125.善人、嫁たちとクリスマスの会議をする
いつもお世話になってます。
子供たちと雪だるまを作った、その日の夜。
職員室にて、俺は嫁たちとともに、クリスマスのための会議を開いていた。
職員室は学校の教室の2倍くらいの広さだ。10個の机が配備されており、俺のはちょっと離れ場所においてある。
残り9つは、2行4列の形で並んでおり、先頭にコレットの座る机が置かれている。
俺は机の前に座る職員たちを見ながら、口を開く。
「それじゃあ会議を始めようと思う。議題はクリスマスについてだ」
俺が口を開くと、職員たちがうなずく。
「そうよねー。もうそんな時期か。早いなぁ」
エルフ嫁コレットが、しみじみとつぶやく。
「そう言えばコレット。キャニスたちがクリスマスを知ってたんだが、去年はどうだったんだ?」
「ん、んー……。まあ、色々がんばった」
コレットがお茶を濁す。その隣で、猫獣人のアムがため息交じりに言う。
「コレットってば何日も食事抜いて、しかも夜は遅くまで働いてね。頑張ってお金を工面してきてくれたのよ」
コレットは借金を抱えていた。とてもクリスマスどころじゃないと思っていたのだが。なるほど……。
「働いてたってどこで?」
「冒険者ギルドの酒場で給仕さんとして働いていたわ。外見詐称薬を飲んで、人間のふりしてね」
「なるほど……」
コレットの苦労が忍ばれた。この子はハーフエルフ。そのことを他人にバレるのを、何よりも恐れている。
孤児院の外に積極的に出たがらない。バレるかも知れないからという恐怖があるからな。それを押しのけて、子供たちのために頑張って働いてたのか。
「偉いな、コレットは。ほんと、子供思いのすごい先生だよ」
前に子供たちが、俺のことを、先生のようになったと言ってくれた。とてもうれしかった。あこがれの先生に近づけて。
だが俺からしたら、まだまだだと思った。この人と比べたら、俺なんてまだ子供のようなものだ。
「え、えへへ……いやぁ、照れますなっ!」
コレットは立ち上がると、俺の座っているイスのところまでやってくる。
「ジロ校長!」「なんだ?」「てーい♪」
ぴょんっ、とコレットが抱きついてくる。俺の膝の上に乗っかる。正面から抱きついて、ぎゅーっとしがみついてくる。
柔らかな乳房が俺の胸に押しつぶされる。ふわりとミルクと蜂蜜をあわせて煮込んだような、途方もない甘いにおいが鼻腔をくすぐった。
すぐ目の前に、美しい顔の美少女がいる。目を♡にして、ちゅ、ちゅっ、と俺の唇に吸い付いてきた。
「コレット……。いま会議中だぞ。ひかえなさい」
「えへへ♪ はーい♪」
「あー! コレットあなたずるいですよー!」
がたっ! とマチルダが立ち上がって、コレットの側までやってくる。腕を引っ張って、自分の席へと戻る。
「まったく気を抜くとすーぐにジロさんに甘えようとするんだから!」
「だってジロくんがうれしいこと言うんだもん。ジロくんってばほんと、私を喜ばせる天才ですな」
ぷーっとコレットが子供っぽく頬を膨らませる。
「そういってもらえるとうれしいけど、コレット。今は会議の時間だからな」
「うん。……ふふっ、ジロくんってば本当に校長先生になったのねえ」
しみじみとコレットが言う。この孤児院の代表者として就任たからな。今まで以上にしっかりしないといけない。
さておき。俺は職員たちをみながら言う。
「クリスマスイブ……24日は子供たちが楽しめるように、クリスマス会を開こうと思うんだが、どうだろう?」
「良いと思います!」
俺の言葉に、マチルダが即座に同意してくれる。ほかの職員たちも同様にうなずいていた。
「当日の流れとか細かいことは後で決めるとして、先んじて決めておきたいことがある」
俺はたちあがる。職員室にはホワイトボードが張ってある。マジックペンを使って書く。
1.食事の準備
2.プレゼントの用意
「食事はおいしいものたっくさん作らないとね!」
「……はい。腕が鳴ります」
食事担当2人が、ニコニコ笑いながらうなずきあう。
「当日の献立はあとで打ち合わせしよう。必要となる食材は事前にリストアップしておいてくれ。俺が狩ったり買ってきたりするから」
こくり、とコレットたちがうなずく。
「それとひとつ懸念しているんだが、ふたりだけで大丈夫か?」
「……だいじょうぶ、とは?」
桜華が首をかしげる。
「たくさんの手の込んだ料理を、桜華たちだけで用意できるかなって思ってさ。大変だろ」
「それは……まあでも頑張るよ!」
コレットが力強くうなずく。
「…………」
桜華が何か言いたげにもじもじする。
「どうした?」
「……いえ。あの、人での件ですが、ひとり心当たりがあります」
桜華が俺の目を見て言う。
「そうなのか?」
「……はい。ただちょっと、今問題があって、言うこと聞いてくれるか不明瞭ですが」
桜華が言葉を濁す。問題がある。言うことを聞く……?
「桜華。それってもしかして美雪のことか?」
「……はい」
桜華には5人の娘がいる。一花、弐鳥、肆月、風伍。そして三女の美雪だ。
彼女だけは、他の鬼娘と違って単独行動を取っている。群れるのが嫌なのか、それとも純粋に俺が嫌いなのか。
わからないけど、彼女はいつも1人で行動しているのだ。
「……あの子、わたしと同じくらい料理上手なんです」
「そうなのか。ただ……そうか」
美雪は俺だけじゃなく、最近は桜華のことまで嫌うようになっていた。たぶん俺と付き合うようになったのが原因なのだろう。
「……わたしの方から、頼んでみます」
「いや、俺が頼んでみるよ。主催者は俺だし」
桜華が目を見開いて、ふるふると首を振るう。
「……でも、美雪は、じろーさんのこと、ことさら恨んでいます」
「俺が何かしたんだろうか?」
「…………」
桜華が黙り込んで、うつむいてしまう。
「とりあえず俺が頼んでみるよ。ダメだったら他の手を考える」
「……わかりました」
これで食事の方はいったん終了。続いてプレゼントの問題に入る。
「子供たちにあげるプレゼントなんだが、これを事前に聞き出しておいて欲しいんだ」
「クリスマスのサンタクロース役を、ジローがやるわけだね」
先輩の言葉に、俺がうなずく。
「当日の渡し方には俺に案があるから、とりあえず個々で子供たちから、みんなでプレゼントを聞きいてほしいんだ」
サンタクロースの存在は、こちらの世界でもフィクションの存在だ。だがそれでも俺は、子供たちにはそのことをまだ知って欲しくない。
子供には夢を持っていて欲しい。たとえそれが現実でないとしても、夢を持つということの大切さを、子供の時から学んでいって欲しいのだ。
「具体的にどうすればいいんだい?」
「子供たちと接するときに、職員がひとりにつきひとりの子供から、聞き出してくれ。ひとりが全員に聞くと怪しまれるからな」
担当はこうなった。
コレット→キャニス
俺→コン
アム→ラビ
桜華→あやね
マチルダ→アカネ
先輩→レイア
「子供たちが遠慮しようとしたら、遠慮せず欲しいものを聞き出して欲しい」
「ん、了解よジロくん!」
その後、当日の細かな打ち合わせをして、その日は会議終了したのだった。
次回もよろしくお願いいたします。




