135.善人、子供たちとクリスマスディナーを食べる
いつもお世話になってます!
子供たちにイルミネーションを見せた数分後。
「それじゃあみんな、ご飯よー♪」
エルフ嫁コレットが、子供たちに笑顔でそう言う。
「「「待ってた-!」」」
喜色満面の子供たちが、両手を挙げて答える。
「めしー!」「れいあに早く飯を食わせるじゃない!」
いぬっことドラゴン娘が、しっぽをブンブンと振るう。
「お夕飯、どんなのだろー?」
「とってもたのしみだー……ぁね」
「姉貴、夕飯めっちゃすげえってお兄ちゃんが言ってたぜ!」
うさぎ娘と、鬼姉妹が、嬉しそうに顔をつきあわせて笑う。
「のん。違うよみんな」
そんな中、キツネ娘のコンが、子供たちの前に立って、両手で×を作る。
「ちげーってなんです?」
「みんな呼び方。呼び方がなっとらんよ!」
「「「よびかたー?」」」
はて、と子供たちが首をかしげる。キツネ娘は、しっぽでおひげを作った後、
「いいかね、こーゆー特別な食事のときは、【ディナー】というのだよ」
「「「! でぃなー!」」」
おおー! と子供たちが歓声を上げる。
「その言い方、かっけーです!」
「ふふ、せやろ」
「なんだか特別なおしょくじーって感じがするのです!」
「ほっほ、せやろせやろ?」
子供たちがコクコクコク! と大きくうなずく。
「では諸君、クリスマスのディナーを食べようじゃないか」
「「「ディナー! 食べるー!」」」
わぁ……! と子供たちが両手を挙げて喜ぶ。俺もコレットも、そしてその場にいた職員たちも、笑顔になる。喜んでくれて良かった。
「それじゃあ先生たち、ディナーの準備があるから。みんな、おとなしく待てるかなー?」
「「「待ってるー!」」」
子供たちがお行儀良く、1階ホールの、こたつの周りに正座する。
俺やコレットたちは、料理をホールへと運んでいく。
「へいにぃ。こっちで食べるのん?」
しゅたっ! とコンが手を上げる。
「ああ。こっちの方がクリスマスツリーが見えて、クリスマスっぽい気分が味わえるだろ?」
「激しく同意! はげどう!」
ぶんぶんとコンがしっぽを振り回す。キャニスたちがしっぽにあたって、くすぐったそうにしていた。
俺は職員たちと協力して、料理の数々を並べていく。
テーブルの上には、様々な特別な料理が並んでいった。
ローストビーフ。ローストチキン。ピザ。グラタン。
パイ包みのビーフシチュー。カニ。
チーズフォンデュ。焼きたて熱々のパンなどなど……。
普段じゃあまりお目にかかれないような、料理の数々が、テーブルの上にずらりと並んだ。
「「「…………」」」
テーブルの上に乗っている料理を見て、子供たちが、ぽかーんとしていた。
「ど、どうしたみんな?」
「にぃ……。ここは……天国、か?」
コンが目を剥いて、料理を指さす。
「いや、違うが」
「しかしそれにしては……この料理のばらえてー……それにくおりてー……半端ねえぞ!」
コンがぴーんっ! としっぽと耳を立てて、目をキラキラさせる。
「じゅるじゅる……涎がとまんねーです!」
「アカネちー……ゃん。おくちふいたげるー……ぅ」
だらだら、と子供たちが涎を口元から垂らす。姉鬼が妹のよだれを、ハンカチでぬぐっていた。
だがあやねの口からも、涎が出ていたので、俺が口元をぬぐってあげた。
「あんちゃー……ん。これぜー……ぇんぶ、食べていいのー……ぉ?」
あやねが俺を見上げてくる。その赤い瞳が、キラキラと宝石のように輝いていた。俺は嬉しくなる。
「ああ。これ全部、コレットたちが、みんなのために作った料理だ。むしろ残したら失礼に当たる。存分に食ってくれ」
「ひゃー……ぁほー……ぉ!」
あやねがぴょんぴょん、とその場でジャンプする。妹の手をとって、ふたりでその場でステップを踏んだ。
「はっ……! ま、待ってなのです、みんな!」
ラビが何かに気付いたように言う。
「まだ、ままたちに、お料理のお礼を言ってなかったのです!」
「「「しまったそうだった!」」」
子供たちがコレット、桜華、そして美雪の前に集まる。
「「「ありがとー!」」」
子供たちが笑顔でお礼を言う。コレットたちが微笑む。エルフ嫁がしゃがみ込んで、ウサギ娘を抱っこしてぎゅーっとハグする。
「ありがとう、みんな。けどね、私たちじゃなくて、ジロくんにもお礼を言いましょう」
「……そうです。お料理の食材、用意してくれたのは、じろーさんなんですよ」
