120.善人、子供たちの遊び相手になる【後編】
休日。俺は子供たちの遊び相手を務めることになった。
孤児院1階のホールにて。今日は天気が悪く、外で遊べない。なので中で遊ぶことになっている。
俺はまず、ラビの相手をする。
こたつに入り、ラビが選んだ絵本を読む。彼女は俺の膝の上に座り、俺の朗読を聞いていた。
「わわっ! 毒リンゴ! だめなのです! たべたら死んじゃうよぉ……」
くすん、とラビが涙を流す。俺はハンカチを取り出して、ラビの目元をぬぐってやる。
「ラビは本当に、人の痛みがわかる良い子だな。優しい子だ」
「にーさん……。えへっ♪ うれしいのです!」
ラビの頭をよしよしと撫でる。ロップイヤーの耳が、ぴょこぴょことうれしそうに羽ばたく。
「しかしラビ。おまえもう異世界語は完璧にマスターしてるよな?」
異世界語。つまり地球の言語のことだ。この世界から見えれば、地球が異世界と言うことになるからな。
ラビは聡い。子供たちの中で、誰よりも早く字を覚えた。
「えへへっ。でもね、らびは、にーさんにご本を読んで貰うの、だぁいすきなのです! だから読んで貰いたいのです」
「そっか。そうだったんだな。ありがとう、ラビ」
ラビがハニカムと、もじもじ……と身をよじる。
「あのね……あのね、にーさん。その……」
「ん? ああ……。いいぞ」
ラビが笑うと、俺の胸にきゅっと抱きついてくる。俺はラビを抱っこしながら、テーブルの上に置いた絵本を読み上げる。
ラビは俺に抱っこされながら、絵本を見て、時に笑い、時にハラハラしながら、俺の朗読に耳を傾けていた。
「こうして白雪姫は幸せに暮らしましたとさ」
「わぁ! 良かったぁ……。良かったのです!」
にこーっと笑ってラビが言う。
「そうだな。ハッピーエンドが一番だ」
「うん! にーさん、読んでくれてありがとー!」
続いて俺は、キャニスとコン、レイアの4人と、テレビゲームをすることになった。
俺の複製スキルは、作成する物体が良く知るものなら(使ったりやったことのあるものなら)、何でも作れる。
たとえそれが家電であろうと、テレビゲームであろうと、可能なのだ。……原理はわからない。ゲームの内部構造なんて把握してないしな。
ただそれでも、俺が子供の頃、よく遊んだゲームソフトやゲーム機は、複製できた。
家電は【雷魔法】と組み合わせることで、普通に、電源がなくても使えるようになった。
俺たちはテレビの前に座り、コントローラーを持って、レースゲームに興じる。
「みなのしゅー。みーの華麗なるコーナリングを、みよ」
コンの操作する緑恐竜が、がががががっ、とコーナーを曲がる。
「おー、やるじゃん」「結構うまいわねあんた」「ふふ、でしょだしょ」
コンがどや顔でコーナーを曲がる。
「さあコン選手。あとは直線だ。いま……ごーる」
コンの操作したキャラが、ゴールテープを過ぎていった。
「ありがとー。いやありがとー」
両手を挙げてコンが喜ぶ。
「あー……うん。んじゃ、次のレース行くか」
「コン、おめー、おせーぞです」
「もっと練習しなさいよね」
そう、実はコン、最下位だったのだ。俺たちは先にゴールして、コンがゴールするのを待っていたのである。
「ごめんなそーりー……」
ぺちょん、とキツネ耳を垂らすコン。この子、カードゲームとか頭脳使う系は得意だが、こういうレースとかは弱いのである。
「謝ることないさ。良く最後まで投げ出さずにゴールできたな」
俺はコンの、銀髪を撫でる。ふぁさっふぁさっ、とコンのキツネ尻尾が揺れる。
「にぃ……。なぐさめてくれるの……? ちゅき……。ほれちゃうわ」
平坦な口調のまま、コンが俺を見上げて言う。
