表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】善人のおっさん、冒険者を引退して孤児院の先生になる 〜 エルフの嫁と獣人幼女たちと楽しく暮らしてます  作者: 茨木野


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

151/189

138.善人、子供たちの枕元にプレゼントを置きに行く【後編】

いつもお世話になってます!



 子供たちの部屋へ行き、クリスマスプレゼントを置きに行った俺。


 寝ている子供たちに順調にプレゼントを置いていった。残りはコンだけ、というところになって、コンに見つかる。


 話はその数秒後。


「サンタさんっ! サンタさんっ! いらっしゃい!」


 パジャマを着たキツネ娘が、俺の腰に抱きついて、ぴょんぴょん飛び跳ねる。


「ほんものだっ! ほんもののサンタクロースだっ!」


 コンの、普段とのテンションの差に、俺は驚く。普段はもうちょっとオマセな感じがあるのだが。今は年相応の、無邪気さを発揮していた。


 サンタクロースを信じてくれたことに対して、嬉しく思う。純粋さを持ってくれていたことが喜ばしい。


 そしてホッと安堵する。良かった、サンタの格好をしておいて……。


 最後に……俺はしゃがみ込んで、コンの前で「しーっ」と口の前で指を立てる。


 コンが「しまった」と言って、口を閉じる。


「夜だから……じゃからな。大声だして、みんなを起こしちゃいけないよ」

「…………」こくこく。


 コンがうなずいたのを確認した後、俺は、言う。


「それにしてもお嬢さん。俺……私をきみはサンタだと言ったね」

「……うんっ」


 声のボリュームを下げて、コンが大きくうなずく。


「けどお嬢さん。そんなに簡単に、見ず知らずの人間に近づいちゃいけないよ」


 俺をサンタと信じてくれたのは嬉しい限りだが、しかしそこはきちんと注意しておかないといけない。


「もし泥棒だったらどうするんだい?」

「それは……そうだね。ごめんなさい」

 

