110.善人、嫁たちとすき焼きを食べる
いつもお世話になってます!
子供たちにすき焼きを食べさせた、その数時間後。
子供たちを寝かしつけたあと、俺たち職員で、ちょっと遅い夕食を食べることになった。
俺たちは孤児院1階ホール、こたつの前に座っている。
エルフ嫁コレット、猫獣人のアム、元受付嬢のマチルダに、鬼の桜華。そして妖小人のピクシー。
俺の嫁や恋人たち全員が、その場にいる。
「それじゃみんな、今日もおつかれさん。たくさん食べてくれ」
こたつテーブルの上には、マジックコンロ(ひねると火属性魔法が発動するコンロ)。
そしてグツグツと煮えた、すき焼きの鍋。
「ジロくんや。先生がご飯を取ってあげましょう」
俺の左隣に座るのは、金髪の美しいエルフ、コレットだ。
彼女はニコニコと笑いながら、器にお肉と春菊を入れてくれる。
ちなみに肉以外の食材は、俺が複製スキルを使って出したものだ。
「そして先生がジロくんに食べさせてあげるだぜ!」
エルフ耳をぴこぴこと嬉しそうに羽ばたかせながら、コレットが笑う。
「コレット。ありがとう。けど俺は自分一人で食べられるから。コレットも味わって……」
「…………」しゅーん。
「あー……じゃあコレットさん。食べさせていただいてもよろしいですか?」
「うん! もちろん」
コレットがエルフ耳をぱたたたたっと嬉しそうに羽ばたかせて、俺の真横にやってくる。
「はいっ♩ジロくん、どうぞっ」
コレットがお箸に挟んだお肉を、俺に向けてくる。
はむっ、と食べると、口の中でお肉が瞬時にとろける。
噛むという行為をするまえに、ほろほろとお肉が、溶けていくのだ。
油の甘い味と、甘しょっぱいタレとが合わさり、口の中に香ばしさと甘さが広がる。
「ジロくんどう?」
「めちゃくちゃ美味しいな……」
俺の味付けが、というよりは、クゥがくれた高級肉がだろう。
国産のお肉もうまいのだが、異世界の肉だって負けてない。高レベルモンスターからドロップする肉アイテムは、格別の味である。
「ジロくんジロくん。お次はお嫁さんに食べさせるのはどうかなっ?」
わくわくっ、とコレットが瞳を輝かせる。
「ああ、良いぞ。おいで」
「ふふっ、じゃあ失礼しまーす」
コレットが両手をくんで、目を閉じ、口をアーンと開ける。
コレットの口の中にお肉を投入。
「んっ。はふっ……あち、あち……ふぅ」
コレットが頰に手を当てて、目を細めて笑う。
「不思議。お肉なのに、氷を口に入れてるみたいに溶けてくるの」
「それだけ上質な肉ってことだろ」
「なるほどなぁ。ジロくんわんもわ!」
すると……。
くいっ、と誰かが俺の腕を引っ張ってきた。
「ジロ……。その、コレットばっかズルい」
赤毛の猫獣人が、ぷくっと頰を膨らませながらいう。
「あたしだってジロのお嫁さんだし。だから……その……」
もじもじ、とアムが身をよじる。
「……あたしにも、ください」
潤んだ目で、美少女がそんなことをいうと、いけないことをさせてるようで良心がいたんだ。
「ほら、あーん」
アムが目を閉じて、顔を近づける。
ぷっくりとした唇が、俺の持つ箸にかぶりつく。
「あちっ……!」
アムが目に涙を浮かべながら、はふはふとする。
「悪い、熱かったな。ヤケドしてないか?」
「ん、らいひょうふ」
アムがごっくん、と飲み込んで、目の端に涙を浮かべて言う。
「ちょっと熱かったけど、とっても美味しかったわ」
「そっか。次からは溶き卵に絡ませて食べような。ほら、あーん」
猫獣人が、またぱくっとお肉を食べる。
