143.善人、マチルダと街でデートする
いつもお世話になってます!
クリスマスの騒動が収まった、翌日。
俺はマチルダとともに、カミィーナの街を訪れていた。
夕方。
俺はマチルダを連れて、孤児院を出発。来るまで街までやってきて、馬車の駐車場に車を止める。
「ジロさん! 運転お疲れ様です!」
助手席を降りたマチルダが、ニコニコしながら、俺にいう。
今日の彼女は、普段よりもおめかししていた。ばっちり化粧をしており、服も見たことないような、おしゃれなものを来ている。
それにこの寒いというのに、ミニスカートだ。タイツをはかずに生足をさらしている。寒かろうに。
「寒くないのかその格好?」
「寒いです! とっても!」
「それじゃあなんでそんな薄着なんだ?」
「そんなの決まってるじゃないですか!」
マチルダが笑いながら、車から降りた俺の隣へとやってくる。
「ジロさんに喜んでもらいたいからですっ! ジロさんに少しでも、マチルダはキレイになったなー、とか、えっちだなーとか思って貰えたらと! 思って! 気合い入れてきました!」
ふんすっ、と鼻息荒く、マチルダが言う。
「どうでしょう? あなたのマチルダは、キレイですか? エッチですかっ?」
じっ……とマチルダが俺を見上げる。目をキラキラとさせながら尋ねる。
俺は苦笑しながら答える。
「とってもキレイだよ。エッチかどうかは……まあうん、魅力的だ」
「やった♪ えへへ~♪ やったぁ……♪」
子供のように、マチルダが無邪気に笑う。
「マチルダ。その質問、もう孤児院を出て10回以上されてるんだけど」
「すみません! でも、だって、ジロさんに何度も聞きたくなるじゃないですかっ。気になるじゃないですかっ」
夏の日の太陽のように、明るい笑みを浮かべるマチルダ。
そのままぎゅーっと、俺の腕に抱きついてくる。厚着をしていても、乳房の張りと弾力が伝わってくる。
「えへへっ、ジロさんとのデート、とっても楽しみです!」
そう、俺は恋人であるこの少女と、カミィーナにクリスマスのデートへとやってきている。
ことの始まりは、先週。みんなと決めたのだ。
クリスマスイブは、子供たちのクリスマス会をする。それが終わったら、順々に、恋人や嫁たちとクリスマスデートをするのだ……と。
今日はマチルダ。明日は別の子……というふうに、デートしていくのである。
さておき。
俺はマチルダとともに、カミィーナの街を歩く。夕方に孤児院を出て、今は17時くらい。
もう火が落ちかけている。街灯のあかりがポワ……と輝き、地面に積もる雪がその光を反射していた。
「ふふっ、えっへ~♪ ふふ~♪」
マチルダが上機嫌に、俺の腕をぎゅーとハグしていくる。
「機嫌良いな」
「はいっ! だって大好きなジロさんと、1番目に、クリスマスデートできるからっ!」
目を閉じて、大きく口を開けて笑う。そんなふうに喜んでもらえて、俺は嬉しかった。
「ありがとう。俺もこんなキレイでかわいい女の子とデートできて嬉しいよ」
「!」
マチルダが目を品剥いて、その場にしゃがみ込む。
「ど、どうした?」
「ジロさん……わたしもう、もう! 嬉しすぎて……失神しそうでした!」
晴れやかな笑みを浮かべるマチルダ。
「もう! ジロさんってば! わたしを幸せでいっぱいにして!」
がばっ、とマチルダが、俺に正面から抱きついてくる。俺はそれを受け止める。
マチルダは力いっぱい、むぎゅーっと俺に抱きついてきた。
どうしてコートを着てるのに、こんなにも柔らかさが伝わってくるのだろうか。
「えへっ♪」
「マチルダ。町中だぞ」
道行く人たちが、俺たちを見ている。こんなおっさんと若い子が抱き合っていたら、そりゃ目立つか。
「見せつけちゃいましょう! わたしたちがラブラブだってことを! むしろわたしは見て欲しいです!」
「マチルダ。俺に好意を向けてくれるのは嬉しいよ。けどここは公共の場だからな」
「はーい。えへへっ♪ ジロさんに注意してもらえましたっ。うれしいっ」
この子、俺が何をしても喜んでくれるな。嬉しい限りだ。
俺はマチルダとともに移動する。手を繋ごうとしたのだが、彼女はむぎゅっと腕に抱きついてくる。そのほうがいいのだと。