 ぺこっ、とコンが頭を下げる。ちょっと申し訳なかった。


「けどねっ!」


 バッ……! とコンが顔を上げる。きらきらと目が輝いていた。


「みーはわかってたよ。サンタさんは、サンタサンだって。だってね」


 にこっと笑ってコンが言う。


「まず窓から入ってきた。ここは二階だよ? ふしぎなちからで入ってきたに違いない」


 コンが指を2本立てる。


「2つめ。あなたがサンタさんの格好をしたおじいちゃん。泥棒さんにしては、目立ちすぎる格好だよね」


「そうだな。その通りだ」


 この子はやはり聡い。


 そして……とコン。


「3つめ。これが一番の理由」


 コンが子供たちの眠っているベッドを見やる。枕元の、プレゼントを指さして、


「子供たちに、プレゼントを置いていた。そんなひとが、泥棒のわけないよ」 


 ……ああほんと、賢い子供だな、この子は。俺はしゃがみ込んで、彼女の頭を撫でる。


「いかにも、私がサンタクロースだ……じゃ。きみを試すようなマネして、ごめんな」


 するとコンが笑顔で、ふるふると首を振る。


「ううん、良いよ。だってサンタさんの言ってたことももっともだもん。知らないおじちゃんについて行っちゃダメなのは、そのとおりだよね」


「ああ。君は言わなくてもわかるだろうけど、今後は知らない人がいたら、よく見て、危ない人だと思ったら、大人の人のところへ行きなさい」


 俺の言葉に、コンは真剣に耳を傾けていた。ややあって、


「うん!」


 と大きくうなずく。俺は彼女の頭を撫でると、キツネ耳・しっぽが、ぶるんぶるんと元気よく動く。


 さて。


 サンタである俺と、起きていたコン。あまり長いことしゃべっていると、ぼろが出てしまうかも知れない。


 だから俺は彼女にプレゼントを渡して、すぐに出て行こうとした……そのときだ。


「サンタさん。みーね、サンタさんに渡したいもの、あるの!」


 コンが笑いながら、俺を見上げてくる。


「渡したいもの?」

「うん! ちょっと待ってて!」


 そう言って、コンがその場から離れる。子供部屋には、学習机が人数分、置いてある。


 コンは自分の机に置いてあった、【それ】を手にとって、俺の元へ帰ってきた。


「はい! お疲れかと思って……パンケーキ作っておいたの!」


 皿の上には、手作りと思わしきパンケーキが載っていた。


「君の手作りなのか?」

「うんっ!」

「そっか……ありがとう。いただこうかな」


 せっかくコンが作ってくれたのだ。まさか食べないわけがなかった。本当に嬉しかった。子供たちがこうして、俺のためにパンケーキを作ってくれたことが。


 ……まあ、俺に、というか、サンタクロースにであるんだけど。すまん。


 俺はコンのベッドに腰かける。彼女は俺の隣にちょこん、とお行儀良く正座する。


 俺の挙動を、じぃっと見ている。ふぁっさふぁっさ、とキツネ尻尾が動いていた。たぶん感想を聞きたがっているのだろう。


 俺はパンケーキを、お皿の上に乗っていたナイフとフォークを使って食べる。


 ……寒い部屋に長く置いてあったからだろう。パンケーキはすっかり冷えていた。


 それでも……美味かった。


「どうですかっ?」

「抜群に美味い。きみは料理が上手だなぁ」


 俺はそう言って、彼女の頭をよしよしと撫でた。


「~~~~~~♪」


 コンは両手を挙げて、しっぽをぶるんぶるん! と嬉しそうに回す。


「こんなに美味しいものを作ってくれてありがとうね。お礼じゃないけど、ほら」


 俺は腰につけたマジック袋から、小さな箱を取り出す。プレゼント用に包装したそれを、キツネ娘に差し出す。


「!」


 コンは俺の前に移動して、両手でプレゼントを受け取る。


「これは……みーのですかっ?」

「ああ。きみへのプレゼントだ。万年筆が欲しかったんだよね」

「うん! うん! わーい!」


 えへへ、と無邪気に笑うコン。


「サンタさん、ありがとー!」

「うんうん。どういたしまして」


 ぎゅーっ、とコンが胸にプレゼントを抱く。そして……。


「ぐす……くすん……」


 ぽろぽろ、とコンが涙を流すではないか。俺は慌てて、


「ど、どうしたんだコ……お譲さん……?」


 俺はポケットからハンカチを取り出して、彼女の目元をぬぐう。


「ごめんね……。あのね……うれしくって……」


 涙をちょんちょん、とハンカチでぬぐう。

「……みーね、本当はね……この世界の人間じゃ……ないの」


 ぽつり、とコンがつぶやく。そう、この子は転生者。つまり俺と一緒で、地球からこの異世界へと転生してきた存在だ。


「向こうの世界ではね……奇跡も、魔法も、サンタクロースもいない……世界だったの」


 俺はコンを、よいしょと抱っこする。ぽんぽん……と背中を撫でた。


「みーね、小さいときから、体が弱かったの。心臓が弱くってね。ずぅっと、入院してたの……」

「…………そうなのか」


 こくり、とうなずく。


「毎晩ね、寝る前にお祈りするの。神様、元気な体をください。病気を治してくださいって……。祈ったの」


 けど……とコン。


「奇跡は……起きなかったの。病気は治らなかった。辛くて……苦しくて……それで……死んじゃった」

「…………」


 コンは、そうだったのか。心臓の病気で、入院が長かったのか。


 治してくれと神に祈っても、奇跡は起きなかった。だから、奇跡を、信じれなかったのか……。


「でもね、……けどね、ここにこれた。この異世界に、これてね、嬉しかった。魔法があるんだって。奇跡もあるんだって」


 そう、ここは魔法のある異世界だ。奇跡だってあるんだ。


「奇跡も、サンタさんも、いるんだって。嬉しくなって……ああ、ここに来て、本当に良かったって……思ってるの」


「そうか……。コンは、この世界好きなんだな」


 俺の問いかけに、コンが力強くうなずく。

「魔法もあった。奇跡もあった。サンタさんもいて、たくさんの友達がいて、温かい食事と、満ちたりた毎日があって……だから、だからね、すっごくすっごく、ここが好き! この世界と、この孤児院のこと……とっても大好き!」


