124.善人、子供たちの雪だるま作りを手伝う
いつもお世話になってます!
孤児院の校長に就任してから、数日が経過した。12月下旬。
この日は朝から晴れていたので、子供たちを連れて、裏庭へとやってきていた。
「ひゃっほー! 晴れてやがるですー!」
犬っこキャニスが、ぶんぶんぶん! としっぽを振り乱しながら、庭を走り回る。
「雪だるま作るぅぉ~」
銀髪キツネ娘のコンが、俺を見上げて言う。
「なんで巻き舌なんだ?」
「ちょさくけんに配慮したの。千葉県のマウスさんに消されるかもしれぬからね」
きらん、とどや顔のコン。
「コンは気遣いができる良い子だな」
「ふふ、そのへん他のこどもたちとちがうからね」
うれしそうにコンがぶんぶんぶん! とキツネ尻尾を振る。
「コンちゃんっ、らびも雪だるまつくるお~、なのです!」
兎娘のラビが、にぱっと笑って両手を挙げる。コートにマフラー。ふわふわの耳当て、手袋までピンク色だった。
「おいらもー……ぉ。つくるお~」
「姉貴とラビちゃんがするなら、あたしもやる……おー」
鬼姉妹の姉と、妹アカネが、仲良く手をつなぎながら答える。ふたりとも真っ赤なコートにマフラーという、おそろいの格好だ。
「へくちっ」アカネがくしゃみをして、「はい、ちー……ぃん」と姉がティッシュで、妹の鼻をかませる。
「あんがと、姉貴」「いいよー……ぅ。へ、へくちっ」
今度は姉がくしゃみをして、「姉貴姉貴っ。はい、ちーん」とアカネが姉の鼻にティッシュを当てる。
「ありがとー……ぉ」「えへへっ、いいってことよっ!」
ニコニコと笑う鬼姉妹。
「おいおめーら! なにぼーっとつったんてんだ、です!」
いぬっこが俺たちの元へとやってくる。
「雪合戦で最強を決めようじゃない!」「みー! みー!」
褐色銀髪娘、レイアが、頭に黒猫のクロを乗せて歩いてきた。
「のん。今日は雪だるま作るターン」
くるん、とコンがその場で回転する。ラビたちがそれを見て、くるん、とターンした。
「ンだよ~。雪合戦したかったんだけどなー……。まっ、いっか!」
にぱっ! とキャニスが明るく笑う。
「えー、れいあ雪合戦がいい」
一方でレイアは不満そうだ。
俺はレイアの前に座る。
「お兄ちゃん、れいあ雪合戦したいっ!」
レイアの銀髪をなでながら、俺はいう。
「レイア。雪合戦したい気持ちはわかるぞ。ただ今日は我慢してくれ」
「んー……。がまんー……」
「そう。雪合戦はまた今度にしよう。今日は雪だるまをみんなで作ろうな。みんなで作ればきっと楽しいぞ」
俺の言葉に、レイアが「わかったわ!」とうなうずく。子供たち全員が納得してくれたようだ。
「よし、じゃあみんな。でっかい雪だるま作ろうか」
「「「おー!」」」
子供たちが拳を突き上げる。さっそく雪だるまを作ることになった。
裏庭は今朝雪をかいてある。ただ子供たちが雪遊びできるよう、ある程度は残してあるのだ。
俺はスノーダンプで雪をかき集めてきて、子供たちの前に雪を積む。
「雪だるま作るぅお~♪」
コンが雪を手にとって、おにぎりを作るように、丸める。
「なんだコン。その歌?」
「雪だるまが上手く作れるお歌。みんなも歌うべ」
子供たちが「作るおー! です!」「作るおー、なのです!」とめいめいに歌いながら、雪玉を固める。
「みんな手が冷たくなってないか?」
「「「だいじょーぶ!」」」
子供たちが笑ってうなずく。
「にぃが作ってくれた、このスキー用のろくぶてのおかげで、あったかぽかぽかよ」
コンが両手を広げて、俺に見せてくる。スキー用のごわごわとした手袋を、子供たちははめていた。
「ろくぶてって、なんです?」
「はいはいっ! らびわかったのです!」
子供たちの注目が、ラビに集まる。
「へいラビ。おぬしこのちょー難問……わかったというのかっ?」
コンが瞠目する。ラビが笑顔でうなずく。
「てぶくろ、の逆さ言葉なのですっ!」
ラビが答えると、コンが「正解」ぴしっ、としっぽでラビを指さす。
「てぶ……くろ。ろく……ぶて。姉貴、ほんとだ逆になってる」
「ほんとー……ぉだ。そこに気付くとはー……ぁ。ラビちゃんはやっぱりかしこいねー……ぇい」
