126.善人、子供たちのためにクリスマスツリーを出す
いつもお世話になってます!
クリスマス会議をした翌朝。
俺は美雪に話をかけようとしたのだが、彼女は朝から外出してしまっていた。
……いつも送っていくといくといっているのだが。
さておき。
クリスマスが近いということで、今日は孤児院の子供たちとともに、クリスマスの飾り付けをすることにした。
場所は孤児院1階。
ホールにて。
「じんぐるべーる!」「じんごーべーる」「鈴が鳴るのです-!」
獣人たちが楽しそうに、こたつの周りをくるくると回る。
「コンちゃ-……ぁん」
「なんだいあやねる?」
鬼姉のあやねが、キツネ娘のコンに尋ねる。
「じんぐるべーるってなー……ぁに」
「お歌よお歌。クリスマスのお歌さ」
コンが目を輝かせながら言う。
「一緒に歌おうぞ!」
「いいねー……ぇい」
獣人たちとともに、レイアと、そして鬼姉妹も、「じんごーべーる!」と歌っていた。
「みんなもっと。モア声を大きく。そうしないとダメだからっ」
普段冷静? なコンが、ぶんぶんぶん! としっぽを振り乱し、目をキラキラさせながら言う。
「コン。あんたそんなキャラだったかしら?」「みー」
レイアがハテと首をかしげる。
「みーはいつもこんな感じじゃん。もっと熱くなれよ、的な、しゅーぞー的な、キャラやん」
「コン。おめーまた変なこといってんなー」
子供たちのやりとりを尻目に、俺はマジック袋から段ボールを全部、出し終える。
「! おいおめーら! おにーちゃんがまたおもしろそーなもん、だしてやがっぞ!」
「「「なになにー!」」」
わーっ! と子供たちが集まってくる。俺の側に獣人たちや、鬼姉妹、ドラゴン娘たちが集う。目をキラキラとさせる。
「にぃ! これ飾りかっ? クリスマス飾りなのっ?」
目をまばゆく輝かせながら、コンが俺に尋ねてくる。
「ああそうだ。色々作っておいたぞ」
「にぃ!」
コンが俺に向かって、びょんっ! とジャンプしてくる。俺の胸に正面から抱きつく。
「にぃ……好き!」
コンが目を細めて、すりすりと胸板に鼻をこすりつけてくる。ふぁさふぁさとしっぽが動き、耳が小鳥のようにぱたたたたっと動く。
「はわわ……」「ラビちー……ゃん。ライバル出現だー……ぁね」
ラビが俺たちの様子を見て、胸を押さえる。鬼姉がその肩をぽんぽんと叩く。
「ら、らいばるー? あやねちゃん、ライバルって?」
「ふふー……ぅん。なんだー……ぉろ」
意味深に笑う姉鬼。妹は取り残されてつまらなそうに、姉の服を引っ張っていた。姉は「放置してごみんねー……ぇ」と頭を撫でていた。
さておき。
「よし、じゃあ今日はみんなで飾り付けだ」
「「「らじゃー!」」」
俺はまず、こたつとソファの位置をずらす。
「にぃ、なにしとーの?」
「ん? ああ、場所を確保してるんだ」
「ばしょ……」
はっ! とコンが何かに気付いた顔になる。
「ま、まさかにぃ……そんな、まさかなの? ツリー的な……?」
「お、さすがコン。察しが良いな」
地面に降りてる状態のコンが、しっぽを振り乱す。ヘリコプターのようだ。
「みんな大変だ! にぃが! にぃが大変だ!」
声を張り上げるコン。一方で子供たちが「ど、どうしやがった、おにーちゃん!?」「お風邪? お病気? うう……にーさん死んじゃやぁ……」
と勘違いして、心配してきた。俺は子供たちの前に座って、彼女たちの頭を撫でながら、
「違うよ。俺は平気だ。体調も万全」
そう言うと、子供たちがほぉーっと安堵の吐息をつく。
「コン。他の子たちが心配するから、セリフはよく吟味しような」
「うんっ! わかった! 次から気をつけます! ねえ、みーは良い子?」
こくこくこく、とコンが何度もうなずいたあと、俺に尋ねる。
「ああ」「減点されてない?」「されてないされてない。良い子だよおまえは」「良かったぁ……」
どうやらコンは、悪い子にしてると、サンタさんからのプレゼントが貰えないかも……と危惧しているらしい。
普段からとっても良い子だから、もしかりにサンタがいたとしても、ちゃんとこの子の元にはプレゼントが届くと思う。
「よしじゃあみんな下がってくれ。大変だってやつ、やるから」
「みんなバックオーライ! ばぁっくおーるぅあい!」
コンが交通整備のひとのように、手を振って子供たちを後に下げていく。
「なにすんです?」
「キャニスくん、お静かに」
しっ、とコンが口の前でしっぽを立てる。
「すまねえ」キャニスが口の前でしっぽを立てる。レイアもマネをする。
「あう……らびはできないのです……」
ラビの兎しっぽでは、短くて、コンたちのマネができないのだ。
「ラビちゃん泣かないでー……ぇ」
「そうだぜ、アタシらはそもそもしっぽねーし。泣いちゃダメだぜラビちゃん」
鬼姉妹がラビを慰める。ラビが感極まったような表情になると、鬼姉妹にきゅーっと抱きつく。
その一方で、俺はマジック袋から、【それ】を取り出す。
ずぉおお…………!!!
