書籍化記念SS「善人、ウサギ娘とソーセージを焼く」
本日、「善人のおっさん」書籍版発売となります。
「善人のおっさん」は、店舗特典が3つに、初回特典が1つ、合計で4本の、特典SSがつきます。
このSSはその特典SSが、こんな感じだよというサンプルのものになってます。ご購入の参考になれば幸いです。
ある日の夕方。
夕飯前に起きた出来事だ。
孤児院の子供たちは、さっきまで庭で遊んでいて、今は疲れてお昼寝をしている。
俺は子供たちが寝ている間、食器でも洗うかと思ったその時だ。
「あうう、にーさぁん……」
ちょこちょこ、とラビが近づいてきた。
俺はしゃがみ込んでうさ耳少女をよいしょと、抱き上げる。
「どうしたラビ?」
俺が尋ねると、
くぅー……。とかわいらしいお腹の音が聞こえた。
「はぅっ、恥ずかしいのです……」
ラビが顔を真っ赤にしてうつむく。
「お腹がすいたんだな?」
「は、はいなのです……」
垂れたウサ耳が、さらに垂れる。
「そうか。待ってな。すぐに何か軽く食べれるもの作るから。何か食べたいものあるか?」
「ええと……あのあの、その……なんでもないのです」
もじもじとするラビ。
だが何か言いたそうに、口をパクパクし、俺をちらちら見上げてくる。
「遠慮しなくていいぞ。食べたいものを言えばいい」
「なら……ならっ、この間みんなでバーベキューしたときに食べた、ソーセージが食べたいのです!」
俺が孤児の先生になってから、一度みんなでバーベキューをした。
そのとき俺は、複製スキルを使って、ソーセージを出したのである。
「あのパリパリのソーセージが食べたいのです!」
ちょっぴりよだれを垂らしながら、元気よくラビが言う。
「了解。ちょっと待ってな」
俺は一度台所を離れて、竜の湯へ行き、複製スキルでソーセージを作る。
リビングへと戻り、ラビが見てる前で、調理スタート。
「ソーセージ、わくわく、楽しみなのですー!」
俺はフライパンに油をひいて、火であぶってソーセージを焼く。
ややあって焼き終わり、お皿に出す。
「ほら、たくさん食べな」
「わぁ!」
ラビはお皿に乗ったソーセージをきらきらとした目で見る。
表面が程よく焼けて、皿ににじみ出た肉汁が実にうまそうだ。
「あの、あのあの……にーさん。これ、ほんとうに食べていいのです?」
「おう。全部ひとりで食っていいぞ」
なくなったらまた出せばいいだけだからな。
ラビは喜色満面でソーセージをつまむと、「あちち」と口に運ぶ。
ぱきっ、と良い音がして皮が破ける。
もぐもぐラビが口を動かすたび、ウサ耳がぴくぴくと微細に動いた。
「パリッとして、とってもおいしいのですー!」
輝く笑顔でラビが言う。
美味そうで何よりだ。
ラビは皿に乗っていたソーセージ五本を、ぺろりと食べる。
「おいしかったぁ~……」
夢見心地でラビがそういった、そのときだ。
「なんかうまそーなにおいがしやがるです!」
「すんすん、よきかおりがみーを呼ぶ」
寝ていたふたりが、昼寝から目を覚ましてやってきた。
「キャニスちゃん、コンちゃん!」
キャニスたちはラビに、そして皿に残った油を見て、きゅっと目を逆三角にする。
「ラビおめぇ、うまそーなもんくってやがったなー!」
「みーたちにもぷりーず」
コンもキャニスと一緒に、くれくれと手のひらをこちらに向けてくる。
「ハイなのです!」と答えてから、「はわわっ、全部たべてしまってたのです!」
慌てるラビ。
「ごめんねふたりとも~」
ウサギ娘は申し訳なさそうに眉を八の字にした。
「まあいいです」
「いいけどおなかぺこのすけ」
ぐぅ、とキャニスとコンの腹の虫がなく。
「ど、どうしよう……にーさぁん……」
うるんだ目を俺に向けてくるラビ。
きっと自分だけ食べたことを申し訳なく思っているのだろう。
この子は優しい子なのだ。キャニスたちが食えないことに心を痛めている。
「心配するな。すぐ作ってくるから」
俺はその場をいったん離れ、スキルでソーセージを作って戻ってくる。
「せつめいしよう。にぃは魔力があるかぎり、むげんにものをつくれるのだ」
俺が帰ってくると、コンが能力の説明をしていた。
「今誰に説明してたんだよ」
「てれびのまえのちびっこたちに」
もうなんかツッコミどころが多すぎたので、スルーする。
「ほら、ソーセージとってきたぞ」
「ありがとうなのですー!」
にぱーっと笑うラビ。
「ラビ、やかないとソーセージはくえないよ?」とコン。
「はうっ、そうでした」
ラビがちらっと俺を見てくる。
焼いてくれと言いたいのだろう。ふむ……。
「ラビ、ちょっと焼いてみるか?」
ふと思ったのだ。
子供たちにも、できることを増やしてもらいたいと。
俺が一方的に与えるだけでは、子供たちの成長につながらないからな。
「えっ!?」
と驚くラビ。
「できるかなぁ……」
不安げにラビが耳を垂らすと、
「おいラビ! やってもねーのに、うだうだ言ってんじゃねーです!」
「やればできる。やらねばできぬ。じゃすとどぅーいっと」
とキャニスとコンが励ます。
「キャニスちゃん、コンちゃん……」
うるんだ目で、ラビが友達を見やる。ふたりともぐっと親指を立たせる。
「……。にーさん、ラビ、やってみるのです!」
決意を固めたラビ。俺は台を持ってきて、ラビをのせる。
準備は全部俺がやって、あとはラビが焼くだけだ。
「焦げないようにハシで転がしてな」
「うんしょ……うんしょ……」
ラビが一生懸命、フラインパンの上のソーセージを転がし、火加減を調整する。
その姿をキャニスとコンが「頑張れー!」「ふぁいといっぱぁつ」と応援していた。
ややあって焼きあがる。
キャニスとコンがそれをパクっと食べて、
「うまい!」
「ひゃくてん」とほめた。
「にーさん、ラビにもできたぁ!」とラビは嬉しそうに笑顔を浮かべたのだった。
お疲れ様です!
こんな感じのSSが以下の店舗で特典としてついてきます。
・とらのあな「善人、エルフ嫁のために夜食を作る」
・Wonder Goo「善人、犬娘の歯を磨く」
・くまざわ書店「善人、キツネ娘のしっぽをブラッシングする」
また初回同梱版には、「善人、子供たちのパンケーキ作りを手伝う」
がついてきます。どのSSも頑張って書きました。買ってくれると嬉しいです!
それでは、また夜に更新しますので、次回もよろしくお願いします!