「「「かしこーい!」」」
子供たちが拍手する。ラビが照れて、俺の後に隠れた。俺はラビを抱っこする。
「ラビは本当に賢いな」
「えへへっ♪ そ、そんなことないのですっ。たまたまなのですっ!」
ニコニコとうれしそうに笑うラビ。
「けんそーんは美徳だけど、ラビはもっと頭よしこちゃんであることを、ほこるといいと思うよ」
「おいコン。おめー難しいことばばっか使うんじゃねーです。わっかんねーだろ」
「ほほ。らびは賢い子なのです。むつかしい言葉を使ってしまうのです」
「ラビのまねしてんじゃねーよ」
閑話休題。
「よし、じゃあ次は雪玉をコロコロと転がそうか」
「「「おっけー!」」」
俺は子供たちの前で見本を見せる。最初は手元で転がして、徐々に大きくしていく。
「これおもれーです! どんどんでっかっくなってやがるです!」
キャニスが笑顔で、雪玉を転がしていく。
「れいあの雪玉が一番おっきいじゃない!」
「ぼくのほーがおっきーだろが!」
キャニスとレイアは、競うようにして、雪玉を転がす。
「やれやれ2人とも、子供ですね。みーたちアダルト組は、じっくり雪玉転がそうぞ」
珍しくコンが、キャニスたちの方じゃなく、ラビたちの元にいた。
「あうぅん。上手く転がせないよぉ~……」
「だいじょうぶかいラビ。みーが手伝ってあげるよ」
ラビが雪玉作りに苦戦していると、一緒になって押して、ラビの手伝いをする。
「姉貴。アタシ手が疲れた……」
「おっとみーが代わりに転がそう。きみたちは休んでいたまえ」
その他、鬼姉妹にも同様に、手助けしていた。
コンが鬼姉妹の雪玉を転がして、大きくする。満足げにうなずく。
「どうしたコン? 今日はいつも以上にとっても良い子じゃないか」
俺はコンの側により尋ねる。
「ほほほ。もうすぐあの日ですからね。みーも良い子になるわけですよ」
銀髪キツネ娘がにやっと笑って答える。
「あの日?」
「女の子の日じゃなくってよ」
「わかってるよ……」
どうにもこのコンという少女は、底知れなさがある。子供らしくないというか、ませてるというか。
「それであの日ってなんだ?」
「くーりすますがことしもやぁってくるぅ~♪」
コンがマイクを持っているふうで、そう歌う。
「なるほど……クリスマスだから良い子にしてるのか」
「そーいぇす。にぃってばさすが。察しが良いね」
ぴっ、とコンが両手でピストルを作る。
「そうだなぁ。クリスマスが近いもんな」
あと数日すれば、クリスマスイブ、そしてクリスマスが待っている。
この異世界にも、地球と同じ風習があるのだ。理由はわからない。ただ異世界人がこの世界に来たことで、文化も輸入されているのだろうと思っている
さておき。
「クリスマスが来ると彼が来る。だからいつも良い子ちゃんなコンちゃんも、特別良い子ちゃん……良いコンちゃんになるのだっ」
きらんとコンが目を輝かせて、びしっ! とカッコいいポーズを取る。
「なんだなんだ?」「コンちゃんがカッコいいポーズしてるのです!」
他の子たちも集まってくる。
「クリスマスが近いから、良いコンちゃんになってるだとさ」
俺はコンを抱き上げて、よしよしと頭を撫でる。
「あぅん。にぃに抱かれてみーは体がほてっちゃう。これは恋いでしょうか?」
潤んだ目で、コンが俺を見上げてくる。
「背中にカイロが張ってあるからじゃないか?」
「夢のない答え。だがそれもまたいい」
ぐっ……! とコンが指を立てる。
足下で子供たちが目を輝かせる。
「クリスマス! そっかクリスマスちけーんだなぁ!」
「えへへっ! たのしみなのですー!」
キャニスとラビが、手を上げて喜ぶ。
「なんなのクリスマスって?」「みー?」
はてと首をかしげるレイア。
「なぬ? レイアおぬし、クリスマスしらぬと?」
「知らないわよ。れいあずっと巣穴暮らしだったもん」「みー」
レイアは竜の化身だ。孤児院の近く、天竜山脈に長く1人で住んでいたのだ。下界の風習を知らないのだろう。
「クリスマスを知らぬとは……人生を半分くらい損してるぞよぞよ」
コンが瞠目して言う。