と【無限収納】が付与された袋から、【それ】が出てくる。
「でっけー!」「おっきすぎるのですー!」
「な、なにこれ木じゃない!」「みー!」
出てきたのは、クリスマスの定番である、
「もみの木やんけーーーーーーー!!!」
コンが力一杯さけぶ。
孤児院のホールは、2階と吹き抜けになっている。だから背の高い木を置いても、どうにかなるのだ。
「にぃ! これもみの木っ? 本物っ? 本物っ!?」
大興奮のコンが、俺の頭の上に乗って、ぺしぺしと叩いてくる。
「ああ。ソルティップの森の中にあったのを、刈ってきたんだ」
ちなみにもみの木と床の間には【接着】の魔法でくっつけて、【固定化】を使って、絶対に木が倒れないようになっている。
また【固定化】を使っているので、細かな葉っぱとかのゴミも出ない。
「本物……すごい……本物のクリスマスツリーだーーーーー!」
コンが大きな声を張り上げる。声に喜びが色濃く混じっていた。
「喜んでくれたか?」
頭の上のコンに尋ねると、
「うんっ! とっても!」
と無邪気に笑いながら、コンがうなずいた。
「にぃ! てんきゅー♪」
コンが俺の肩に降りると、ほっぺにちゅっ、とキスをしてきた。
「はぅ……」
ラビがそれを見て、胸をきゅーっと押さえる。
「ど、どうしたんだよラビちゃん!?」
「おいラビ! どうした病気かてめー!」
キャニスと妹鬼が、ラビを心配して、集まってくる。
「なんだか……ここのところが、きゅーって、きゅ~~~~~って切なくなって……」
胸を押さえるラビ。それを見た姉鬼が、ふむとうなずく。
「あんちー……ゃん」
「どうした?」
「ラビちゃんだっこしたってー……ぇ」
よくわらないが、俺はラビの側までやっていく。
「ラビちゃんあのね。こうするとー……ぉいいよ」
ごにょごにょ、とあやねがラビに耳打ちをする。ふんふん、とラビが真剣な表情でうなずいた。
「わかったのです!」
我が意をいたりとうなずくラビ。俺は彼女をよいしょと持ち上げる。
「えとその……えいやーっ!」
ラビが顔を真っ赤にして、目を閉じると、ちゅっ……っとほっぺたにキスをしてきた。
「「「おおー!」」」
子供たちが歓声を上げる。
「ラビおめー意外とだいたんだなー」
「ラビちゃん……大人だぜ……」
「れいあも負けないもん!」
バッ……! とレイアが俺に抱きついてくる。
「んちゅー♪」「んじゃぼくも。ん~♪」「おいらもー……ぉ。ちゅー……ぅ」
なぜか知らないが、子供たち全員から、ほっぺにキスを受けた。
「ラビちゃんほらー……ぁ。セリフセリフー……ぅ」
あやねが楽しそうに笑いながら、ラビに言う。
「えとえと……コンちゃん!」
「わっつ?」
ラビが俺の腕の中で、もじもじしながら、コンを見て言う。
「ま、負けないよ!」
びしっ! とラビがコンに指を指す。
「「「?」」」
大半の子供が、首をはてとかしげる。
「みーだって、まけぬよ。みーもにぃは、大好きだから」
コンが俺の顔に、ぎゅーっと抱きつく。ラビもぎゅーっと抱きついてきた。
「えへへっ、らびもにーさん大好きなのです! コンちゃんと一緒なのです-!」
にぱっと笑って、ラビとコンが仲よさそうに笑う。
「うー……ぅん。ラビちゃんにはー……ぁ。まだ早かったかー……ぁ」
あやねがちょっぴり残念そうにつぶやく。
「あやね。あんまり子供たちをからかわないようにな」
「にひー……ぃ♪ ごみんねー……ぇ」
俺はラビとコンの頭を撫でて、
「俺も、ラビのことも、コンのことも、そんでみんなのことも大好きだぞ」
すると子供たちが、ぱぁっと目を輝かせる。
「んなのぼくだって好きに決まってんだろが、です!」
「おいらもあたりまえだー……ぁよ」
「あ、アタシだって……」「れいあも決まってるじゃない!」「みー!」
子供たち全員が、俺の体に抱きついて、ぎゅーっとハグしてくる。
「ちょっとみなのしゅー。にぃが苦しそう。離れて離れて」
「「「いやっ!」」」
「ぬぅ……。にぃが押し潰れても知らないからね」
「んじゃおめーが降りれば?」
「そればできぬ。にぃが大好きだから」
子供たちは誰1人として、俺から降りようとしない。
「ありがとうみんな。さ、それより飾り付けだ」
「! そーだよみなのしゅー!」
ぴょんっ、とコンが地面に着地。俺の出した段ボールの中から、星やらミニサンタやらを取り出す。
「! コンおめーなんだそれ!?」
子供たちがわっ……! とコンの元へ押し寄せる。
「これはクリスマス飾り。ツリーをこれで彩るの!」
「「「おもしろそー!」」」
子供たちが段ボールを漁る。
「にぃ! にぃ! かざりつける! かざりつけするー!」
両手に飾りを持ったコンが、俺の元へとやってくる。
「よーし、みんな。じゃあこれをツリーに飾り付けていくぞ」
「「「おー!」」」
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