137.善人、子供たちにケーキを食べさせる
いつもお世話になってます!
俺と桜華たちが、夕食の皿洗いと、【それ】の準備をしている間。
子供たちは美雪を含めて、ゲーム大会をしていたようだ。
その30分後。
1階ホールにもどると、子供たちが全員、正座していた。
「! おにーちゃんが来たぞっ!」
「みなのしゅー。待機ー!」
立ち上がり、子供たちが俺の前にやってくる。正座して、俺を見上げる。
「わくわく」
「そわそわ」
「はぅ……」
獣人たちが、ぱたぱたぱた、と耳を動かす。
「まだなー……ぁ?」「まだかなっ?」
「れいあもう待ちきれないんだけど!」
ドラゴン娘、そして鬼姉妹も、目をキランキランと輝かせる。口からは涎が垂れていた。
「どうしたみんな?」
「あーん。にぃのいけず~」
「ホントはわかってるくせに! じらすんじゃあねーです!」
なるほど。みんなもう食べたいんだな。
「よしわかった。じゃあコレット」
「合点承知よジロくん」
俺はエルフ嫁とともに、食堂へと戻る。大皿に載っているそれを、俺が持つ。コレットたちは飲み物を手に取る。
「さぁみんな! お待ちかねのケーキさんのご入場よ~」
コレットがそう言うと、
「「「きゃ~~~~~~~~~~~~~♪」」」
と子供たちが嬉しい悲鳴を上げる。
「さぁジロ先生後輩。子供たちが見えるように、テーブルにケーキを置くのだよ!」
なんだその呼び方……と思いつつ、俺はうなずく。テーブルの上に、手に持っていた大皿を置いた。
「いちごショートか!」「あだるてーにチョコムース!」「モンブランかなぁ?」
子供たちがいっせいに、よいしょとこたつテーブルに手をつく。そこにあるものを見て、目を輝かせる。
「「「イチゴのショートケーキきたぁあああああああああ!!!!」」」
子供たちの歓声が上がる。
みんなテーブルから降りて、その場で円陣を組む。
「いっちご!」「いっちごーくろさき」「イチゴのショート♪」
わっせわっせ、と円陣を組んだ状態で、子供たちがぴょんぴょん飛び跳ねる。
「みんなイチゴショートケーキすきかな~?」
コレットが尋ねると、
「「「ちょー!」」」
子供たちは、笑顔で答えた。
「れいあイチゴショートちょーすきー!」
「姉貴! イチゴだってよイチゴ!」
「よかったね-……ぇい。アカネちゃんイチゴ大好物だもんねー……ぇい」
子供たちはケーキを気に入ってくれたようだ。
「おにーちゃん! 早く! 早くケーキを!」
「よしよしみんな。ちょっと待ってな」
俺はナイフを持って、ケーキを等分していく。円形ではなく四角い形をしているので、分けるのが簡単だ。
1個目のケーキをお皿に乗せて、子供たちの前に出す。
「「「……!!」」」
子供たちの目が、お皿に釘付けになる。いっせいに立ち上がり、皿に殺到しかけるが。
「いや! おめーら待て!」
キャニスが手を上げて止める。
「へいキャニス。みーたちは破裂寸前の風船。とめるとは何ごと?」
「全員分が行き渡るまで……おめーら待機しろや! です!」
しかしその言葉に、子供たちは不満を覚えているようだ。みんな早く、ケーキを自分の手元に置きたいらしい。
「はっ。せや。いかんぞみなのしゅー」
コンが何かに気付いた顔になる
「ここで欲張っちゃうよくない。サンタさんが見てるから!」
そう言って、コンが窓ガラスをビシッ! と指さす。
「「「せや!」」」
とうなずく子供たち。
「良い子してないとサンタさんがこないのです!」
「まあれいあは良い子だけど、ここでへたうってプレゼントこないのは許せないわ!」
「ここはおとなしく我慢しようねー……ぇい」
「で、でもぉ……姉貴ぃ~。ケーキが~……」