 俺は……俺は、心から嬉しかった。そんなふうに、子供から言われて。嬉しく思わない人間は、いないだろう。


「あ、でもね。このこと、みんなには内緒ね」 


 しーっ、とコンが指を立てる。


「みーはね、謎おおい、ミステリアスで、クールな大人の女なの。さっきのセリフは、ちょっとほら、子供っぽいかなって」


「そうかな?」


「そうだよ。だからさっきのは、みーとサンタさんとの、ふたりだけの秘密だからね」


 しーっ、とコンが再び言う。


「ああ、わかった。きみと私との秘密だ」


 ふふ……と俺とコンは笑い合う。


「それじゃお嬢さん。私はそろそろ行くよ」

「あ、そうだよね。他の子供たちにプレゼント配らなきゃだもんね」


 コンは名残惜しそうにしながらも、しかし直に、言うことを聞いてくれる。


 俺はコンを下ろす。


「それじゃあ、早く眠るんだよ」


 俺は窓際に移動。


 窓を開けて、足をかけて、桟によいしょと乗る。


「うん! トナカイさんにもよろしくね!」


 ……コンの言葉に。


 ……俺は、しまったと思った。


 トナカイ。そうだ。サンタはトナカイに乗ってきているじゃないか。


「サンタさん、どうしたの? はやく空飛ぶトナカイに乗って、ほかの子供たちのとこへ行かないと」


 ……冷や汗が出る。しまった。そうだ。そうだった。サンタは空飛ぶトナカイに乗って、そりを引きながら働く。


 俺はここへ来るとき、【飛行フライ】の魔法を使ってきた。当然、トナカイなんて使ってない。


「サンタさん……?」


 コンが俺をじっと見てくる。やばい。ここでトナカイはいないと言うのはたやすい。しかしそうすると、コンのイメージを、夢を壊すことになる。


 どうするか……と思った、そのときだった。


 ……ボスッ。


 と、俺の頭に、後から。何か冷たい物がぶつかった。


 なんだ……と思って振り返る。そこには、美雪がいた。


 口をパクパク動かして、隣を指さす。


 美雪の隣には【それ】があった。


「…………」


 なぜ、あったのかわからない。だが俺は彼女が救援を出してくれているのだと、すぐに察した。


 俺は魔法を発動する。【それ】が宙に浮いて、俺の側までやってくる。


 そして……。


「空飛ぶトナカイさんだぁああああ!!」


 コンが叫ぶ。


 そう、俺の背後、窓の向こうには、空に浮かぶ、トナカイ。


 そしてトナカイの後ソリがあった。


 ほっ……と俺は安堵する。


「ああ。それじゃあ私は、仕事にもどるよ」


 俺は窓に足をかけて、ジャンプする。ソリの上にのっかかった。ぐらつくが、魔法をかけているので、すぐに安定する。


 コンが窓から、にゅっ、と顔を出す。サンタと、空飛ぶトナカイを見て、目を月のように輝かせる。


「いたんだ! 本当に! 空飛ぶトナカイも! サンタクロースも! 奇跡は全部あるんだねっ!」


 俺は微笑んで、大きくうなずいた。


「また会おう! それまで良い子にしてるんだよ」

「うん! みー、良い子にしてる! ずっとずっと! 死ぬまで良い子でいる! だから!」


 コンは目に涙をためながら、大きな声で、言った。


「またねぇええええ、サンタさぁああああああああん!」


 俺は魔法でソリを動かす。ソリと、トナカイを魔法で動かした。空に浮かびながら、俺はその場を後にしたのだった。



    ☆



 その後、俺は上空から、美雪の姿を探した。


 彼女はすぐに見つかった。


 俺は魔法を調整して、彼女の隣へと降り立つ。


「……お疲れ」


 つくなり、彼女が俺にそう言ってきた。


「ああ。美雪も寒い中ありがとうな」

「……なにが?」


 俺はソリから降りる。


 トナカイと、ソリを見て、俺は美雪に言う。


「これ、おまえが用意してくれたんだろ?」


 帰り際。俺はトナカイの用意をしてないことに焦った。


 頭にぶつかったのは雪玉だった。下で美雪が待機していて、雪玉を俺にぶつけてきたのだ。


 そして彼女の隣には、本物そっくりのトナカイ、そしてソリがあったのだ。


「…………」


 美雪は、ぱちん、と指を鳴らす。


 するとソリと、トナカイが……溶けた。それは水になって溶けていく。


 やがて水たまりができた。


「すごいな。氷でできてたのか」

「……そう。氷の【模型デコイ】」


「おまえの鬼術きじゅで作ったのか?」

「……そう。私は氷を自由自在に操れる。見た目も、色も、思いのまま」

「はぁー……すげえ能力だな」


 美雪が作ってくれた、本物そっくりのトナカイの模型デコイ


「……飛んでたのは、どうやったの?」

「ん。ああ、【空中浮揚レビテーション】って魔法があるんだ。ものを浮かす魔法を使ってさ」


 そうやって、俺はあの場を退散したわけだ。


「…………あっそ」


 美雪はそう言って、俺の元から離れようとする。孤児院へ向けて歩いて行く。


「美雪」

「……なに?」


 俺は彼女の隣へ移動する。そして頭を下げる。


「ありがとう。おまえのおかげで助かった。あの子の夢を壊さずにすんだ。本当に……本当にありがとう」


 俺が言うと、美雪は「別に……」と言って押し黙る。


 俺は顔を上げる。彼女は目をそらす。


「ああ、うん。わかってるよ。別に俺のためにやったんじゃないんだよな。コンのためにやってくれて、ありがとう」


 俺がお礼を言った、そのときだ。


「……違う」


 と、美雪が言ったのだ。


「違う?」

「……うん、違うわ」


 美雪は、じっと俺を見やる。目を見て、ふっ……と口元をほころばす。



「……あなたのために、やったのよ」



 ……意外すぎる言葉に、俺は目を剥いてしまう。俺のため……?


「……じ、じろじろみんな!」


 顔を赤らめて、美雪が顔をそらす。


「あ、ああ……ごめん」

「……先に帰るから! ついてこないでよね!」


 肩を怒らせながら、美雪が孤児院に向けて歩いて行く。


「美雪。その……本当にありがとな。あの子も喜んでるよ」

「………………」


「えっと、俺も嬉しかったぞ」

「…………………………ばか」


 それだけ言って、美雪はずんずんと進んでいった。あとには俺だけが残される。


 見上げると、そこには良く晴れた冬の夜空が広がっていた。


 ふぅ……っと大きくと息をつく。真っ白な息が上がる。やがて空に溶けて、着ていったのだった。

書籍版、絶賛発売中です!頑張って書いたので買っていただけると嬉しいです!


次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