136.三女、子供たちとゲーム大会に参加する【後編】
チェス大会は接戦のすえ、ラビが勝利を収めた。長時間にわたる大接戦だった。
「勝者! ラビ選手!」
コレットがラビの手をばっ! と持ち上げて言う。そのままコレットがウサギ娘を抱き上げる。
「ラビ、やっぱおめー……最強でやがるなです!」
「ふ……負けたよラビ。みーはルーザー。ゆーはウィナー」
子供たちが笑顔で、ラビに拍手を送る。ラビは「コンちゃんも……とっても強かったのです!」
コレットはコンもよいしょと抱っこする。
「てんきゅーラビ。でもラビの方が上手だったよ」
「ううん、コンちゃんもとってもとっても強かったのです」
「いやいやラビが」「ううん、コンちゃんが……」
と2人が検討をたたえ合っている。
「ふたりともとっても良い勝負だったわ! さあみんな、白熱したバトルを繰り広げたふたりに、もう一度大きな拍手を送りましょう?」
「「「わーーーー!」」」
パチパチパチ! と子供たちが力一杯拍手をする。美雪も微笑んで、ラビたちに拍手をした。
そんなふうにして、チェス大会は終了。
続いてはテレビゲーム大会になった。
「みゆみゆも見てるだけじゃつまらんべ? 一緒にやるべ?」
「「「やるべやるべー!」」」
そう言って、子供たちが美雪を誘ってきた。
「……で、でも私、なにもかもわからないわ」
「だ、大丈夫なのです! らびたちが、教えるのです」
しゅぱっ、とラビが手を上げて言う。
「みーが手取り足取り、みゆみゆにゲームの素晴らしさを教えてあげようず」
子供たちに囲まれながら、美雪はホールの隅っこへ移動。いつもこの謎の箱に首をかしげいていたのだが、これはどうやら【てれび】というらしい。
「はいみゆみゆ。これもって」
そう言ってコンが、妙な形の、妙な物体を渡してくる。
「……持つ? 持つ物なの、これ」
おおよそ人が持つような形をしてないのだが……。しかし持ってみると、不思議と手になじむ。
「それはコントローラー。これでキャラを操作するのよ」
「……こ、こんと? きあら?」
何がなにやらであった。
コンがぱちっ、と四角い箱のスイッチを押すと、【てれび】とやらから『まぁりおかーとぉ』と大きな声がした。
「……ひっ! な、なんかついた!」
びっくりして美雪が尻餅をつく。子供たちが「「「新鮮な反応だ!」」」となぜか知らないが感心していた。
「み、みゆきちゃん、安心して。怖くないよ?」
ラビが安心させるように、笑いかけてくる。この子がそう言うのなら、大丈夫なのだろう。
美雪は座った状態で、コントローラーを持つ。
「真ん中のスティックを動かすと、動く」
「……この棒のこと?」
「そー。そしてこのボタンで決定。これでキャンセル」
そんなふうに、コンからレクチャーを受ける。
どうやらこの箱の中のキャラ? とやらを、自分が操作するようだ。
ボタンを押すとキャラが進んでいく。
「あとはこのコースをぐるっと回って、誰が1番早いかを競うのよん」
「……競馬みたいなものなのね?」
「そんな感じ。理解が早いね」
コンが丁寧に教えてくれたので、ある程度操作の仕方はわかった。
「おいコン! おめーばっかり教えて! ぼくにも教えさせろやです!」
「やれやれキャニスくん。きみも初心者に物を教えたがり症候群かい?」
「おうよ! ぼくもみゆきちゃんにおしえてーです!」
「良かろう。ではレースに勝つこつを教えたまえ」
キャニスが美雪の隣に座ってくる。
「あのなおねーちゃん。レースしてるとな、ダイヤの箱が置いてあるです。これをとるですこれ!」
「……こ、これのことね」
「そう! んで後のZボタンでアイテム発射! そこ!」
「……う、うん」
コントローラーの後のボタンを押すと、操作していたキャラから、亀の甲羅? のようなものが発射された。
それは前を走っていた【車】に激突。相手は減速。その間に横を通り抜けていく。
「こんなふーにアイテムがんがん使って1位を目指す! それがこのゲームです!」
「……なるほど。わかった。ありがとう、キャニスは教えるのが上手ね」
美雪はキャニスのふわふわの髪の毛を撫でる。
「わふー♪」
「「「わたしも教える-!」」」
子供たちが、こぞって、初心者の美雪に、ゲームのこつを教えてきた。
どうやらみんな、ゲームには慣れているらしい。だからこそ、初心者に教えたい、という欲求があったのだろう。
みんな喜々として、美雪にゲームのコツを教えてくれた。
ややあって、実際にレースをしてみることになった。
4人用のゲームらしく、参加メンバーは美雪、キャニス、レイア、そしてコンだ。
「おらおらー! ぼくが1番はえーです!」