子供たちが「「「そっか!」」」と笑って、くるり、とこちらを見やると、
「じゃあみんな。ジロくん、ありがとーって」コレットが言うと、
「「「ジロくんありがとー!」」」
と笑顔でお礼を言ってくる。ありがたいし、嬉しいが、
「ありがとう。でも料理を作ったのはコレットたちなんだ。1番の功労者はコレットたちだよ。ほら、ありがとうコレットって言おうな」
「「「ありがとうコレットー!」」」
いやまあ、俺と同じセリフを言わなくても良いんだが……。しかしコレットは気にしてないらしく、「みんなありがとー!」と笑っていた。
それはさておき。
料理を並び終えたので、いよいよ食事の時間となった。
「それじゃあ、みんな~。お手々を合わせましょう」
コレットが子供たちを見回して言う。子供たちが素直に手を合わせる。
「それじゃあ、いただきますっ!」
「「「いっただきまぁあああああああああああああああああああああす!!!」」」
心なしか、子供たちの返事が普段よりも大きかったような気がする。良かった。
わっ……! と子供たちが立ち上がって、目の前の料理に釘付けになる。
「どれから食べよー! どれから食べよーなのですー!」
「はいはい! ぼくはグラタンほしーです!」
「あいよ」
俺は小皿を手に取る。グラタンをスプーンですくう。
つつぅ……っと、チーズの糸が引く。ポテトとベーコンのグラタンを、皿の上に取る。
「! じゅうじゅうって! おにーちゃんこれじゅうじゅう言ってるぞ!」
いぬっこキャニスが、しっぽをぶるぅん! と振り乱して言う。
「ああ。焼きたてのグラタンだ。熱いから気をつけて食べような」
「うん!」
大皿に入ったグラタンは、今もなお音を立てている。ぷつ……ぷつ……と気泡が割れるたび、チーズの濃厚な香りと、香辛料のスパイシーな香りが食欲をそそる。
俺はスプーンでグラタンをすくって、息を吹きかけて冷まし、キャニスに食べさせる。
「~~~~~~~~~♪」
「うまいか?」
「~~~~~~~~!」こくんこくん!
キャニスが頬に手を添えて、くるんくるんとその場で回る。
「へいにぃ。ピッツァを所望する」
キツネ娘が、俺に注文を出す。
「了解だ」
クリスピー生地のピザだ。こちらも焼きたてのほかほかである。
「ピザ生地から垂れるチーズのなんと魅力的なことか!」
「俺もそう思う。ほら」
皿にのせたピザ。俺は少しふうふうと息をかけて冷ますと、皿ごとコンに手渡した。
「あ~~~~~むっ!」
サクッ……! と軽快な音。コンがピザから口を離すと、つつ……っとチーズの糸ができる。
はふはふとしながら、さくっ、さくっ、とピザ生地を夢中で、コンがほおばる。
「最の……高!!!!」
ひゃー! とコンが嬉しそうに悲鳴を上げる。この子は普段からちょっとおませなところがあるので、子供っぽい所作が珍しい。だが年相応で実に可愛らしかった。
そんな風に各自、クリスマスの特別な料理を食べていく。
ローストチキンをコレットが切ると、子供たちの歓声が上がる。切って分けたチキンを、子供たちがパクパクと食べる。
「こんなにおっきなチキン……生まれて初めて食べたのですー!」
「そっか。良かったなぁ」
「うん!」
ソースでペタペタになったほっぺを、俺がハンカチでぬぐう。
「あの……にーさん? にーさんは食べないのです?」
はっ、と俺を見上げて、ラビが言う。
「いいだよ。ラビたちの分なんだ。たくさん食べなさい」
「でも……でもでも、さっきかららびたちだけしか食べてなくって。だからその……はいっ!」
ラビが食べかけのチキンを、俺に向けてくる。
「にーさん、食べて! らびたちだけじゃ申し訳ないのです。食べて欲しいのです!」
「ああそうだな……。じゃあ」
と言って、俺はラビから差し出されたローストチキンを、腹に収める。うめえ。
かむと肉汁が、じゅわっとしみ出てくる。チキンはどうやってるのか、ぷりっぷりだった。
さらに果実のソースがかかっているのか、ぱりぱりに焼けた皮とともに咀嚼するたび、うまみと酸味が無限にわきでてくる。
「ありがとう、ラビ。ほんと、おまえは優しい女の子だよ」
「え、えへへ~♪ にーさんもっ、にーさんもっ、とぉっても優しいのです! らび優しいにーさんが、だぁいすきなのです!」
嬉しいことを言ってくれる。俺はラビの頭をよしよしと撫でる。彼女は顔を赤くして、「そ、そう言えば……あぅう……も、もしかして間接キス……」と顔を隠して、何かを言っていた。
「あんちゃー……ん」