咀嚼するたび、彼女の猫しっぽがビーン!と立ちあがり、猫耳がふにゃりと気持ち良さげに垂れさがる。
「ジロのお肉、とっても美味しいわ」
「ありがとう。けど俺は買ってきただけだよ」
アムが微笑みながら、俺の腕に自分の尻尾を巻きつける。
しゅるしゅる……と猫しっぽが生き物のように動いて、肌と擦れて気持ちが良かった。
「ジロさん!今度はわたしが!ジロさんにご奉仕させてくださいー!」
元気よく手を挙げたのは、元受付嬢の人間の少女、マチルダだ。
ふわふわとした長い髪を、三つ編みにしている。
張りのある大きな乳房は、厚着をしていても、その存在を主張していた。
「コレット。どいてください。順番でしょう?」
「嫌よ、と言いいたところだけど、そうね。本当はどきたくないけどもっ」
いつもいさかいあう2人だが、夕食どきだからだろう。
コレットはあっさりと身を引いた。
「ジロさん、失礼します!」
マチルダは俺の左隣に座る。
ふわり、と甘酸っぱい果実のようなにおいが鼻孔をついた。
何もしてなくても、その大きな乳房が、俺の肘にあたってくる。
肘をむしろ押し返してくる。なんという張りだろうか。
「いや、うん。ごめんな触って」
「謝らないでください!むしろご褒美ですから!」
マチルダはひまわりのような明るい笑みを浮かべる。
「ジロさんにならセクハラ大歓迎ですので!」
「そ、そうか。光栄だよ」
マチルダはニコニコと笑いながら、スプーンを使って、豆腐を掬う。
「では失礼してっ!」
マチルダはスプーンを、自分の口の中に入れた。
はふはふさせながら、彼女が俺の顔を両手で包む。
「んちゅっ」
そのままマチルダが、俺の口にキスをしてきた。
「んじゅ、んちゅ、ちゅぷ……」
口の中でマチルダの舌が動く。豆腐が口の中でぐちゃぐちゃになる。
彼女の唾液と、すき焼きタレとがあわさって、極上の甘露になっていた。
「どうですか、ジロさんっ?」
「ええっと……甘くて美味しかったぞ」
「本当ですかっ!わーい、ジロさんに喜んでもらえましたー!」
花が咲くような笑みを浮かべるマチルダ。
「ぐぬぬ、やるわねマチルダ。ジロくん、先生も同じのやりたいのですが、良いですかい!」
「あ、あたしも……だめ?」
嫁2人もマチルダの真似をして、すき焼きの具を口に入れて、俺にキスをしてくる。
「ジローは本当にモテモテだね」
くつくつ、と先輩が笑う。
「……仕方ないです。じろーさん、頼りになる素敵な殿方ですから」
黒髪乙女の鬼、桜華が、頬を赤く染めて言う。
嫁やマチルダたちとともに、俺はすき焼きを食していく。
ややあって、具がカラになる。
「ジロー。締めはウドンがいいな」
先輩がリクエストしてくる。
「ジロくん。締めってなに?」
コレットがお腹をさすりながら言う。ちらりと可愛らしいおへそが見えた。
目があうと、顔を赤らめて、すすすっ、とおへそを隠す。
「最後に食べる料理のことだよ。すき焼きのお鍋にうどんを入れるて食うとうまいんだ」
「そうなんだ。ぐぬぬ……食べたいけど太ってしまう!」
コレットとアムが、ぐぐぐ、とうなる。
「わあ!楽しみです!わたしまだまだお腹に入ります!」
「……おうどん、美味しそうですね」
比較的大食いのマチルダと桜華が、期待に目を輝かせていた。
「まあ食いたくなったら食えばいいよ。無理に食う必要ないさ」
俺は残っている長ネギを、鍋の中に投下。
厨房から冷凍のうどんを取り出して、鍋の中に入れて火をつける。
グツグツと煮えてきたタイミングでいったん鍋の蓋を開ける。