「れいあが1番だってわかってないようね!」
ふたりの操作するキャラは、とんでもない早さで画面上を走って行く。
「みーのかれーなるコーナリングを惚れるといい……うぎゃー!」
「こ、コンちゃんの操作キャラが、美雪ちゃんに狙撃されたのです-!」
美雪の発射した亀の甲羅が、コンの操作する緑恐竜を吹っ飛ばした。減速していく。
その間に美雪がコンを抜かしていった。
「…………」
そのときだ。美雪の中で、なにか楽しげな感情がわき上がった。
アイテムを使う使わないの駆け引き、相手を抜くという快感……。
「……負けないわ」
美雪が前のめりになる。そして、先頭を走る、キャニスとレイアのカートを追う。
「なに!? いつの間にみゆきちゃんのドンキーが!」
キャニスの操作する赤帽子のひげキャラが見えてくる。美雪は最小限の動きでカートを操作。
コーナーで減速しているタイミングを見計らい、スピードの上がるキノコを使用する。
「ああっ! 抜かれた-!」
「なんですって!?」
すぐ前にレイアの操作する、お姫様のキャラクターが見えてくる。アイテムは今使ったばかりだ。
ならばいかに減速せず、コーナーを曲がるかが肝になってくるだろう。カーブの場所、回数は、前の周回で記憶済みだ。
「なにこれ! みゆきのキャラ、めちゃしゃしゃしゃって曲がっていくわ!」
「み、みゆきちゃんのカートのスピード、全然落ちてないのです!」
子供たちが歓声を上げる。ちょっと嬉しい。けど手は抜かない。全力でレイアの操作キャラを抜くことだけを考える。
「くっ……! けど甘いわ! もうゴールは見えてるし! それにみゆきはキノコをもう使ってもって無い!れいあの勝ちね!」
そう、あとは直線コース。普通にやればレイアの勝ちだろう。しかし……。
「……あまいわレイア。誰がキノコがもうないって?」
そう、使うと速度の上がるキノコは、最初から3つあったのだ。三連のキノコだったのである。
それを使わず、ずっととってあったのだった。
「んなっ……!?」
最後の直進で、美雪はキノコを使用。とてつもない早さで、カートが加速。ぐんぐんとレイアのキャラに追いつき、追い越し……。
「ごーーーーーる、なのです!」
ラビが歓声を上げ、ぱちぱちと拍手する。
「やったー!!」
と、美雪が知らず、叫んでいた。嬉しかった。心から、レースに勝ったことを、喜んでいる自分がいた。
「すげー!」「びぎなーなのに、やるやん!」「みゆき! やるわね! もしかして天才かしら!?」
やんややんや、と子供たちが美雪を褒めてくる。
「へいみゆみゆ。はいたーっち」
コンが手を伸ばしてくる。美雪は手を伸ばして、ぱちん、とコンにハイタッチする。
「美雪ちゃん! ぼくとも!」
「れいあともー!」
「らびも!」「おいらもー」「アタシも!」
子供たち全員と、美雪はハイタッチしていく。いま勝負をしたというのに、子供たち全員が、美雪の勝利を褒めてくれた。
「やー、美雪ちゃんつえーなぁ」
「ほんとーに初心者? れいあにウソは通じないわよ!」
感心するキャニスたちに、美雪は答える。
「……初めてよ。こんなに楽しい遊びをやったの、生まれて初めて」
「へへ、だろー? これ、おにーちゃんが出してくれたんだー」
キャニスの言葉に、美雪は「そうなの?」と聞く。
「おうよ! 個々の遊び道具、ぜーんぶおにーちゃんが出してくれやつです!」
よく見やると、孤児院の1階ホールには、たくさんの本やゲーム。その他にも見たことのない遊具らしきものが、たくさんあった。
「……あいつって、その、みんなのために色々してるの?」
「「「あいつー? だれー?」」」
名前を呼ぶのもはばかられたが、しかし本人がいないので、
「……ジロのことよ」
そう言うと、子供たちが多くうなずいた。
「おゆーぎ室やみーたちのお部屋を大きくしてくれたのも、にぃだよ」
「プールも作ってくれたー……ぁね」
「秋には山登りに連れてってくれたぜ。冬はソリしたし」
子供たちが、実に楽しそうに、ジロとの思い出を語るではないか。そこに嘘偽りはなかった。
本当に、楽しそうだった。
「にーさんのおかげで、らびたち毎日がとっても楽しいのです!」
うんうん! とうなずく子供たちを見て、その表情を見て、真実なのだなと思った。
「……そう。あいつ、結構頑張ってるんだ」
子供たちのために、遊び道具を作ったり、子供たちが遊べる場を提供したり、イベントを催したりと。
あの男は、色々と頑張っているようだった。……ちょっとだけ、見直したのだった。
書籍版、絶賛発売中です!
頑張って書いたので、手に取って読んでいただけると嬉しいです!
次回もよろしくお願いします!