「ありがとう。俺もコンのことは好きだよ」
「まじかい。これはそーしそーあいじゃん。まみーと三角関係やん」
きゃあ、とコンがうれしい悲鳴を上げる。
「あれでもラビを含めれば、四角関係?」
「コン、お前なんで知ってるんだ……?」
「おっとそいつはタダじゃあ教えられないなぁ……」
ふふふ、とコンが口元をしっぽで隠して笑う。あいかわらず謎の多い女の子だった。
「おいコン。さっさとコントローラーもてやです」
「次のレースが始められないでしょ!」「みー!」
「おっとすまんね。ではねくすとげーむ」
コントローラーを持ち、次のレースが始まる。
「おらおらー!」
最も得意なのはキャニスだ。ばんばんアイテムを使って、がんがんと他のマシーンを抜いてく。
「やるじゃないキャニス! さすがれいあのえいえいのライバルじゃない!」「みー!」
レイアはあまりアイテムを使わない(というかアイテムを取っても使い方がわからないらしい。必要性を感じないそうだ)。
ただ一度も減速したり、他のマシーンにい当たったりしないので、スピードがまったく落ちない。
見事な操作テクニックで、先頭のキャニスを追い越したり追い抜かれたりしてる。
「ぐぬぬ……。スターを今使うべきか……否か……まよう……」
コンは筋が良いのだが、いかんせんアイテムを温存しすぎるきらいがある。最後の最後まで取っておいて、しかし使う前にレースが終了している。
「やっりー! またぼくが1番!」
「あー! お兄ちゃんに抜かされたわ!」
俺が2位。レイアが3位。そしてコンが4位だった。
「ぐぬぬ……。いかん……いかんぞぉ。勝てない……」
がっくし、とコンが肩を落とす。キャニスとレイアが立ち上がって、ぽん! と肩を叩く。
「なに凹んでんだ、です!」
「そーよ! 凹んでたってうまくなんないわよ!」
強い言葉で、コンを励ます2人。
「かちてーなら練習あるのみ、です!」
「なんどもやれば勝てるわよ!」
「み、みなのしゅー……」
うるうる、とコンが目を潤ませる。
「みーは……勝てるかな」
「「勝てる勝てる!」」
「れんしゅーすれば、勝てるかなぁ」
「「当たり前じゃん!」」
コンの瞳に、闘志がやどる。俺はコンの頭をぽんぽんと撫でる。
「ふたりの言うとおりだ。諦めなければ絶対に上手くなるよ」
「にぃ……その言葉、信じる!」
コンが奮い立つと、テレビの前に座る。そしてキャニスたちからアドバイスを受けて、再びレースに挑む。
果たして結果は……。
「みーが、かったー!」
なんと初めて、コンが1位を取った。
「「おめっ!」」
「おめでとう、コン」
キャニスたちと俺は、コンに拍手を送る。コンはうれしそうにキツネ尻尾を、くねくねと動かす。
「これはみーだけの勝利じゃない。みんなが支えてくれたから、勝つことができたよ。みんな……てんきゅー!」
わーっ、と子供たちがもりあがる。俺も拍手すると、コンがうれしそうにVサインを向けてきた。
……その後。
アウトドア組とレースゲームしたあと、俺は鬼姉妹と遊ぶばんになった。
俺はホールのこたつの前に座る。鬼姉妹たちは俺の膝の上に乗っかっていた。
「それで、何がしたい?」
ふたりに尋ねると、妹アカネが、
「えっとぉ、折り紙だろ、お絵かきだろ? ああもうやりたいことたくさんあって困るぜ!」
と悩む。一方でポワポワ笑う姉に、俺は聞く。
「あやねは何がやりたい?」
「そー……ぉだねー……ぇい」
うむむ、と考えた後、ふへっ、と笑って言う。
「おいらはいいやー……ぁ。あやねちゃんがー……ぁ、やりたいことやりたいなー……ぁ」
姉がそういうと、アカネが「いいのかっ!」と目を輝かせる。
