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【完結】善人のおっさん、冒険者を引退して孤児院の先生になる 〜 エルフの嫁と獣人幼女たちと楽しく暮らしてます  作者: 茨木野


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117.善人、嫁たちに推薦され、校長先生になる

いつもお世話になってます!




 コレットとイチャついたその日の午後。


 職員室に、すべて荷物を運び終えた。


「ふぅ……」


 俺がいるのは、この間増築されたスペース。【職員室】だ。


 ここは職員たちや、非常勤の鬼娘たちが仕事をする際に、この部屋を使ってもらいたいと、作った部屋である。


 スペースだけはできていたので、あとは机やイス、そのほか必要な者を運び込むだけだった。


 だが子供たちの面倒もあったし、雪かきもあって、なかなか引っ越し作業は進まず。

 時間をかけて、ようやく、職員室へ荷物を運び終えたのだった。


「お疲れ様、ジロくん♪」


 ニコニコしながら、コレットが缶コーヒーを持って、俺の元へ近づいてきた。


「ありがと、コレット」


 俺はコレットからコーヒーを受け取る。俺が座っているのは、職員室の端っこ、小さな革張りのソファだ。


 クゥのところから買ったものである。壁には時計がかけられている。


 俺が複製で出したものもあれば、クゥのところから買った物もある。


「職員室があるなんて夢みたい」


 コレットが俺の隣に座る。肩に頭を乗せてくる。


「前はコレットだけが職員で、職員室なんてなかったもんな」

「ふふ。そんな時代もあったかのう……」


 遠い目をするコレット。そしてスリスリと俺にほおずりしてきた。


「それもこれもジロくんのおかげだよ。ジロくんがうちに来てくれたから、家もおっきくなったし、お金もたくさん入ってくるようになった。ほんと、ジロくんがいてくれたおかげだよ」