「そう言えばカミィーナで良かったのか? 王都とか、ザッフィールとか、ちょっと遠いけどダライ・ガスとか。デートスポットはいくつもあるだろ?」
ザッフィールは北部にある行楽地だ。ダライ・ガスも北端にある景観の美しい街であり、若者の間でデートに人気の場所である。
「はいっ! 今日はちょっと、いきたいところあったので」
「いきたいとか? どこだ?」
俺が言うと、マチルダが答える。
「実家です!」
☆
やってきたのは、カミィーナにある食堂だ。
大衆食堂とでもいうのか。民家を改造した、規模の小さな食堂である。……懐かしい場所だった。
「お母さん! ただいまー!」
ガラッ……! とマチルダが、勢いよくドアをスライドさせる。
夕飯時だからだろう、人がそこそこいる……かと思ったのだが。
中には誰もいなかった。厨房には、小柄な女性がひとり、立っていた。
「ん? おやマチルダ! それにジロちゃんも! 久しぶりじゃあない!」
ぱたぱたと足音をさせながら、その人はこちらに向かってやってくる。
小柄だ。140か、130後半くらいだろう。
髪の色はマチルダと同じで、色素が薄い。それを後で縛って、頭巾を被っている。
にこやかに笑うその口元には、シワが一切ない。ぴちぴちとした肌に、そして上着がぱっつんぱっつんになるほど、大きな乳房。
童顔に巨乳という、魅力溢れる見た目のこの人こそが、マチルダの母親だ。
「お久しぶりです。ニキータさん」
「よしておくれよジロちゃん! よそよそしい。気軽にお義母さんって呼んでおくれ」
にかーっと笑って、ニキータがバシバシと、俺の背中を叩いてくる。
「お母さん、ジロさんとはまだ付き合ってるだけだって~」
「おやそうだったの? でもラブラブで結婚秒読みだってこの間あんた、言ってなかったかい?」
「そこまで言ってないじゃん!」
「そうだっかい? そりゃあごめんよ。あ、でもジロちゃんならいつでもうちの子もらっていいからね!」
からっとした笑みを浮かべて、ニキータが言う。
「ありがとうニキータさん」
「だから【さん】はいらないってばジロちゃん! だってアタシの方が年下なんだからね!」
そう、驚くことにこのひと、34である。
マチルダを産んだのが、16歳のときだそうだ。まあこの国、15で大人あつかいされ、結婚できるようになる。
それで翌年に産んだとして、マチルダが18なので、ニキータは34で間違えではない。
しかし34で子持ち。しかもこんな若々しくて胸も大きい。しかも旦那、つまりマチルダの父は他界してるので未亡人だ。
言い寄るひとも多かろう。
「ほらジロちゃん、言ってごらんよ。お義母さんって」
「ニキータさん。からかわないでくれって」
「そうだよお母さん! もう、わたしのジロさんを困らせないで!」
マチルダがぷくっ、と頬を膨らませる。
「おやこの子ってば! お熱いねぇ、見せつけてくれるじゃないかっ!」
バシバシバシ! とニキータが俺の背中を叩く。
「そうだよお母さん! わたしとジロさんってば、もう熱々のラブラブなんだから!」
ねーっとマチルダが笑いかける。パワフルな親子だなと俺は思った。
さておき。
俺たちは食堂の一角に通された。どうやら今日、食堂は定休日らしい。
「はいお待ち! うち特製のチャーハンだよ!」
そう言ってニキータが、大皿に入ったチャーハンを置いてくる。
「ありがとうニキータ。それにすまんな、休みの日なのに押しかけて」
「んーん。気にする必要ないよジロちゃん。うちの子が彼氏連れて帰ってくるっていうから、むしろ喜々として、アタシ料理を作っちゃうね!」
そう言ってニキータが、ばんばんばん! と大盛りのおかずを置いていく。どれも美味そうだ。
「けどニキータが元気そうで何よりだよ」
彼女は一時期、病床に伏せていたのだ。奇病にかかってしまい、しばらく食堂を休んでいた。
「このとおりぴんぴんしてるよ! ほんと、あのときジロちゃんが、お薬の原料とってきてくれたおかげさ。本当に感謝しているよ」
マチルダの母親をなおすには、必要となるアイテムがあった。だがそれは、強敵を倒さないと手に入らないモンスターだった。
俺がそいつを倒して、原料を入手。薬を飲んで、ニキータはまた元気になった次第だ。