くいっ、と俺の服を、あやねが引っ張る。
「どうした?」
「これってー……ぇ。なー……ぁにー……ぃ?」
あやねが指さすのは、どうの小さな鍋に入った、たっぷりのチーズだ。
コンロが置いており、下からトロトロと、チーズを煮込んでいる。
「ああ、これはチーズフォンデュっていう料理なんだ」
「ほー……ぉ。どんな料理なのー……ぉ?」
側に置いてある串を、俺は手に取る。
「この串で、お皿の上のウィンナーとか野菜を指すんだ」
試しにウィンナーをぷすっ、と刺す。
「あとはこのチーズの中に、串をつけて、それを食べる」
「ふぁぁあああ…………♡」
あやねが歓声を上げた。
「こ、これぜー……ぇんぶ、チーズなのー……ぉ?」
「チーズの海だ! 姉貴! チーズの湖だよ! すんげー!」
キラキラキラ、と鬼姉妹が、目を輝かせる。
「おいホントかよー!」「チーズの海ってほんとうなの!?」
キャニスとレイアが、あやねたちの元へ駆けつける。
「おにーちゃん! まじかっ! これ全部チーズなのかっ!?」
「ああ、本当だよ。チーズを溶かしたものだ」
「「「ふぁああああああああ♡」」」
子供たちの目がいっせいに、キラキラと輝く。
「まったく子供は、チーズが大好きなんだから。こーしけっしょうになったらどうするのかね?」
大人ぶるコンだったが、しかし喜びを書く仕切れてない。しっぽをぐるんぐるんと振り乱していた。
「確かにそれには気をつけないといけないな。ただしっかりと運動すれば大丈夫だって前に聞いたことある。……それに、今は特別なごちそうだから。そんなの気にしなくて良いんだよ」
俺はコンにそう言うと、「一理あるね」と言って、コンが笑いながらうなずいた。
「おにーちゃん! ぼくもふぉんぢゅ、食べて-!」
「ら、らびもふぉんぢゅ、食べたいのです!」
わあわあ、と子供たちが、俺に殺到する。
「みなのしゅー。違うよ。ふぉんぢゅ、じゃない。フォンデュだよ」
「「「ふぉんぢゅー!」」」
「違うというのにやれやれ……」
俺は子供たちに、串を配っていく。子供たちは思い思いに、野菜やウィンナーに串を刺す。
そしてチーズの海の中に、とぷっ……っと串を沈めて、そして、
「アーン……! う、うめー!」
「はむっ……! はぅう……! 蕩けるチーズのウィンナーなのですー!」
キャニスとラビが、耳をパタタタタッ! と激しく羽ばたかせる。
「こんなおいしいものー……ぉ。はじめてたべたよー……ぅ」
「姉貴! やべえ! とにかくやべえ! チーズが蕩けてちょーやべえぜ!」
子供たちがこぞって、串に野菜などを刺していく。どうやらお気に召してくれたようだ。
「チーズばっかりじゃ味に飽きるだろ? ちゃんとパンも食べような」
「「「はーい!」」」
ラビが焼きたてのパンに手を出す。手で割ると……ふんわりとした生地がのぞく。
香ばしいにおいが食欲を促進する。ぐぅ……と思わず俺の腹が鳴った。
「はいっ♪ にーさんっ♪」
ラビが割ったパンを、俺に渡してくれた。
「ありがとう、ラビ」
俺はラビとともに、焼きたてパンをサクッ、と食べる。
生地がもちっとしている。噛めば噛むほど、甘さが広がってきた。
素朴な味だ。ジャムも何もぬってないはず。だのに、甘い。小麦本来の甘さというのだろうか。
「あまくってふわふわっで! とぉってもおいしいー!」
ラビが二ぱっと笑いながら、はむはむと食べる。
「……ふふっ」
その隣で、鬼娘、美雪が微笑んだ。
「も、もしかしてみゆきちゃんが作ったのです?」
「……そうよ。手作り。生地をこねて焼いたのよ。美味しい?」
「うんっ! とってもとっても、とぉ~~~~っても!」
明るい笑みを浮かべるラビ。美雪が嬉しそうに……笑っていた。よしよし、とラビの頭を撫でる。
「……ありがとう。作ったかいがあったわ」
「毎日こんな美味しいパンが食べれたらなぁ……」
はむはむはむ、とラビがパンを食べていく。どうやらラビが、これを気に入ったようだった。
「……食べたい?」
美雪が尋ねると、「うん!」とラビが大きくうなずいた。
「……そうね。じゃあ、うん。良いわ。また作ってあげるね」
「ほんとっ?」
「……ええ」
美雪が微笑む。ラビがやったー! と大きく手を上げていた。
そんなふうに、ディナーの時間は楽しげに、和やかに、進んでいったのだった。
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ではまた!