 ニコッと笑って、コレットが唇を突き出してくる。俺たちは唇を会わせる。瑞々しいコレットの唇を、ついばんだり、舌でなめたりする。


 顔を話すと、唇の間に、涎の橋が架かる。

「ジロ……」「じろーさん……」「ふふ、ジローはだいたんだね」


 ……その姿を、がっつりと、他の恋人や嫁に見られていた。


「コレットー!」


 マチルダが怒り心頭といった感じで、俺とコレットの元へ、ずんずんと歩いて近づいてくる。


「なにいちゃついてるんですかっ!」

「休憩よ休憩」


 つん、とそっぽ向いて、コレットが俺の腕をつかむ。大きな乳房が俺の腕に当たって、ぐにょっと潰れる。


「じゃあわたしも休憩します!」


 そう言ってマチルダが、俺の隣に座ろうとする。


「ふはは、残念だったねマチルダくん!」


 コレットが魔王みたいな感じで笑うと、


「このソファは2人がけなのだ! 3人は座れないのだよ」


 くくく、とコレットが魔王プレイを継続中。


「甘いですコレット!」


 そう言ってマチルダが、コレットの背後に回る。


「くらえ! くすぐり攻撃!」

「こらっ……やめなっ……はひゃうっ! あははっ、あははっ、あははっ、ひぅ……や、やめて~」」


「ほらほら脇腹が弱いんですねっ! ほらほらー!」

「あひゃっ……。あははっ、もうっ、やっ、あっ♪ んっ……♪ や、やめっ……」


 マチルダにくすぐられまくって、コレットがその場からくたぁ……っとしゃがみ込む。


 よいしょとマチルダが持ち上げて、コレットを地面に座らせる。


「えへへ、失礼しまーす♪」


 そう言って、マチルダが俺の腕をつかんでくる。大きく張りのある乳房が、俺の腕を押し返してくる。


「はぁ……。はぁ……。や、やったわねマチルダー!」


 コレットがエルフ耳をぴーんと立てて、マチルダに飛びかかろうとした。


「やめような」


 俺はすかさず立ち上がり、嫁をよいしょっと抱き上げる。


「あら、お姫様だっこじゃない♪ ふふ、意図せずお姫様抱っこしてもらっちゃった~♪」


 その様子を、アムや桜華が「「いいなぁ……」」と羨ましげに、


「ジロさん! わたしも! いっしょにお姫様だっこを!」

「いや……さすがにふたりはむりだよ……」

「そ、そんなぁ~」


 がくっし、とマチルダが凹む。俺はコレットを下ろす。


「ふたりとも、仲良くしてくれ。みんなが仲良くしてるのが一番嬉しいよ」

「「ふぁーい……」」


 普段コレットは、子供の前ではちゃんと先生をしているのだが。


 こうしてふたりきりや、マチルダが隣にいると、子供っぽさがあらわになる。


 とは言っても彼女はまだ18歳(人間で言うと)。多少の幼さがあって当然なんだよな。


「じろーさん……。わたしも、お姫様抱っこ……」

「あ、あたしもお願い……」


「わかったわかった。順番な」


 俺はまずマチルダ。そしてアム、桜華と、順々にお姫様抱っこする。


 最後に先輩を持ち上げようとしたが、彼女は笑って「きみが私にやると、子供がだっこされてるみたいだから遠慮してくよ」とのこと。


 さておき。


 嫁たちが機嫌を回復させてくれたので、俺たちは次なる作業へと移る。


「机の設置が終わったから、次は誰がどこに座るかだな」


 正規職員は俺を含めて5人。

 非常勤は鬼娘4人にくわえて、最近は先輩も働いてくれている。


 合計で10人分の机が、職員室にあった。

 机は、離れたところに1つ。それ以外の9つのが、向かい合うようにしてくっついて、一列に並んでいる。


 2列4行。先頭に1つ机が置かれて、合計で9つ。離れた場所に1つあるのを含めて、全部で10個。


「この離れた机って誰が座るんですか-?」


 マチルダが離れた場所の机を見て、ハテと首をかしげる。


「そこは校長の席だよ。みんなを見渡せるように、離してあるんだ」

「「「へー」」」


 得心いったような顔で、嫁たちがうなずく。


「じゃあここはジロくんの席だね」


 コレットが俺を見て、にっこりと笑う。


「え?」


 と俺は驚いて、目を丸くする。


「え? ってなーに?」

「いや……そこはコレットの席だろ?」


 だってそこは校長の席だ。この孤児院の、職員たちのトップ。校長が座るべきイス。


「だからコレットかなって思ってたんだけど……」


 するとコレットが苦笑して、首を振るう。

「何言ってるのジロくん。ここはあなたの席ですよ」


 コレットが言うと、他の職員たちもうんうんとうなずく。


「いや……。え、だって元々ここはコレットの孤児院じゃないか」 


 コレット1人が、獣人たちを育てていた。そこに俺がやってきて、コレットを支え、桜花が来て、マチルダが来て、アムが職員に加わり……。


 と大きくなっていった場所。でも最初にここにいたのは、コレットだ。長になるべき人物はコレットだろう。


「ううん。違うわ」


 コレットは俺に近づいてくる。俺の腰に抱きつくと、宝石のような青い目を俺に向けてくる。


「ジロくんがいてくれたから、この孤児院はここまで大きくなれたの。あなたがいてくれたから、子供たちはお腹いっぱいご飯を食べられる。温かい家で過ごせる。全部ジロくんのおかげじゃない」