と。子供たちがううーん、とうなっているときだ。
「よーし、できたぞー」
「「「え!?」」」
子供たちがわちゃわちゃとしている間に、俺はケーキを、人数分切り分けていたのだ。
「おにーちゃんパネエです!」
「あっとゆーまにケーキを切り分けると。さすジロ!」
「「「さすジロー!」」」
子供たちが笑顔で、両手を挙げながら言う。
「さすジロって……なんだそれ?」
「ふふふのふ。さすがジロくんの略よ」
「「「さすがジロくん!」」」
「まみーがよく言ってるからね。おぼえたった」
「あら、私そんなに言ってたかしら?」
「「「言ってるぅ~!」」」
そんな一幕もあったが、特に波乱無く、子供たちにケーキを分配し終えた。
「! おい! サンタさんが残ってるぞ!」
びしっ! と大本のケーキの上を指さす。そこには砂糖菓子でできた、サンタの人形が残っていた。
「おにーちゃん! それよこせや、です!」
「これか? 食えるけど、美味くないぞ?」
「うめーそうじゃねーの話じゃねーです! おいおめーら! やるぞ!」
キャニスの号令に、子供たちがスク……っと立ち上がる。
「絶対に負けられない戦いがここにある」
「らび……負けない!」
「れいあが負けるわけ無いでしょ。あんたたち辞退しなさいよ」
子供たちが指をポキポキならしたり、腕を組んでひねり、それを額の前に持って行って念じたりする。
「おめーらじゃんけん勝負な。勝ったヤツがサンタのお人形ゲットだ! 異議はねーか?」
「「「ねー!」」」
どうやらじゃんけんして、これを誰がとるか決めるようだ。
俺はその間に、飲み物の用意をする。シャンパン(子供用)をぽしゅっ、と開けてておく。
「いくぞ~~~~! じゃあん、けえん、」
「「「ぽーん!!!」」」
果たしてじゃんけんの勝利者はというと……。
「おいらー……ぁ」
「「「あやねだー!」」」
どうやら姉鬼、あやねがじゃんけんに勝利したようだ。
「あやねで良いのか?」
「「「いいともー!」」」
子供たちの総意は固まったようだ。俺はあやねに、サンタの人形を手渡す。
「…………」
「にひー……ぃ。アカネちゃー……ん。ものほしそぉだー……ぁね」
ちょこちょこ、と姉鬼が、アカネの元へ行く。
「べ、別にアタシは別に……」
「んふー……ぅ。はいこれー……ぇ」
あやねはそう言うと、サンタの人形を、アカネのケーキの上に、ちょこんと乗せる。
「あげるよー……ぅ」
「! で、でも……姉貴……。でもこれは……姉貴のだよ……悪いよ……」
姉からのプレゼントに喜ぶアカネだったが、すぐさま表情を曇らせる。姉の分がなくなるからと、妹は心配してるようだ。
「いいんだよー……ぅ。おいらはねー……ぇ。アカネちゃんが笑ってるのが、一番好きなんだー……ぁ」
だからもらって、と笑いかけるあやね。
「……いいの?」
「いいさー……ぁ」
「…………。ありがとー!」
にこーっと最高の笑顔を浮かべる妹鬼。その姿を子供たちがニコニコしながら見ている。
俺もコレットも、温かな気持ちに包まれた。
「それじゃあみんな。ケーキ食べようか」
「「「たーーーべるーーーー!」」」
わ……! と子供たちが嬉しそうに言う。俺たち職員は、手分けして子供たちにフォークを配ったり、お手ふきで手をぬぐったりする。
飲み物を配り終えて、
「それじゃみなのしゅー。お手を拝借」
バッ……! と子供たちが両手を挙げる。
「よぉおおお、ぽんっ!」
パンッ……! と子供たちが手を合わせる。
「コン。それ締めのあいさつ」と俺。
「せやった。うっかり」
手を合わせて、今度こそ、
「「「いただきまーす!!!」」」
子供たちの歓声が響く。わっ……! といっせいに、子供たちがケーキにかぶりつく。
