120.善人、子供たちの遊び相手になる【前編】
いつもお世話になってます!
ある日の休日のこと。
その日はオフで、やることが特になかった。
俺は朝食を取って、孤児院1階のホールへ行くと、子供たちがめいめいの時間を過ごしていた。
「コン。おめー、手札にババあるだろ?」
「ふふふのふ、さぁて、どうかな?」
こたつを挟んで、いぬっこキャニスと、キツネ娘のコンが、トランプをしている。
「ばっきゃろー! ぼくとおめーしかもう残ってねーじゃねーか! おめーがもってるのはわかってんだ、です!」
「たいした名推理だ刑事さん。ではあててもらおうか。みーのババがどこにあるかを」
「くっ……! わっかねー! こいつ表情がよめねーです! わっかんねー!」
「ほほほ、そう簡単に読まれては、ポーカーフェイスのコンちゃんの名が廃るというものよ」
ばば抜きをするアウトドア組。レイアはこたつに体をツッコんで、がーがーといびきを立てていた。どうやら一足先に上がったらしい。
「ラビちゃー……ん。これなんて読むのー……ぉ」
ソファに3人で座るのは、ラビと鬼姉妹だ。3人はなかよく並んで腰掛け、漫画を読んでいる。
「えとえと、【左手は添えるだけ】って描いてあるのです!」
赤鬼の姉、あやねは漫画を読んでいる。それは【複製スキル】で俺が出したものだ。地球の漫画だ。
「ありがとー……ぉ。ラビちゃんはやっぱー……ぁ。かしこいねー……ぇい」
「姉貴もそう思うよな! さすがラビちゃんだぜ!」
「えへへ~♪ ありがとー♪」
そんなふうに思い思い、子供たちが部屋の中で過ごしていた、そのときだ。
「む」
ぴんっ、とコンがキツネ耳を立てる。
「へいキャニス。すとっぷなう」
「ンだよ、いいとこなのに……」
「にぃが、きたー」
バッ……! と子供たちが、俺を見てくる。ぱぁあ……! と顔を輝かせる。
「おにーちゃん!」「にーさん!」「あんちゃー……ん」「兄ちゃん!」
わっ……! と子供たちが立ち上がると、いっせいに俺のもとへ駆け寄ってくる。
「ふぅ、子供だねきみたち」
「おいコン。おめーだってこっちきてんじゃねーかです」
「ほほ、まあよいではないか」
子供たちが俺を見上げながら、抱きついたり、体によじ登ったりする。
「なあなあ! おにーちゃんきょーは休みなんだろ? ならぼくらと一緒にあそべや、です!」
「「「いいねー!」」」
子供たちが嬉しそうに笑う。
「のん。みなのしゅー、おちつきたまへ」
コンが俺の頭の上に乗っかって言う。
「よいかい。社会人であるにぃにとって、休日は実にきちょーなのだ。体を休める日なんだよ」
「「「あー、そっかぁ~……」」」
しょんぼり、と子供たちが表情を暗くする。
「にーさんはいつも頑張ってるのです。だからだからっ、きょーはやすんでほしいのです!」
ラビが胸の前で手を組んで、きゅーっと目を閉じて言う。
「そだー……ぁね」「ほんとは遊んで欲しいけど、姉貴、アタシ我慢するぜ」「えらいねー……ぇい」
姉鬼が、妹の頭をよしよしする。妹はうれしそうに微笑んだ。
「いや、大丈夫だよみんな」
「「「えっ?」」」
「みんなで遊ぼうか」
「「「いいのー!?」」」
子供たちの顔が、ぱぁっと明るくなる。
「へいにぃ。よいのよいの?」
ぺちぺち、とコンが俺の頭を手で叩きながら尋ねる。
「ああ。確かにおまえの言うとおり体を休める日だ。けどもう今日はぐっすり寝かしてもらって、体力有り余ってるんだよ」
俺はコンをよいしょっ、と持ち上げて、正面で抱っこする。キツネ娘はそのふわふわのしっぽを俺の首にしゅるんと巻き付けてくる。
「ではにぃ、みーたちとトゥギャザーしてくれるの?」
子供たちがハテ、と首をかしげる。
「ああ。一緒に遊ぼうか」
「「「そゆことかー!」」」
わあわあ、と子供たちがうれしそうに笑う。
「じゃあじゃあ、ぼくらとばば抜きしようぜ、おにーちゃん!」
いぬっこが俺の肩に乗って、きゅっと顔に抱きついて言う。
「のん。みーとポーカーしようぜ。いいだろう、みーはかきょーいんの魂をかけるぜ」
コンがいつの間にか、トランプを手に持った状態で言う。
「あのあの……えとえと……ラビは一番最後でいいので、にーさんにご本読んで欲しいなぁ……」
ラビが腰にしがみついた状態で、淡く微笑んで言う。
「! おいラビ! 遠慮するこたねーです!」
キャニスが肩からスタッ、と降りる。
「おめーいっつも後でってゆーだろ? それよくねーです」
キャニスがラビの前に移動していう。
「おめーだって最初がいいだろ、です?」
「でも……でもでも、らびはみんながやった最後で良いのです」
「だーかーらっ! そーゆーの遠慮ってゆーです? それよくねーです」
「そぉだよー……ぉ。ラビちゃんだって、一番でもいいだよー……ぉ」
うんうん、と他の子たちがうなずく。
「遠慮することたねーです。まずはラビが一番に、おにーちゃんにご本を読んでもらう。それでいーな、おめーら?」
「「「異議なーし!」」」
子供たちがニコニコ笑ってうなずく。
「ぐす……みんなぁ……」
うれしそうにラビが泣く。俺はラビの頭を撫でて、よいしょと抱っこする。ぽんぽん……とラビの背中を撫でる。
「えへへ……みんなが一番でいいっていってくれたのです。うれしーのです」
「良かったな。良い友達を持って」
「はいなのです! らびの自慢の、大好きなお友達なのですー!」
ラビが花の咲くような笑みを浮かべる。
「よ、よせやいてれるだろが……です」
「らびはほめじょーずだね。ほめほめ大臣ににんめーしようぞ」
てれてれ、と子供たちが照れていた。
「んじゃ、ラビからだな。何の本がいいんだ?」
「ええとぉ……ええとぉ……」
ラビを下ろすと、ととと、とホールの壁に向かう。絵本を何冊か取ってきて、俺のもとへと帰ってくる。
「こっちか……こっちが良いのです!」
左手には【シンデレラ】で、右手には【白雪姫】が握られていた。
「そっか。じゃあどっちも読もうか」
「ええっ!? いいのです?」
ちら……と俺と、そして子供たちを見やる。子供たち全員が、両手で○を作った。
「良いってさ。ホント、いいやつらだな。おまえらが優しい良い子で、俺はうれしいよ」
するとキャニスとコンが、ぴーん! としっぽを立てる。
「おいコン、聞いたかいまの!」
「もちのウィーズリー」
びしっ! とキャニスが、俺に指を立ててくる。
「今のめっちゃ……先生っぽいです!」
「いえす。今のはまみーっぽかった。くりそつだった」
「そうかな?」「「「そー!」」」
子供たちがウンウンとうなずく。
「だんだんおにーちゃんも、おねーちゃんみたいになってきてんな、です」
「にぃも成長してるんだよ。成長したね、にぃ」
ぐっ! と子供たちが親指を立てる。
「ありがとう、そう言って貰えるとうれしいよ」
「「「いやいやなんのなんの」」」
孤児院で働くようになって、半年以上が経過する。少しは子供たちにとっての、先生になれているようで、俺はうれしかったのだった。




