112.善人、孤児院を増築する【前編】
いつもお世話になってます!
鬼娘たちと狩りに行った3日後。
あの日から3日間、猛烈な吹雪に見舞われていた。
朝から夜までずっと雪が降っており、外に出れない状態である。
そんな状態が続いた、午後の出来事だ。
孤児院1階のホールにて。
「あ゛ー……。また雪でやがるですー……」
ぶにっ、と犬娘キャニスが、ガラス戸に顔をくっつけて言う。
ぺちょん、と犬耳とふわふわのしっぽが垂れている。
「もう3日。みーたちお外でたいのに。雪山サバイバル生活なう」
キツネ娘のコンが、同じくしっぽと耳を垂らして言う。
同じく顔をぶにっとくっつけて、外の猛吹雪の様子を見ている。
「んもー! 外に出しなさいよ-! れいあもうお外出たくてでーたーいー!!」「みー!」
褐色銀髪のドラゴン娘、レイアが、1階ホールをびゅんびゅんと飛び回る。
ホールは2階まで吹き抜けとなっているため、飛行は可能だ。
「レイア。危ないから降りてきなさい」
「じろっ!!」
レイアが俺に気付くと、びゅんっ! と俺を目がけて飛んでくる。
正面から抱き留めて、よしよしと頭を撫でる。
その頭には黒猫のクロが座っていたのだが、「ふしゃー!」と言って歯を剥いて、その場から逃げていった。
「じろっ! お外でたい!」
俺の腕の中で、レイアがンモー! と両手を広げて、不満をあらわにする。
「レイアおめー。外出たらあぶねーことくらいわかるです?」
「そーだよ。そーなんするよ。そおーなんすっ」
ちょこちょこ、とキャニスとコンが近づく。俺の足によじ登り、肩に乗ってきた。
「まあけどレイアのゆーとーりです。体動かして遊びてーです」
「さすにが3日ひっきーは、こたえますな」
ぺちょーん、と獣人たちが耳を垂らす。
子供たちに元気がないのは、俺としても悲しい事態だ。
「大丈夫。今日完成するから、もうちょっと待ってな」
すると子供たちが、はて、と首をかしげる。
「にぃ、何が完成するの?」
「前から計画していたものだよ。みんなが外出なくても元気に遊べるよにってさ」
ぴーん! と子供たちの耳が立つ。
「外出なくても遊べるってすげー! なんじゃそりゃ!」
「へいにぃ。それマジカ。マジで、マジカ? しょーたーいむ」
子供たちが目をキラキラとさせる。
「ああ。ワドさんたちが朝から最終調整しているからな」
「ワド? ワドちゃんがどうしたのです?」
「説明しよう。ワドちゃんとは山小人の女性であり、大工さんなのだ」
「おいコン。誰に説明してやがるです?」
「画面の前のあなたにですよ」
「わけわかんないわね!」「みー!」
そんなふうに子供たちをあやしていた、そのときだ。
「ジロさん! 終わったっす~」
孤児院1階の西側から、ぬぅっ、とその子が出てきた。
「「「でっけーい!!!」」」
その子は見上げるくらいの大きさの少女だ。2メートル強ある。
その子は巨人族の少女、名前を、
「ユミルちゃん! 肩に乗せてほしーです!」
「おっ、良いっすよ。ほらおいでっす」
巨人のユミルは、俺の前までやってくると、しゃがみ込む。
子供たちが俺の体から降りて、ユミルの側に寄る。しゅるしゅると器用に登って、肩に乗る。
「たけー!」「とらわれた、屈辱は反撃のいえーがー」
わー! と子供たちが楽しそうに声を張り上がる。
「やっぱ子供はいいっすね♪ かわいっす♪ ね、ワドさん」
すると奥から、小柄な女性が出てくる。
「フンッ……! 何をしてるユミル! 子供たちを肩になんぞ乗せて!」
眉間に深いしわを刻んだその少女は、山小人のワドさん。
「子供らが落ちたらどうするのだ! 今すぐに子供たちを下ろせ! たわけが!」