 きゅっ、と抱きつくコレット。


「そうよ。あんたがうちに来なかったら、コレット過労で死んじゃってたかも知れないし」


 アムが悲痛な面持ちで言う。彼女は去年まで、庇護される対象だった。コレット1人に仕事を任せていて、そのことを気に病んでいたのだろう。


「……そうです。じろーさんがいなかったら、わたしたち鬼族も、路頭に迷っていました」


 桜花が微笑んで言う。彼女たちの住処は、この夏、川の増水で流されてしまったのだ。居場所がなくなった彼女たちは、ここへ来て共同生活を始めたのである。


「ジロー。きみはこの場において、中心に立つべき人間だと私は思うよ」

「そうですよ! ジロさんがここの大黒柱じゃないですか!」


 嫁や恋人たちが、にこやかに笑ってうなずいている。


「……そう、だろうか」


 どうしても、ここの長はコレットという意識が、俺の中にはある。


「ジロくん。じゃあジロくんは私が校長先生になるのが良いって思ってるのよね?」


 コレットがニヤリと笑って、そんなことを言う。


「そうだな。それが一番だと思うよ」

「ふうむ……。じゃあ私が校長先生になるわ」


 そう言って、コレットが目を閉じて、ふんすと胸を張る。


「ではジロくん。校長先生として、命令します」

「おう、何でも言ってくれ」


 ふふっ、と口元を緩ませると、


「あなたはこの孤児院の校長先生になりなさい」


 びしっ、と俺に指を指してくる。


「これは校長命令であーる。命令に背くと、先生悲しんじゃいますよ?」


 ぺちょん、とコレットがエルフ耳を垂らす。


「…………」


 みんなが俺を見てくる。


「俺で……本当に良いのか?」


 俺はコレットを、そして他の子たちを見やる。


「当たり前じゃない」


 アムが当然と言った感じでうなずく。


「……何も問題ありません」


 桜花が大きくうなずいて、


「ジロさんが校長先生やってくれないと!」


 マチルダがきらきらと目を輝かせる。


「だってさ。みんな君が校長になることに異を唱えてない。能力や今までの実績を考えると、ま、妥当だろうね」


 先輩が微笑んで言う。


「……コレット」


 最後に、俺はエルフ嫁を見やる。彼女は俺に近づくと、


「ジロくん。お手を拝借」


 そう言って、自分の右手を差し出す。俺は左手を出すと、ぺちん、と叩いてきた。


「はい、引き継ぎ終了。これで私は校長先生を引退して、2代目校長はジロくんになりました」


 ニコッと笑うコレット。


「やって♪」

「……わかった」


 俺は大きくうなずく。コレットは俺の手を引いて、俺を校長席へといざなう。


 イスに座ると、嫁たちと、教室を一望できる。


「本当に、良いのか?」


 嫁たちは笑顔でうなずいている。


「もうっ、ジロくんってばくどいですぜ。ここはびしっと、みんな俺に付いてこいや! くらい言わないとっ!」


 コレットの言葉に、嫁や恋人たちがうんうんとうなずく。


「…………」


 俺は目を閉じて、これまでのことを思い返す。


 冒険者を引退して、あてのない旅に出た。

 森の中で先生と再会し、俺はこの孤児院で働くことになった。


 アムや桜華、マチルダに先輩。それにたくさんの子供たち。


 彼女たちと生活を送りながら、この孤児院のために働いてきた。


 そして今……俺は職員室の、一番奥。上座に座っている。


 孤児院の代表としてのポジションに、座ることになった。


 ……目を開ける。嫁たちを見渡す。


「ありがとう、コレット。2代目校長、頑張るよ」


 俺は立ち上がる。みんなを見て、決意を表明する。


「そんなわけだ。校長になったわけだが……別に今まで通りでいい。今までどおり、みんなで頑張って日々を送ろう」


 俺の言葉に、嫁たちが拍手する。


「ジロくん頑張って!」

「ジロ、頼りにしてるわよ」

「ぐす……ジロさんかっこいいです! 素敵です!」

「……じろーさん、困ったことがあったら、いつでも言ってください」


 最後に先輩が、「いつでも頼ってよ。君になら助力は惜しまないよ」と大賢者の彼女が笑う。


 ……かくして。


 増築された孤児院の職員室で。俺はここの校長に、就任した。


 これからも……いや、これまで以上に、精一杯、働こうと。

 そう……思ったのだった。

 

お疲れ様です!これにて13章終了です!


次回から幕間を挟んで、14章へと続きます。14章はクリスマスのお話にする予定です。


さて、書籍版が11月15日発売となり、いよいよ発売まで1週間を切りました。


来週には書店に、僕の本が並ぶ予定です。


今から楽しみであり、不安でもあり、でもやっぱりとても楽しみです!


書籍版、だいぶ頑張りました。書き直したり、書き下ろしたりと、だいぶいじってあります。


時間をめちゃくちゃかけて書きました。頑張って書いた書籍版、ぜひとも手にとっていただけると嬉しいです!


それでは、次回もよろしくお願いします!

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