そこに溶いた卵を軽くかけて、蓋をして蒸す。
「よっと。完成」
蓋をあけるとそこには、とろりと半熟の卵がかかった、鍋うどんが完成していた。
「わぁ!すごいです!とっても美味しそう!」
マチルダが歓声をあげる。
ごくり……とふたりの嫁たちが唾を飲んでいた。
俺は先輩とマチルダ、桜華のぶんをついで、彼女たちに手渡す。
「……じろーさん。今度は、わたしが」
控えめに桜華が手をあげる。
「ああ、じゃあ頼むよ」
「……はい。せいいっぱい、ご奉仕させていただきますね」
なんだか別のニュアンスに捉えがちになるが、単に食べさせてもらうだけである。
黒髪美女がうどんを箸で掴んで、俺に向けてくる。
ちゅるり、とうどんをすする。
甘しょっぱいタレが、麺にしっかりとからまっている。溶き卵の濃厚な味わいが加わり、麺が極上の料理へと変貌する。
「……もういっぱい。あーん」
今度は、麺とともに、お肉も一緒に取ってくれた。
鍋に残ったすき焼きのお肉には、たっぷりと旨味成分が染み込んでいた。
じゅわっとタレの甘みと脂の甘みとが渾然一体となり、とろけるような甘さが口いっぱいに広がる。
旨味成分は麺にもしっかり染み込んでおり、コシのあるうどんを噛みしめるたび、じゅわ、じゅわっと甘みと旨みとが滲み出てくる。
「うん。ジローの作る締めのうどんは、やっぱりうまいね。最高だよ」
先輩がにこやかに笑いながら、俺に言う。
前世ではよく、彼女に作ってあげたものだ。
「……本当に、美味しいです。じろーさんのおうどん」
桜華が頰を赤らめながら、ちゅるちゅると麺をすする。口紅に彩られた唇が、油でてかって実にセクシーだった。
「おうどんとっても最高に美味しいです!ジロさんの作る料理はどれも最高です!さすがジロさん!」
ずるずるずる!と豪快に、マチルダが麺をすする。
「ありがとうマチルダ。鼻の頭にあぶらがついてるぞ?」
「えへへ、すみませんっ!」
彼女の鼻頭を、俺がハンカチで拭っていると、
「じ、ジロくんっ」
「あ、あたしたちもやっぱり食べる!」
とコレットたちが、我慢しきれず、うどんを食べたがった。
俺は嫁たちにうどんを振る舞うと、彼女たちは満足そうにと息を吐いた。
「ごちそうさま、ジロくん。とっても美味しかったわ」
「そりゃ重畳。喜んでくれて何よりだよ」
嫁たちが明るく笑っているのを見て、俺は食器を片付けようとした、そのときだ。
はしっ、と先輩が俺の腕を掴んできたのだ。
「じゃあたっぷり栄養をつけたことだし、食後の運動と行こうじゃないか」
ぺろ、っと先輩が怪しげにわらって、舌舐めずりする。
嫁たちが察したような顔になり、みんな頬を染めて立ち上がる。
「いや後片付けがあるんだが……」
「そんなのあとあと!ジロさん!いっぱい汗かきましょう!」
「そうね。いっぱい動いて、カロリーを消費しないとね、ジロくん」
ニコニコしながら、彼女たちが俺の腕を引っ張ってくる。
元気だな、みんな、と思いながら、俺は嫁たちとともに、寝室へと向かうのだった。
書籍版11月15日発売です!
また公式ホームページにて、新刊の案内が告知されました!
https://www.es-novel.jp
6日ごろには試し読みができるようになるそうです。特集も組んでくれるそうなので、その時が来たらまたアナウンスします!
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次回もよろしくお願いいたします!




