136.三女、子供たちとゲーム大会に参加する【前編】
いつもお世話になってます!
ジロたちの用意した夕飯を食べた後。
子供たちは1階ホールにて、【げーむたいかい】とやらを開催した。
ジロは母・桜華たちととも、夕食の後片付けをしている。この場にはエルフのコレットと、その子供たちがいる。
「さぁやってまいりました、クリスマスボードゲーム大会! いよいよ決勝戦よ!」
コレットが子供たちの前で宣言する。わ……っ! と子供たちが歓声を上げた。
「ではまず赤コーナー! 銀髪のキツネ娘! コン選手!」
コレットが紹介すると、コンが両手を挙げながら、中央のこたつテーブルの前へとやってくる。
普段とは違った服装をしていた。なぜかトナカイの着ぐるみを着ていたのだ。しかも律儀に鼻には赤いボール(おそらく鼻)をつけている。
そしてなぜか黒く塗った謎のメガネをかけている。
「ぶんぶん、はろー、ようつーべ。どうも、コンきんです」
後で知ったのだが(コンから聞いた)、それはサングラスと言うらしい。
サングラスにトナカイ姿という、風変わりな格好で、コンがまず入場。
「続いて青コーナー! プリティー・ウサギ娘のラビ選手ー!」
子供たちが拍手して、ラビが来るのを待つ。待つ。待つ……が。
「あれ? ラビ? どうしたのー?」
コレットがあれあれ、と辺りを見回す。子供たちもあれー? とあたりの様子を見やる。
「…………」
美雪はふと、ホールの窓。カーテンがこんもりと膨らんでいることに、気がついた。
「…………」
すくっ、と美雪は立ち上がると、そこまで移動。
「……ラビ?」
「はぅ……みゆきちゃん……」
こんもりしてるカーテンの中から、ラビの声がするではないか。
「……どうしたの? こんなところで」
「あぅう……はずかしーのです……」
恥ずかしい? なんだろうと思ってカーテンに近づく。ぴろっ、とカーテンをめくった。
……そこには、天使がいた。
比喩ではない。本当に、天使の格好をした、ウサギ娘がいたのだ。
白いワンピース。背中からは、かわいらしい翼が生えている。頭には金の輪が乗っていた。
ふくふくとしたほっぺに、あどけなく、そして曇りのない眼。それプラス今の格好。本当に、天から舞い降りた少女のように見えた。
「……すごい。とっても可愛いわ」
美雪は微笑んで、ラビの隣にしゃがみ込む。
「……この格好どうしたの?」
「に、にーさんが決勝戦だからって、これ着せてくれたのです」
なるほど。盛り上げるための格好だったようだ。あの男が用意したにしては、なるほど、センスのある服のチョイスである。
ちなみに後で聞いた話だが、コンはもっとノーマル(サンタコスプレ)だったらしいが、本人がトナカイが良いと、ああなったらしい。
「……なるほど。でもどうして隠れてるの?」
「だって……だってこんな、肩とか出てるし、恥ずかしい……」
かぁ……っと顔を赤くして、あうあうとモジモジするラビ。
「……恥ずかしいなら脱げば良いじゃない?」
「それは……できないのです」
「……どうして?」
「だってだって、せっかくにーさんが、らびのために選んで、着せてくれたお洋服なのです。脱いだら、選んでくれたにーさんに悪いのです……」
美雪は微笑んだ。この子の優しい性根のウサギ娘に、よしよしと頭を撫でる。
「……自信を持って、ラビ。とっても似合ってるから」
「え……?」
「……本当に似合ってる。本物の天使じゃないかって驚いちゃった」
「え、えへへ……ありがとなのです……」
ふにゃふにゃ、とラビが笑う。
「……きっとみんなも似合ってるって言ってくれるわ。大丈夫、みんなの前へ行ってごらん」
「ほんとぉ……?」
どうにもこの子は、自分に自信を持てないようであった。こんなにも可愛らしく、そして容姿は普通に整っている。
確信を持って言える。この子は、将来、絶対に美人になると。それくらいこの子は美人の可能性を秘めているのだ。
……恐らくあの男もそれを承知しているのだろう。この可憐な少女に、この可愛らしい服装は実に似合っていた。
「……大丈夫。胸を張っていってらっしゃい」
「…………。うん!」
ラビがカーテンから、ひょっこりと顔を出す。そのときだ。
「「「おおーー!!!!」」」
子供たちの歓声が上がる。
「おいおいラビ! おめーすげー! すげーかわいいぞ!」
わあ……! と子供たちが声を張り上げ、ラビの元へ集う。
「ラビちゃんがー……ぁ、天使だー……ぁ」
「ラビちゃんやべえよ! まじはんぱなく似合ってるぜ!」
「くやしいけど、れいあ以上にかわいいわ!」
「へいラビ。おぬし天使へジョブチェンジ? とってもおにあいよ」
子供たちが、口々にラビの服装を褒める。えへへ、とラビが笑った後、
くるっ、とラビが美雪を見やる。
「みゆきちゃん!」
ととと、とラビが美雪に近づく。美雪は微笑んでしゃがみ込む。
「みゆきちゃんのいったとーりだったのです!」
「……良かったわね、ラビ。本当に似合ってるわ」
……あの男が選んだというのがしょしょうムカつくが、それでもあの男の選んだ服のセンスは良かった。
「みゆきちゃん、ありがとー!」
にぱーっと笑って、ラビがなぜかお礼を言ってくる。
「みゆきちゃんがかわいいよって言ってくれたから、らび、自信が持てたのです! だからありがとーって!」
美雪は微笑んだ。本当に、このウサギ獣人の少女は、良い子だな、と。
「ラビ、とってもよく似合ってるわ」
「えへへ♪ ありがとーまま!」
コレットがラビを、そしてコンを抱き上げる。
「さあ両者登場しました! はたしてどちらが孤児院最強なのか! 正々堂々、勝負開始です!」
コレットがラビと、そしてコンを下ろす。こたつテーブルの上には、チェス盤が置いてあった。
「ラビ。きみとは長いつきあいだね」
トナカイのコンが、ふっ……とかっこつけて言う。
「だからと言って、みーは手を抜くつもりはない。ラビも、手をついてはいけないよ。これは女の真剣勝負だからね」
バッ……! とコンがカッコいいポーズをとる。
「うん! らびも……らびも一生懸命がんばるのです! 女の勝負だから!」
ラビも負けじと、カッコいいポーズをとった。
「その意気は良し……ならば知らしめようじゃないか。みーとラビ……どちらが孤児院最強の頭脳を持っているかを!」
コンが先手らしい。ポーンの駒を手に、かっ……! と前進させる。
「コンちゃん……らび、負けないよ!」
同じくポーンの駒もをって、ラビが力強く、返事をする。
勝負の火ぶたが切って落とされたのだった。




