コンが一人ツッコミを入れる。その間にも、鬼たちが俺にペタペタと触ってくる。
「なぁ兄ちゃん。風呂掃除なんてあとにして、アタシらとお外で楽しいことしないかい?」
「今なら若い子五人をたべほーだいだよ♪ あたしたちもおにーさん、食べちゃうけどねっ♪」
と、絡まれていたそのときだ。
「……あなたたちっ! なにをしているのっ!」
脱衣所の方から、また新しい女性の声がした。
「やっべ、お母ちゃんだ」
ばつの悪そうに、一花。鬼姉妹のもとへ、彼女がやってくる。
「【彼女たち鬼娘の母、桜華。その特徴と言えば、驚くほど大きな乳房だろう。なにせ成人男性の頭よりもさらに大きな乳房をしている。なんたる大きなおっぱい。ビックボインとは彼女のことか】」
「コン。それはさすがにちょっと失礼だよ」
「ちっちちっち、おっぱーい、ぼいんぼいーん。もげもげてーん」
コンが謎のポーズをする。たまにこの子のネタがわからなくなる……。
その間に、桜華が娘たちを叱る。
「……あなたたちはいつもいつも、じろーさんに迷惑をおかけしてっ」
「わーるいってお母ちゃん。けどあたしらまだ何もしてないぜ、なぁ兄ちゃん?」
「ああ、そうだよ。別に邪魔はされてないさ」
「……じろーさんは、甘いです」
むむむ、と桜華がうなる。
「……きちんと教育していただかないと。いずれ、この子たちの父親になるのですから」
ぽっ……とほお染めて、桜華が言う。
「みせるねぇい」「やけるぅ~♪」「いずれ私も」「わたしたちもご一緒に♪」「みんななかよくおっちゃんの女になろーぜ!」
「……あなたたち! 少しは反省なさい!」
「「「ふぁーい……」」」
そう言って、桜華は娘たちの首根っこをつかむと、そのまま風呂から出て行く。あとには俺とコンだけが残された。
「うん、にぃと一緒にいると、色んな人にエンカウントするね」
にこーっと笑うコン。
「練習になったか?」
「もち。めっちゃ。うぉおお、なんだか練習したら、小説めっちゃかきたくなったー」
コンが立ち上がると、両腕をむんっ、と曲げる。
「にぃ、これから狐塚先生は、執筆作業に張ります」
「ああ。……ん? きつねづか先生? 誰だそれ」
俺が言うと、コンが手に持っていたノートに、万年筆で何かを書く。
そしてノートを、俺に渡してきた。
「いったじゃん。みーのペンネーム」
【狐塚・K・治郎】
「きつねづか、k、じろう?」
「その【k】はコンって読むの。きつねづか、こんじろー。それがみーのペンネーム」
コンがどや顔で言う。
「由来知りたい?」
「ぜひとも」
コンはニコッと笑って、
「ひみちゅ」
ノートを閉じ、すててっと走って行く。
「ヒントはね、にぃの前世の名前。あぢゅー」
そう言って、コンは風呂場を後にした。たぶん、小説をかきに、自分の部屋へ戻ったのだろう。
「俺の前世の名前……あ、そうか」
俺の前世は、【上田治郎】という。なるほど、俺からとってくれたのか。光栄なことだ。
「しかし達者な描写力だ。これなら、近い将来、あの子は小説家になるだろうなぁ」
と思いながら、俺は風呂掃除を続けるのだった。
新連載やってます。下にリンクが貼ってますので、よろしければぜひ!
ではまた!