「じゃあじゃあ、兄ちゃん! 折り紙!」
「はいよ」
ホールには子供の遊び道具がいくつも置いてある。俺は折り紙を取り出し、3人で折って遊ぶ。
「姉貴姉貴っ、鶴おって!」
「はいよー……ぉ」
しゅぱぱっ、と俊敏な動きで、あやねが折り紙で鶴を作る。あっというまに1羽の鶴が完成した。
「すごいなあやね。器用だな」
「だっろー! 姉貴はすげえんだぜ! たぁくさんいろんなもん、作れるんだよ!」
妹が喜々として、姉の良いところを褒める。
「いやー……ぁん。アカネちゃん、そんなに褒めると、おいら照れちゃうなー……ぁ」
ふへっ、と笑って、あやねが妹の頭を撫でる。アカネが気持ちよさそうに目を細める。
「良い姉妹だな、ふたりとも」
妹思いの姉に、姉思いの妹。ふたりはとても仲良しだった。
「あんちゃんはー……ぁ。折り紙苦手だなー……ぁ」
「う……。こういうのあんま得意じゃなくてな」
どうにも上手く作れない。
「兄ちゃん! あれやってあれ! もでりんぐ!」
「そうだな。見てな」
俺は複製スキルを発動させる。この複製というスキルは、物体の生成だけじゃなく、魔法でさえも、コピー可能なのだ。
「【成形】」
無機物の形を変える魔法を使う。すると折り紙が東京タワーや雷門。パンダにキリン……と。
変幻自在に、紙の像ができる。
「すげー! 兄ちゃんのこれマジすげえマジ最強だぜ!」
きゃっきゃ、と喜ぶ妹鬼。
「でもー……ぉ。これってー……ぇ。折り紙じゃなくなー……ぁい?」
ふわふわ笑いながら、冷静なツッコミを入れる姉。
「いいんだよ姉貴! やっぱ兄ちゃんすげえ! 姉貴もすげえ! あたしの周りすげえやつばっかりだ!」
キラキラとした目を、姉とそして俺に向けてくる。俺とあやねは、アカネの頭をよしよしと撫でた。
「それじゃあやね。次はお前の番だな」
「んぇ? おいらー……ぁ?」
ぽわんと笑いながら、あやねが首をかしげる。
「ああ。言ったろ、みんなと遊ぶって。それにはおまえもちゃんと含まれてるさ。ほら、言ってごらん」
「…………」
あやねがふへっ、と笑うと、
「じゃー……あ。ドッジボール、したいなー……ぁ」
(意外と)内気な妹と対照的に、おっとりとしても、姉は活動的だったりするのだ。
「むっ。みなのしゅー、ききましたかっ」
ゲームをしていたコンが、すくっ、と立ち上がる。
「ああ! 聞いたぜコン!」
「ドッジボールってきこえたじゃない!」「みー!」
アウトドア組が立ち上がり、きらきらとした目を向けてくる。
「らびもドッジボールしたいのですー!」
子供たちが、俺たちの元へとやってくる。
「へいあやねる。みーたちもトゥギャザーしてもよいかい?」
コンがあやねに尋ねる。姉鬼はフヘッと笑うと、
「うんー……ぅ。一緒にとぎゃぁざ、しよー……ぉ」
「「「おー!」」」
獣人たちがブンブンとしっぽを振るう。ラビがぴょこぴょことうさ耳を羽ばたかせる。
「よし、じゃあみんなでドッジボールだ。着替えてプレイルーム1に集合な」
「「「りょーかい!」」」
その後、俺は子供たちを連れてボールを遊びをする。元気な子供たちを相手にして、だいぶくたくたになった。
だが不思議と、気持ちの良い疲労感だったように、俺は思えた。子供たちが喜んでくれたからかな。
書籍版11月15日発売です!
今週の木曜日が発売日となってます!
書籍版には書き下ろしエピソードや、大幅な加筆がなされてます。具体的な内容は活動報告に乗せてますのでご確認ください!
Amazonやそのほか通販サイトでもまだまだ予約受付中です!買ってくださるととても嬉しいです!買ってくださいお願いします!
ではまた!