……口は悪いが、優しい人なのである。
「ワドちゃん! ぼくらへーきです!」
「そう。みーたち運動神経ましましのありありだからへーき」
グッ! と親指を立てるキャニスたち。
「この愚か者が! 転んで額にこぶができたらどうする! この子らは女なんだぞ! 顔に傷ができたらどするのだ!」
本気で怒るワドさんに、
「あー、そういうことっすから。みんな、ごめんねっす」
巨人のユミルが、肩に乗っている子供たちを下ろす。
「ワドちゃんは心配性でやがるなー」
「フン……! 別に心配なぞしておらぬ。このエリート山小人の作った家でけが人を出したくないだけだ!」
子供たちが俺の元へ帰ってきて、肩や背中に張り付く。
「みなのしゅー、こう言うのね。ツンデレっていうんだよ」
「「へー。ツンデレかー」」
「違うわ……!!」
「やっぱ子供ほしいっすねー」
と笑う大工の2人。
「ワドさん。それにユミルも。朝から作業お疲れさん」
俺は大工の2人に頭を下げる。
「フンッ……! 別に疲れてなどおらぬわ」
「外装の作業は終わってるし、内装を整えるだけだったすからね。そんな大変じゃなかったっすー」
にへーっと笑うユミルと、むすっとした表情のワドさん。
「なーなーユミルちゃん。また一緒にゲームしようぜ!」
「この三日負けっ放し。今日こそユミルちゃんをマリカーで倒す」
「お、いいっすねー。でもあとでね2人とも。いまジロさんと中のチェックにいくからねー」
「「ちぇっく?」」
はて、と獣人たちが首をかしげる。
「へいにぃ。そう言えばワドちゃんたち、この3日間くらい泊まり込んで何してたの?」
そう、この3日間、ワドたちは最終調整のため、この孤児院で生活していたのだ。
普段はこの孤児院のある、ソルティップの森で、他の大工たちと生活しているのだが。
「増築のための最終チェックしてもらってたんだよ」
「ぞう?」「ちく?」
はて? と子供たちが首をかしげる。
「ふん……! そんなこともわからぬのかおぬしら。家を大きくすることだ!」
律儀に説明してくれるワドさん。
「10月くらいに長雨続いた日から、増築計画動いてたんすよね」
「ああ。冬に大雪が降って今の状況になるのは目に見えていたからな。対策を打っておいたわけだ」
子供たちはしっぽを?にしている。
「みんながもっと楽しく暮らせるように、家を大きくしておいたんだよ」
「おー! そゆことかー!」
「わかりずらいのよ、もうっ!」「みー!」
ニコニコと笑う子供たち。
「おにーちゃんの説明はわかりやすいです!」
「にぃはいつも子供にわかりやすい、平易な言葉を使うからね。子供たちへの配慮、ぐっじょぶ」
「コンおめーは逆に、わかりにくい言葉つかうよなー」
「ほほ。みーはアダルトな大人ですからね。むつかしい言葉をつかいまくるわけよ」
子供たちが褒めてくれたので、俺は「ありがとうな」と言って子供たちの頭やほっぺをなでる。
「わふー♪ おにーちゃんのなでなで最高に気持ちがえーです~♪」
「にぃの愛撫にみーは骨抜き。ああん、らめー。気持ちよすぎてダブるピースなの~」
「兄ちゃん! もっとなでなさいよ! レイアをいっぱいいっぱい撫でなさい!」「みー!」
そんなふうによしよしとした。
さておき。
「な、な、おにーちゃん! 家おっきくなってるってほんとっ?」
キャニスが目をキラキラとさせながら、俺に尋ねてくる。
「ああ。本当だ。ちょっと見に行ってみるか?」
「「「いくー!!」」」
かくして俺たちは、増築された部分を見に行くことになった。
後編は今日の18時ごろにアップの予定です。