「はぐっ! はぐっ! はぐはぐはぐ!」
「むしゃむしゃむしゃむしゃ!」
子供たちが一心不乱に、ケーキにかぶりつく。俺たちはおしぼりで、子供たちの口周りのクリームをぬぐった。
「どうだ?」
「むっしゃむしゃむしゃむしゃ!」
「もーぐもぐもぐもぐもぐ!」
「もう。みんな、夢中で食べ過ぎよ」
「それだけケーキが美味いんだろう」
ふふ、と笑い合う俺たち。
獣人たちのしっぽは、ちぎれんばかりに回っている。姉鬼は、普段は妹の世話を積極的に見るのだが、このときばかりは食べることに集中していた。
レイアはお皿のクリームまで、ぺろぺろとなめて、残さずキレイに食べる。
「レイア。おかわりいるか?」
「あったりまえじゃない!」
俺はケーキを切って取り分ける。
「あっずっりー! おにーちゃん!」
「そう言うと思ってたわ。はいキャニス」
「おー! おねーちゃんナイスぷれー!」
キャニスたちを皮切りに、子供たちがどんどんと、ケーキをおかわりしていく。大きめに作ってもらっておいて良かった。
その後子供たちが、飲むようにケーキを食べてはおかわりを求めてくる。職員たちは総出で、子供たちの対応に追われた。
「くすん……ふぇええ…………」
ケーキを食べていたそのときだ。ラビがいきなり、泣き出したのだ。
俺はラビの元へ行き、よいしょと抱っこする。
「どうしたんだ、ラビ?」
「にーさぁー……ん」
涙目のラビが、俺の胸に、きゅーっと抱きついてくる。
「ぐす……ひぐ……うぇえん……」
「よしよし……」
俺はとりあえず、ラビの気が静まるまで、よしよしと頭を撫でる。その間子供たちは、「だいじょぶか?」「けがでもしたのん?」と不安げに見上げていた。
ややあって、ラビが泣き止む。
「どうしたんだ? 言ってごらん」
「くすん……。うれしくって、しあわせすぎてぇ……」
よくわからなかったので、俺は言葉を待つ。
「おいしいお料理いっぱいたべて……おいしーケーキをお腹いっぱい食べられて……これ、夢なんじゃないかって、ふあんになっちゃったのです……」
去年までの経済状況を鑑みれば、確かに今は夢のようだろう。だから現実じゃないのかも、と不安がったのだろうな。
「大丈夫。ここは現実だよ。ほら、ちゃんと俺もいるし、みんなもいるだろ?」
俺はラビをぎゅっ、と抱き寄せる。ラビが俺の心音を聞く。
「うん……聞こえる。にーさんの優しい心の音、聞こえるのです……」
「だろ? みんなもちゃんといるよな」
俺はラビを下ろす。
「ん!」
キャニスがラビを抱っこする。胸に耳を寄せる。
「聞こえる!」
「へい次はみー」
そうやって、子供たち全員の心音を、ラビが聞いた。聞き終わった後、ラビは晴れやかな表情になる。
「にーさんっ、にーさんっ」
「どうした? ちゃんとみんな生きてるだろ?」
「うん! 夢じゃあなかったのです!」
ぱぁ……と明るい表情になる。
ほぉーっと、安堵の吐息をつく子供たち。
「泣き止んで良かった……ったく、心配させんじゃねーです」
「まあまあキャニス。ラビはほら、子供だからさ。しょうがないよ」
「おめーも子供だろうが、です!」
「ほほ、さあ、どうだろうね?」
うふふ、と意味深に笑うコン。キャニスはあきれながらも、笑っていた。ラビもそれにつられて、クスクスと笑う。
良かった、みんな笑顔になってくれて。
「ケーキまだ残ってるぞ? おかわりは?」
「「「いるに決まってるー!」」」
そうやって、結構余るかもと思っていたケーキは、子供たちのお腹に、全部収まった。
満腹になった子供たちは、嬉しそうにニコニコと笑っていた。それを見て、俺や職員たちは、みんな幸せな気分に包まれたのだった。
次回もよろしくお願いします!