「そーだぜ! クリスマスほどたのしーイベントねーです! なっ、おめーら?」
「そうなのですっ! ケーキ食べてー、豪華なお料理食べてー、それでプレゼント!」
どうやらキャニスたちは、去年、クリスマスをちゃんと祝ってもらったらしい。コレットがきっと頑張ってくれたのだろう。
「ねーねー、あんちゃー……ん」
くいっ、と鬼姉、あやねが、俺のズボンを引っ張る。
「どうした?」
「おいらたちもー……ぉ。クリスマスって知らなー……ぁい」
鬼たちも知らないそうだ。孤児院ごとに経済事情は異なるからな。やりたくてもできない、ということもあるだろう。
「なんと、なげかわしー」
コンが俺の腕の中で、顔を手で覆い隠す。
「クリスマスは楽しい。とってもとっても楽しい!」
珍しくコンが声を張り上げて、無邪気に笑う。
「コンはクリスマス好きなんだな?」
「うんっ! 良い子にしてたらサンタさんくるから!」
いつもとはちょっと違ったしゃべり方をするコン。ハッ……! と我に返ると、
「と、ともかくだねみなのしゅー」
コンが顔を赤らめながら言う。
「クリスマスまでは良い子にしてるのだよ。そうすれば、欲しいプレゼントを、サンタクロースというおじいちゃんがもってきてくれるのだ」
コンの解説に、獣人たちがウンウンとうなずく。クリスマスを知らない組が、ほへーっと感心する。
「ほんとー……ぉ?」「うそじゃねーだろうな」
鬼姉妹が、コンに懐疑的な目を向ける。
「まじもんよ。だから良い子にしてるんだよ、きみたち」
コンの言葉に、ぱぁ……! と鬼姉妹と、レイアが表情を明るくする。
「れいあ、いつも良い子だけど、これからもっと良い子になる!」
「アタシもっ!」
にこにこーっと笑う子供たち。クリスマスが楽しみなのだろう。期待に応えないとなと改めて思った。
「はっ。雪だるま。わすれとった」
「「「わすれとったー!」」」
子供たちが頑張ってくれたおかげで、大きな雪玉が出きている。
「みんな離れて。雪玉を積み重ねる作業は、子供じゃあぶない。にー、たのむ」
「任された」
俺は子供たちが作った6つの雪玉を、よいしょっと重ね、雪だるまを3組作る。
「それじゃあみんなで、雪だるまの顔を作ってあげような」
俺はマジック袋(【無限収納】が収納された袋)から、にんじんやら、バケツやら、炭やらを出す。
子供たちが喜々として、雪だるまに飾り付けを施していく。ややあって、完成する。
「「「かんせー!」」」
孤児院の前に、3組のそれぞれ異なる雪だるまが完成した。
「ぼくとレイアは【強いダマル】!」
炭を使って、眉毛ができている。口元は枝を使って、つり上がっていた。
「みーとラビは、【ふぁっしょなぶるだダルマ】」
雪ダルマにコートやマフラー。枝で手を作って手袋をつけている。
「おいらたちはー……ぁ。【鬼ダルマ】」
頭の部分から、にょきっとニンジンが生えている。
「みんな個性が出てて凄く良いぞ」
俺は子供たちの頭を撫でる。子供たちがうれしそうにえへへと笑った。
「へいにぃ。雪だるまさん作ったから、これでサンタさんも、この家に子供がいるってわかるよねっ?」
コンがニコニコニコー、と無邪気に笑いながら、俺に尋ねる。
「そうだな。これで迷いなく、サンタさんは来てくれると思うぞ」
「やったぁあああああ!」
声を張り上げて、コンがぴょんぴょんぴょーん、と飛び跳ねる。
「はしゃいでんなー、コンのやつ」
「コンちゃん、普段と違ってかわいいのです!」
獣人たちに見られて、コンが「はっ」と正気に戻る。
「は、はずかしぬ……」
かぁ……っとコンがしっぽで顔を隠す。
「まあいいじゃないか。それくら楽しみに思ってるってことだろ。な、コン?」
「うんっ!」
強くうなずくコンに、
「まー、ぼくらもめっちゃ楽しみだけどな!」
「ラビも!」「れいあも!」「おいらたちもー……ぉ」
わー! と笑う子供たち。俺は頑張らないとな、と決意を新たにしたのだった。
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ではまた!