「ジロちゃんみたいな優しくていい子が、うちの子の男になってくれて、ほんと、あたしは嬉しいよ」
ニキータが俺たちの前で淡く微笑む。
「ところでジロちゃん! マチルダのことはもう抱いたのかい?」
ニコッと笑って、ばしばしと背中を叩いてくる。
「お、お母さんデリカシー!」
マチルダが顔を真っ赤にして言う。
「なーに言ってるんだよマチルダ。ここにはアタシとジロちゃんとお前しかいない。つまり身内しかいない。なら娘たちの性事情を聞いてもいいじゃないか」
「そういうの! デリカシーないっていうの! もう引っ込んでて!」
マチルダは立ち上がると、ニキータの背中をぐいぐいと押す。
「まあまあ良いじゃあないのよマチルダ。アタシもジロちゃんと話させてよ」
ニキータがするりとマチルダをかわす。そこにあったイスを持って、俺たちの隣に座った。
「それで? いつ頃子供は生まれる予定だい?」
「だから! もうっ! まだだって!」
「この子あたしに似ておっぱい大きいでしょ? お尻もおっきいし、何人だって産めるよ。たくさん孕ませてやりな」
「も~~~! お母さんのばかぁ~~~~~~!」
☆
その後ニキータの元で食事をした後、俺たちは今日泊まる予定の、宿へと向かった。
そこそこ大きめの宿だ。ここで一泊して、明日の朝、孤児院へと戻る予定である。
部屋は1つだけとった。夫婦やカップル用の、ダブルの部屋をだ。
「もうっ! お母さんってばほんっとぉにデリカシーないんだから!」
ベッドに腰掛けて、ぷんぷんとマチルダが頬を膨らませて言う。
「ごめんなさい、ジロさん。お母さんが迷惑かけて」
「いや、迷惑じゃないさ。楽しかったよ。それに久しぶりにニキータさんの顔が見れて良かった」
俺はマチルダの隣に腰掛ける。
「あの……ジロさん。おねだりしても良いですか?」
「ん? いいぞ」
「じゃあえっと……膝枕してださい!」
俺はうなずく。ベッドのフチに俺たちは腰掛けている。俺の太ももの上に、
「失礼します!」
と言って、マチルダが頭を乗せる。
「えへへっ♪ ジロさんの太もも、かたくってたくましいです」
すりすり、と彼女がほおずりする。
「ジロさんは引退しても筋肉もりもりですね。素敵です!」
「ありがとう。まあ、現役のときよりは筋肉落ちてるけどな」
マチルダのふわふわとした髪の毛を撫でる。
ややあって、彼女が言う。
「あのジロさん。ワガママ言ってすみませんでした」
「え、ワガママなんて言ったか?」
「カミィーナに来たいって。お母さんに、ジロさんを恋人です! って紹介したかったんです」
「ああ、なるほど……」
だからカミィーナだったのか。
「気にする必要ないよ。というか、ごめんな。そうだよな、普通、恋人になったら親のところにあいさつ必要だったな」
「いえそんな! 普通はしないと思います。結婚する前は、さすがにだと思いますけど」
「結婚か……。マチルダ」
「はい?」
俺はポケットの中を漁る。ちょっと順番が前後しちゃったが、それでも、この機に渡そうと思っていた物がある。
「おまえにクリスマスのプレゼント渡したくてな」
「プレゼント! なんでしょうっ」
ぴょんっ、と彼女が飛び上がって、居住まいを正す。
俺はポケットから、小さめの箱を取り出す。
「! ま、ままま、まさか指輪ですかっ!?」
「惜しい。期待させてすまないが、別の物だよ。開けてごらん」
ぱかっ、とマチルダが箱を開ける。そこに入っていたのは、ネックレスだ。
「うわぁ……! きれいなネックレス!」
彼女の素朴な美しさに会うように、あまりギラギラとした装飾のないシンプルなネックレスだ。
「指輪はもう少し待ってくれ」
「はい! 待ちます! いくらでも待ちます!」
えへへ、とマチルダが嬉しそうに笑う。
「ジロさん。つけて貰えますかっ?」
「ああ、良いよ。おいで」
マチルダがくるっと後ろを向く。髪を駆け分けて、白いうなじをさらす。
俺は彼女の首にネックレスをつける。
付け終わると、マチルダは目に涙を浮かべて、笑った。
「ありがとうジロさん……わたし、これ一生の宝物にしますね!」
マチルダが喜んでくれて、良かった良かった。
その後俺たちは、ベッドに入り、朝まで一緒に汗を流したのだった。
次回もよろしくお願いします!




